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この世界よりも、あなたを救いたい~幸運がいつもあなたのそばにあるように~  作者: kinon
第11章 守るべきもの、切望するもの
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冷たい仮面の下に③

「私は答えを出した…きみの答えを、聞かせてほしい」


 リージェイクの問いに、ジャルドが深い溜息(ためいき)をつく。


「私は…一族の繁栄を願うために、今まで自分が行って来たことに後悔はない。だけど、この先も続けるなら悔やむことになると…認めるよ。一族の者たちが私に望む要望があれば全て受けよう。どんな(ばつ)でもね」


 声をなくしたかのように隣で立ち()くしていた奏湖の(こぶし)が、テーブルを叩く。


「いったいどうしちゃったのよ! 自分が何を言ってるかわかってるの…!?」


 ジャルドが、ゆっくりと奏湖を見る。


「きみにもわかるはずだ。君の愛した男は、架空(かくう)の自分自身を演じていたんだ。冷たい仮面を(かぶ)ってね。それも、もう終わりだ。ヴァイのリシールは、今から自由だよ。『ジャルドの支配」に(おび)えることはない」


 奏湖の()が、驚愕(きょうがく)と怒り、そして、愛(ゆえ)の炎に燃える。


「私は信じない。今は少し…リージェイクと浩司に(どく)されちゃってるだけよ。きっともとのあなたに戻るわ。だって、あなたがそんな…」


「私の存在が一族の者を苦しめている…それを一番止めたかったのは私自身だった。奏湖…きみに謝らなければならない。私がラストワから()いだ思想と支配体制に、より強い影響を受けたのはきみだろう。それが(まぼろし)と知って…失望ではなく安心してほしい。勝手な願いだけどね。ここにいるのは、もうきみの知る私じゃない」


「ジャルド…」


 奏湖は、ジャルドの(ひとみ)の奥に何を見て、何を見ようとしなかったのか。


「私の知るあなたも…まだいるわ」


 奏湖の視線がリージェイクへと移る。


「一族の繁栄を願わないなんて、ほかの継承者たちが納得しない。一族の多くも…お姉ちゃんだって…」


「私も同じ考えよ」


 汐の声に驚いて続き部屋のドアへと目を向けたのは、キノと涼醒、そして、ジャルドと奏湖だった。浩司とリージェイクが、互いを見やる。


「おまえと汐は、始めから…」


「護りを奪うつもりはありませんでした。ジャルドも…私がここへ来た時から、内心こうなることを予測していたはずです。決して顔には出しませんが…」


「俺には、あの男がわからない。言うこと全てが本気に聞こえたからな」


「彼も、あなたをそう思っているでしょう。心を見せぬ男だと」


「俺は本気だった」


「…ジャルドも」


 リージェイクがうなずくと、浩司は汐へと視線を移した。テーブルの前で足を止めた汐が、奏湖を見つめている。


「ジャルドが(あきら)めなくても、浩司が賛成するとしても、一族の繁栄が願われることはない。リージェイクと私は…浩司が現れる前から、そう決めてたのよ。奏湖…あなたに黙ってて…ごめんなさい」


「お姉ちゃんまで…みんなどうかしちゃったの? 紫野希由香のところにいる者たちは? 彼らも…?」


「部屋に入ってすぐに、眠らせてあるわ」


 無言で汐を見据えていた奏湖の(ひとみ)が、徐々に遠くなる。


「もう…何がどうなってるか、私にはわからない。リージェイクもお姉ちゃんも、ジャルドも…好きにしたらいいわ」


 誰もが自分に目を()める中、奏湖はキャビネットからタオルを数枚取り出すと、ふらふらと部屋を横切り、キノたちの手前で立ち止まった。テーブルの下へと(もぐ)り込み、床に着いた血を(ぬぐ)い始める。


「涼醒。キノを向こうに連れて行け」


 浩司の険しい声にわずかに遅れ、血溜(ちだ)まりを()けるために後ろに引いた椅子からキノが腰を上げた。


「希音…!」


 涼醒が声を上げる。


「涼醒君、希音さんから離れて。早く!」


 キノの腕をつかんだ奏湖が素早く立ち上がった。血のついたナイフを、キノの手首から首筋へと移動する。


「奏湖…」


 悲痛な表情で漏らすジャルドのつぶやきは、奏湖に届いてはいない。立ち()くす涼醒を(わき)に押しやり、浩司が一歩近づいた。


「話し合いはもう終わったんだ。馬鹿な真似はよせ」


「来ないで! 私は本気よ」


 ナイフを持たないもう一方の手でキノの腕を取り、奏湖が後ずさる。否応(いやおう)なく足を後ろに進めるキノの()(おび)えはない。(あらが)う気配すら見せずに、悲し気な眼差(まなざ)しを奏湖に向けている。


「今更、キノを(おど)して…おまえは何を望む気だ?」


「決まってるじゃない。護りの力で9人の継承者を(そろ)えるのよ。今は(あきら)めたようなことを言っていても、ジャルドはそれだけを望んで来たんだもの。全てが嘘だったなんて…私は絶対に信じない。私は…」


 浩司に答える奏湖の声が、震えながら沈黙に消える。


「奏湖さん…私はジャルドをよく知らないけど、今の彼と昨日までの彼は…同じ人よ。嘘もあったかもしれないけど、ちゃんと本当の彼も知ってるでしょ?」


 奏湖が驚いたようにキノを見る。


「そうよ、だから私は…」


「彼のために護りがほしいなら、(あきら)めて。ジャルドは護りを手に入れたかった。それは本当だろうけど、今はもう望んでないよ」


「あなたに何がわかるの!? 護りを見つけてラシャに戻すことだけが、あなたの使命なんでしょう? 私たちのことに口を出さないでよ。一族の繁栄を願うことは、私自身の望みでもあるんだから。さあ、護りに祈って…『今ヴァイに存在する、まだ覚醒していない継承者を…この館に』と」


「…嫌よ」



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