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40.目標

「ん……ぐっ……」


身体が軽く(きし)むような感覚を解消するため、目を閉じながら上体を起こし伸びをする。


体には布がかかっているが、服越しに感じる地面が砂の上である事を伝えてくれた。


どうやら、訓練場の中でそのまま寝てしまっていたようだ。……あれ。


(……なんで、布がかかって……?)


閉じていた目を(ひら)きそれを確認すると、やはり布が身体にかかっている。見覚えのない、綺麗な無地の布……布団代わりだろうか。


「起きたか」

「……ガドル、さん。おはようございます」


(いか)つい大男が持っていた大剣を逆手に持ち、こちらに向けないようにして近付いてくる。そうか、訓練場の中って事はいるよな。


「おう、おはよう」

「これってガドルさんのですか?」


布を持って立ち上がると、俺の質問にガドルは相槌(あいづち)を打ち、布を回収して空間魔法にしまう。


「もう(ひと)眠りしたけりゃ、ちゃんと部屋で寝とけ」

「……次から気をつけます」


言いながら訓練場の中心へ向かって歩き出す彼の下半身の服には、軽く砂が付いていた。


大剣を持ってはいたが、息も整っていた事も考えると振ってはいなかったのだろう。


いつもの起床時間の通り太陽すら出ていない時間だが、彼の日課の邪魔になってしまったかもしれない。


「あの、ガドルさん」

「……?どうした」


その背中に置いていかれないよう、軽く着いていき問いかける。


「俺って、監視されるためにガドルさんのとこでお世話になってるんですよね?」


「……あん?まあ、()()()な」


返答によっては聞こうとしていた事を先に言われてしまい、次の言葉に詰まってしまう。


「お前も分かっちゃいるだろ?別に、特殊スキルがあろうが保護なんてする必要はねえ」

「じゃあ、なぜ俺は……」


続け(ざま)に言われた言葉を聞いてかろうじて疑問を紡ぐが、ガドルは予想していたかのように(よど)みなく答えてくれた。


「強いて言うなら、気紛(きまぐ)れだ。試験の合否は兎も角、他にもお前みたいのはいるからな」

「……き、気紛れ……」


ガドルは比較的ゆっくりと大剣を持ち上げ、構えを確認するように振りながら話し続ける。


「ただ、セフィーの方に行くような奴は送り返すか、身寄りがなけりゃ孤児院(こじいん)に送ってるが」


「それは……。……いや、あの対応で行く人いないと思うんですが」


自分にとって地雷(じらい)だった選択肢のネタばらしをされ、無意識に回避出来ていた事にほっとしたが………冷静に考えると踏まない地雷だ。


お前のママになるんだよ!と言われて、はい子供にして下さいなんて言う奴がいるとは―――。


「俺か、セフィー。メランが言うには、お前くらいの歳だとセフィーの方を選ぶらしいぞ」


―――なるほど、消去法か。確かに、ガドルかセフィーなら、強面(こわもて)の男を選ぶ子供はいないような気がする。


とはいえ、ガドル程度でビビっているようなら確かにやめた方がいい。その程度のメンタルなら、魔物相手に何も出来ずに死ぬだろう。


「……合否に関わらず……」


そう言えばガドルは有名な家の出、みたいな話もコルチから聞いた覚えがある。試験に不合格でも、本気で冒険者になりたい奴ならガドルを選ぶという事だろう。


「……大剣に突っ込んで来るようなガキに限っては、俺が引き取るけどな。孤児院に迷惑かけられねえから」

「うっ……」


確かに孤児院で預かっている子供が問題を起こせば、孤児院が不利益を(こうむ)るのは容易に想像出来る。


問題を起こすつもりはないが、手元に置いていた方が問題が起きても対応しやすい、という事だろう。……問題を起こすつもりはないが。


まあ、行けてもセフィーの所に行く気は無かったし、結果的には好都合だった訳だが。


「……ま、お前が出ていきたくなったら何時でも出ていっていい。その時はあいつらに挨拶くらいしとけよ」


……まあ、こんな質問をすれば出ていきたいのだと思われても仕方ないだろう。取りうる選択肢としては存在するので、あながち間違いでもない。


「はい。……でも、暫くはお世話になるつもりです」


とはいえ、昨日までだったら出ていく準備が出来たかもしれないが、目標が無い事を自覚した今、その選択肢を取る勇気はない。


やりたい事が見つかるまでは、少女の立場に甘えてもバチは当たらないだろう。俺はこの世界で、間違いなく子供なのだから。


(わり)ぃな、急かした訳じゃねえ。ただ、(わけ)えんだから焦んなよ」


そう言って大剣を振るうスピードを上げていくガドル。なんとなく見透(みす)かされている気がしたが、笑って誤魔化した。


そして、もうひとつ疑問に思っていた事を聞いてみる。


「……。ガドルさんって、おいくつなんですか?」


「セフィーと同い年だ」

「え……!?」


セフィーかガドル、どっちに驚けばいいのかわからないが……え、同い年……って、いくつだ!?


「ま、気になるならセフィーに聞けよ」


軽く口角を上げながらそう言い放つガドル。……これは、どっちも教えてくれなそうだな。


異世界の見た目年齢の当てにならなさに驚愕しつつ、これ以上邪魔しても悪いので、ガドルに別れを告げてからギルドへ向かう事にした。



龍の雫にて、いつも通り人のほぼいないギルドへ入る。何かの準備か、書類整理か。


兎に角忙しそうなメランとセフィーを傍目(はため)に、掲示板を物色(ぶっしょく)しながら物思いにふける。


考えるのは昨日の続きだ。俺の目標、それを決めたい。


(……レベルアップする事を目標にするのもな)


そもそも、普段の行動でもスキルの発生や成長が出来るなら、レベルアップによる影響はHPとMPくらいだ。


確かにメリットではあるのだが、長期的な目標設定としてはいささか物足りない。


ハードな物がいいという訳でも無いが……だからといって考えても自分のやりたい事が思い浮かばない俺は、じっくり依頼を眺める。


(悩みが無いのが悩み、なんてのを馬鹿に出来ないな、これじゃ)


したい事を見つけたい。


そんな遠回りな欲求を満たすため、つまり考える余裕を作るために、早めに終わらせる事の出来るラット退治を選ぶ事にした。

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