16.同居
鉄格子から差し込む光で、部屋全体がぼんやり照らされている。
「ん……」
――よく、眠れた。
まともな寝床で寝た事が無かったから身体が楽だ。今までが床とか地面でしか寝ていなかったため、まともな寝床が本当に大切だと判らせられる。
俺はベッドの端まで転がり、勢いをつけて立ち上がる。そして、未だに半覚醒の意識を呼び覚ますため腕を大きく真上に上げて伸びをし、首を回して調子を整える。そして、少したわんだベッドシーツを伸ばした。
一応、姿見の前でちらりと自分の姿を見る。寝た時と同様灰色のローブだが、これが俺の一張羅だ。
正直確認する物なんて特にないな、と自分の持ち物の少なさに苦笑いしつつ部屋を出た。
「つっても……」
今までは森で食料探しだったりをせざるを得なかったが、ガドルの世話になっている現状、何をするかわからなくなってしまった。
目的と言える目的……昨日は後回しにしたが、一応の目標はある。自分1人で生きていけるように、つまりは自立する事。
「まず、金を稼げるようにならないとな……」
いろいろと考えながら闘技場を覗くと、ガドルと知らない少女が話しているのが見える。
声をかけてみようか迷っていると、ガドルが手招きをしてきた。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
ガドルが挨拶をした直後、隣にいた黒髪ツインテールの女の子もこちらを見て口を開く。
「黒髪、猫亜人!貴女がツクモの姐御っスね!」
「え、はい……?」
下っ端感が滲み出る口調で話しかけてくる彼女。雰囲気に押されてつい相槌を返したが……姐御ってなんだ。中身はともかく、見た目なら少なくとも俺の方が年下だと思うが。
彼女はガドルに話しかけながら、俺をじろじろ観察する。
「ガドル兄貴の腕切り飛ばしたって聞いてヤべーの想像してたっスけど、ふつーの女の子っスね」
「そう言ってただろ」
「ここまで若いとは思ってなかったっス」
そう言うとこちらに近付いてくる女性……というか、少女。俺より少し身長が高く、すらりとしつつも女性らしさを感じるシルエット。
「正直ごついの想像してたっスけど」
年齢は……14か15くらいだろうか。色々気になる事があるが、彼女はローブ越しに俺の肩から腕にかけて触り始めたため、思考を中断する。
「……あの、何を……」
ふむふむと何かを確認した彼女は話し出す。
「ツクモの姐御。兄貴に身体売っちゃ駄目っスよ」
「……は?」
「1発ぶん殴ってやろうか、コルチ?」
ガドルは当然と言えば当然だが、ちょっと呆れている。突拍子もない発言に戸惑った俺を他所に、コルチと呼ばれた少女は続ける。
「ローブ1枚で何も着てない少女……きっとガドルの兄貴の兄貴が暴走してその口止めに登録したって所っスね!」
突飛な推理を披露してくるコルチに、なんとかそう思い至った理由を考察する。恐らく、彼女の中ではガドルがロリコンに仕立てあげられているのだろう。
「この格好は元々なので、ガドルさんは関係ないですよ」
「えっ、趣味っスか?」
自分にも多少は非があるだろうけど、このコルチって子、失礼だな。
誤解をどう解くか迷っていると、ガドルが補足してくれた。
「そいつ、記憶喪失らしいんだよ」
「へー……ん?記憶を無くしても服は無くさないんじゃないっスか」
「いや、服は着てるので」
このままだと裸だと誤解されかねなかったため、言葉を遮って羽織っていたローブを脱ぐ。すると、ツインテールの少女は一瞬固まり俺の顔を見て……目を逸らし、一言。
「……独創的な服っスね」
昨日の試験の時も何も言われなかったので、異世界ではこのくらいの格好は許されていると思ったが、コルチという少女の反応を見て流石にやってしまったと後悔する。
「えーと……コルチさんが相部屋の人ですか?」
俺はいそいそとローブを羽織り直し、誤魔化すように気になっていた事を聞く。すると、彼女は再度こちらを見て話し始める。
「そうっスね。兄貴のとこでお世話になってる同士っスから、そんな堅くならなくていいっスよ」
「……そうだったんですか」
口調はちょっと癖があるが、ずいぶん人懐っこい子だ。賑やかなのはいい事なのだろうが、ぐいぐい来るタイプは異世界での対人経験の少ない自分には少し荷が重い。
というか、部屋にあった姿見はガドルではなく、この子が使っていたのか。そう考えると色々納得がいくが。
「そうだ。ツクモの姐御の登録証、見せて貰っていいっスか?」
言われて思い出したが、冒険者の登録証を貰っていない。そのため返答に困っていると、しばらく黙っていたガドルが口を開く。
「……あー、まだ貰ってねえんだよそいつ。丁度いい、ギルドに連れてってやれ」
「あ、そうなんスか。了解っス。ツクモの姐御、行きましょ!」
そして、俺はコルチに手を引かれるまま闘技場を後にした。




