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14.夕暮

仰向けになっているため、空が赤く綺麗に見える。どうやら外は夕方になっていたようだ。


結局、俺は落ち着いてお姫様抱っこ……横抱きを受け入れる事にした。受付嬢2人の微笑ましいものを見る目で、恥ずかしがる方が羞恥が増すことを知ったからだ。


……いや、他にも理由はある。


大男(ガドル)に抱えられると俺の立っている時よりも視点が高いので、かなり地面が遠く感じる。太腿は固定されているため、もし落ちれば頭から地面に真っ逆さま。正直、怖い。


恥ずかしさと頭から落ちるのはどちらが嫌か、なんて比べるまでもない。寄りかかっているのはそのせいであり、甘えている訳では無いのだ。


右腕をもがれた経験があるのに何を馬鹿なと自分でも思うが、現実的に痛いのはそれはそれで嫌だ。


(それにあの時は絶対正気じゃ無かったし……もう絶対やらないからな……)


横抱きをされたまま誰に指摘されたでもない行為の言い訳を考えていた俺は、いつの間にか試験を行った闘技場の前へと着いた事を知る。


そのまま入るのかと思ったが、ガドルは闘技場の外壁を回り込むように進んでいく。


暫く歩くと俺を降ろし、外壁に唐突に付けられていた扉を開けた。中は階段になっていて、ガドルはそれを上がるよう手で促してくる。


「中にベッドがあるから休んでろ。飯持ってきてやる」

「……ありがとうございます」


去っていく背中を見送り扉を引くと、部屋へと続く階段が数段。少々疑問はあるが、用意された部屋に文句を言ったりはしない。むしろ、部屋は比較的まともだった。


「でも、どんな設計だよこれ……」


部屋に入ってまず目に入るのは、大きめのベッドと書き物机のようなもの。それらは1つしかないが、相部屋と言っていた筈なのでガドルのものだろうか。


部屋の奥の壁には鉄格子で区切ら窓……のようなものから空が覗いていた。高くてそのままでは見えないが、位置関係を考えると闘技場の中が見えるのだろうか。


まあ、探せば気になることは尽きないが、ガドルの言葉通りに休ませて貰おう――と、ベッドへ腰掛けると。


「あ゛っ!?」


突然、鋭い痛みが尻の付け根に伝わる。何事かと思い立ち上がるが、理由はすぐに判明した。


「くっそ、そうか……」


今着ているローブは当然人間用……いや俺も人間だが、普通の服に尻尾を逃がす所なんて無い。ローブを着たままだったせいで尻尾を巻き込んでしまった。


立っていたり寝ていた時は気にしていなかったが、座る場合は尻尾が逃げる場所が無くなるようだ。


「……くそ、不便」


尻尾を腰から回すように前に持ちながらふと部屋を見渡すと、ドアから見て隣の部屋の角に大きな姿見(すがたみ)と丸椅子があった。


それを見てガドルの


「……身だしなみとか気にするのか?」


言っていて大変失礼だとは思うが、適当な服を着ていた彼がお洒落とは思えない。短髪ではあったが、立っていた髪はセットしていた訳では無く地毛だろう。


筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)という言葉で表されるようなあのガタイには、サイズも合っていない気がする。


「……まあ、俺が言えた義理じゃないか」


自分よりも二回りは大きい姿見の前に立つ。そういえば、自分の姿をまともに見たのはこれが初めてだ。


「おおう……」


若い。むしろ、幼いと言っても申し分ない童顔(どうがん)


頭髪は尻尾と同じで黒く、同じ色の猫耳がピンと伸びるように生えている。試しに触ると自分にも触られた感覚があり、鏡の中の少女が自分であると理解してしまう。


灰色のローブを纏い、苦虫(にがむし)を噛んだような表情の黒猫少女。


「これ、が。今の俺か」


夢ではない事は今まで味わった痛みが証明してくれているが、その事実があって尚、夢であって欲しいと願っている。いっそ受け入れてしまえば楽なんだろうが、それを出来るなら腕を切り飛ばされてまで娼館を嫌がったりしていない。


指で口の端を持ち上げ、鏡に向かって笑顔を作る。


「……いや、阿呆か。これ自分だから贔屓目(ひいきめ)なだけだな」


少し可愛いと思ってしまったが、ふと冷静になって姿見に背を向ける。


この異世界基準では普通の顔立ちだろう。受付のメランさんとか、セフィーさんの方も黙っていれば美人。


「というか、自分見て何考えてんだ俺は……」


このままだとドツボにハマりそうだったので、ステータスを見て気を紛らわせる事にした俺は、今度は踏まないように尻尾を横から回してベッドに腰掛けた。


――――――――――

名称:ツクモ

性別:♀

Lv:4

種族:亜人(猫)

状態:正常

HP:66/66 MP:80/80

戦闘スキル:

【高速思考.lv2】

スキル:

【魅力.lv1】【鑑定.lv4】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv2】【観察.lv1】【体術.lv2】【鈍器使い.lv1】【自然回復.lv1】【根性.lv1】

特殊スキル:

複魂(ふくこん).lv1 1/1】【道連れ.lv2】

――――――――――


――――――――――

【高速思考.lv2】

五感を研ぎ澄ませ、体感時間を引き伸ばす。使用中はMPが減少する。

――――――――――

――――――――――

【観察.lv1】

視覚から情報を得易くなる。

――――――――――

――――――――――

【隠密.lv2】

気配を消す。

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――――――――――

【体術.lv2】

身体の動かし方を理解している。

――――――――――

――――――――――

【自然回復.lv1】

HPの自然回復能力が上がる。

――――――――――

――――――――――

【根性.lv1】

HPが0でも意識を保つ事が出来る。

――――――――――


――――――――――

【道連れ.lv2】

自身が30秒以内に受けた身体的欠損を指定した1体と共有する。同じ身体的欠損に対して使用する事は出来ない。

――――――――――


「あれ、色々増えてる」


レベルが上がりHPやMP、スキルも増えている。


いつも通り新しいスキルと成長したスキルの詳細を出すが、成長したスキルは殆ど内容が変わっていないようだ。


「【道連れ】が上がってるな……当たり前か」


スキルの上がる条件は分からないが、このスキルが上がったのは妥当だろう。というか、右腕が吹っ飛んで上がらないなら一生上がることはないだろう。


今までは怪我をしてから5秒という余裕のないスキルだったが、これで多少は使いやすくなったのではないだろうか。猶予が6倍になっても、極力使いたくないスキルだが。


「……【隠密】は街中で上がって、【体術】はガドルとの戦いで上がった。ってことは、スキルは使えば上がるって事だよな」


新しく覚えたスキルは【観察】に【自然回復】に【根性】。


【観察】は見た物から色々気付けるという事だろう。今までも見た物から推測はしていたが、スキルとして形になったというところか。


【自然回復】は言わずもがな、傷の治りが早くなったりするのだろう。HPが自然に回復するなら、そこそこに便利。


ここまでは別にいいのだが……【根性】。自動発動(パッシブ)なのだろうが……このスキルが育たない事を祈ろう。なんなら使う場面も来て欲しくない。HPがゼロになるような状況で意識を保つなんて、正直勘弁だ。


そのままステータスを弄っていると入口の方から足音が響き、この部屋の扉が開かれる。


「飯持ってきたぞ」


両手に皿を持ち、バスケットの持ち手を器用に指に引っ掛けたガドルを見て、俺はステータスを閉じて器を受け取った。

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