修行の開始
次の日、僕は声を張り上げていた。
「違う!もっと威力を強く、魔力の入れ方を制御して!」
パトリスさんが言うには敬語や小さい体ではどうしても相手の心に余裕を生んでしまうらしく、僕は昨日の夜のままの体で敬語をやめ、鬼教官としてみんなに魔法を教えていく。
正直、正しいか正しくないかなんてわからないけど、できることがあるならなんでもやるべきだ。
たった一年しかない。
その一年で、できる限りのことを詰め込んでいく。
それぞれの得意な属性が分かりきっているため、それを伸ばす方法で進めていくのだけど………
朝一番から始めて、今はもう昼過ぎ。
ルーベルナさんとセルフィスさんが昼食の準備をしてくれているが、もうみんなヘトヘトで午後までできるかどうかわからない。
「とりあえず、お昼にしましょう。」
だだっ広い草原の中、僕たちは太陽の下で食事をとる。
しかし、誰1人として喋ることもなく、無機質な顔でご飯を食べ続けているだけだ。
本来はそれを解決するべきだろうが、ひと足さきに僕は食べ終わり、残った休憩時間の中で少し遠くまで飛んでいく。
「この辺りならいけるかな……」
魔法によって黒い壁を作り出し、周りを囲みこむ。
自分で魔法の研究をするための魔法として作り出した黒静障壁は結構使い勝手が良く、ドルティーさんと戦った時のように自分と相手を閉じ込めることもできる。
外部の光は内側に入ってくるため、そこまで暗い空間にもならない。
防御魔法でよく用いられる結界の応用だが、これに関してはリュシアさんからも教えてもらっていない。
その理由は単純で、わざわざ防御を展開するよりも魔法をぶつけて相殺した方が効率がいいのだ。
それこそ防御なんてものは炎や水、氷で壁を作ることでも十分な効果を発揮する。
結界を用いた防御は、使うものによっては空間魔法の練度も大切になってくる。
前方一方向に結界を作るだけなら関係ないが、ドーム状のものになってくると空間の認識能力だったりが必要になるのだ。
さらに、わざわざ結界魔法の術式も学び、作れるようにならなければならない。
これだけやった上に、1番面倒なのが結界魔法の難易度だ。
例えば、僕が今作り出しているこの壁は結界魔法と空間魔法の複合魔法。
毎回毎回結界魔法と空間魔法の術式を作って魔法陣を描いてなんてとてもじゃないがやってられない。相手と対峙している時なんて尚更だ。
魔力効率、手間、技術。どれをとっても使いにくい。
だから僕もほとんど使わないという感じになってしまっている。
まぁ、今は使っているわけだけど………
とにかく耐久力に意識を割いた黒い壁の中で、僕は魔法術式を描いていく。
僕が使える超級魔法は、基本的に詠唱等色々含めると30秒以上を要する。
究極神弦天蓋蒼穹・烈なんていう烈とかカッコ良さげな名前を使っているあれは、ルーベルナさんが作っていたものをそれっぽくやってみただけで威力は上級魔法程度。
烈と言っているのは術式の書き方が間違っていていくつもに分裂してしまっただけだ。
結局、見せかけでしかない。
こんなレベルじゃ、あの時空神に勝つことは到底不可能だ。
描き終わった魔法陣をよく見て、僕は魔法を発動させる。
「超級魔法、天穹星羅幻燈葬!」
そして、魔法が消えると同時にもう一度魔法陣を構築する。
詠唱を破棄する代わりに威力の減少をする制約を作り、即座にもう1発発動させる。
「うっ!」
胸が詰まり、体が疲労を訴える。
まだ、いける………
再度魔法陣を組み直し、再び魔法を放つ。
暗黒の中で、僕は膝をつく。
「はぁっ!はぁっ………」
息を整え、もう一度魔法陣を作り上げようとするも、その途中で魔法陣は崩れ落ちる。
黒静障壁もいつの間にか姿を消し、目から映し出される景色には草原が広がっている。
これが限界か………
たった3回の超級魔法の発動で、魔力切れが起きる。
とはいえ全魔力を注ぎ込むと過去に戻れなくなるため、使っているのは大体1日で回復する分だけだ。
蓄積してどこかに残しておければいいんだけど………
「やっと出てきたか。」
声のする方に目を向けると、そこにはパトリスさんが立っていた。
「今の結界魔法、あまりにも雑すぎないか?
何が起きているのかわからなかったから入らなかったが、私の力でも軽々と壊して侵入できるぞ。」
「内側からの耐久にできる限り特化させていたからだと思います。
外からの受けはめちゃくちゃ弱いのでそれこそ鳥が突っ込んできたら壊れるかもしれないです。」
「本当にそれだけか?」
うっ………見抜かれてる。
「実は………結界魔法が下手だったり………」
「魔力が多いやつにあるあるなタイプだな。ぶっちゃけ、コスパもタイパも悪いからな。」
タイパ…?コスパ…?なんぞやそれは。
「もうあいつらも昼食を食べ終わりそうなところだ。そろそろ戻るぞ。」
……………
そう言って歩き始めるパトリスさんを目だけで追っていく。
「どうした?」
振り返りつつ、その人は少し呆れ顔を浮かべる。
「そういうことか……訓練をするなとは言わないが、あまり無茶をするなよ。」
肩を貸してくれるパトリスさんにありがたく捕まり、僕たちは歩いていく。
あれ?転移魔法とか使った方が早くいけるんじゃ………
「とにかく、倒れるまで魔法を使うのはやめておけ。体に負担をかけるだけだ。」
正直、パトリスさんの言っていることは間違っていない。でも、僕も言っておきたいことがある。
「さっきまでの魔法の練習中、みんなの辛そうな顔を何度も見ました。
みんなに教えている立場の僕が甘いことしてられませんから。」
「絶賛手を借りている状況だがな。」
冗談っぽく言うパトリスさんに、ははっと苦笑する。
「あいつらの思い、受け取ってくれてありがとう。」
ぼそっとつぶやかれたそんな言葉を聞いて、僕は小さく頷くのだった。




