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寝ている時の尿意ってなんで我慢できないんだろう


 

 

 

 

 

 どのくらい寝たのだろうか。

 まだ外が暗い中でふと目が覚めた。

 まぶたを開ければ部屋の中は仄かに明るい。

 

 トイレに行きたい。

 しかし眠たい。

 でもやっぱりトイレに行きたい。

 

 ふっかふかでぬっくぬくのお布団から出たくないのにトイレに行きたい。

 

 (……これは困ったぞ)

 

 暫く布団の中で転がるが尿意は無くならない。

 俺は仕方なく布団から起き上がる。

 ふと、隣を見たら魔王様と黒髪の青年が居ない事に気づいた。

 

 (あぁ……やっぱり、俺は必要なかったんだな……。)

 

 心臓がある部分がキュッとなった。

 もう傷付く心なんて無かったと思っていたのに優しくされたから、期待をしてしまったんだ。

 

 (俺は……。

 ……いや、もう考えない事にしよう。あれは全て夢だった。

 それよりもトイレに行こう)

 

 俺は立ち上がって、空の2枚の布団を横目に歩き廊下へと続く襖を開けた。

 

 襖を開けたその先の光景を見た俺は思わず思考が止まった。

 

 目の前ではくすみがかった緑色の髪の女の子がお尻を突き出した状態で床に突っ伏している。

 

 その横では魔王様がフライパンを振りかぶっていて、更にその横では黒髪の青年が四角い箱の様な物を手のひらに浮かべて立っている。

 

 (なんだこのよく分からない状況は……。)

 

 俺が襖を開けたまま固まっていると魔王様がこちらを見る。

 フライパンを持っていない方の手で唇に人差し指を当てシーと言う。

 

 (あ、えーと……?何も話さなければ良いんですね?)

 

 こくこくと俺が頷けば満足そうに頷く魔王様。

 そうして顔をくすみがかった緑色の髪の女の子の方に向けた魔王様は結構なスピードでフライパンを振り下ろした。

 女の子のお尻に当たった瞬間、パァァァァンッと物凄く良い音が鳴る。

 

 「ん"ー!!」

 

 くすみがかった緑色の髪の女の子の口には何も貼られていないのにピッタリと唇が閉じられていていて話せなくなっているらしい。

 くぐもった声が聞こえる。

 

 (何かの魔法だろうか?

 あ……その前に尿意が限界来そう……!!)

 

 目の前のことに驚いて一旦引いていた尿意が復活してきた。

 これはやばいと壁伝いに歩く。

 

 「トイレはそこの渡り廊下曲がって左ですよ。間に合うといいですね」

 

 黒髪の青年が爽やかな声で教えてくれるのは良いけど、まるで間に合わないことを願っているみたいに聞こえるのは何故なんだろうか?

 いやその前に本当にトイレ……!!

 

 俺は内股になりながら急いでトイレに向かう。

 この時に走ってはダメだ。

 何故ならば走った瞬間重力に従って膀胱から出たモノが男の象徴を通り液体が飛び出てきてパンツの中がスプリンクラーになってしまうからだ。

 そうなればもう一巻の終わり。

 

 (と言うよりもなんでこんなにトイレ遠いの……!!

 本館じゃなくて離れだから!?

 もっとトイレ近くてもいいと思うんだ……!)

 

 内股で前屈みになりながらトイレに着いた。

 いざ入ろうとして目に入ったのは戸に浮かぶ赤い鍵マーク。

 

 「……ウソだろっ!?」

 

 赤い鍵マークが浮かぶという事は誰かが入って鍵を閉めているわけで。

 俺は完全な内股になって片手で股間を押さえつつ戸の前で待つ。

 

 10秒経過。

 

 出てこない。

 いやっまぁっさっき入ったばかりかもっしれないしっ!!早く出てくれ……!!

 

 30秒経過。

 

 まだ出てこない。

 まだっ!1分立ってないしっ!!大かもしれないよなっ!早く!!

 俺の限界が来る前にっ出てくれ!!

 

 1分経過。

 

 あ"ー!俺の膀胱がヤバいです!早く出てくださいっ!!マジで!!

 便秘かもしれないけど早くっ!!

 というかなんでトイレ個室しかないわけ!?

 しかも個室が一つとかっ!

 嫌がらせですか!?

 男性用の小便器も置いてくれていいんですよっ……!!

 

 3分経過。少しでも遅らせるため俺は股間を押さえたままその場に膝をつく。

 

 し、死にそう……!!俺の膀胱が破裂するっ……!!

 俺の膀胱頑張ってくれっ!!今ここで出したら最後の何かを失ってしまう気がするっ!!

 

 5分経過。

 

 ……えーとアレだ!確か直角は180度だから円周は360度で、あれ?直角って180度だっけ95度だっけ?いや待てもしかしたら90度かもしれない。

 あれ……自信が無くなってきたぞ?トイレ行きたい。

 待て待て待て、円周が360度だから半周は180度でだから90度であぁ直角は90度か。そんな事よりもトイレ行きたい。

 

 我慢していたその時、ギュルルルルルルッとお腹から凄い音がした。

 固形のものが外に出ていこうとするこの感覚。

 

 ヤバい。これは……アレだ。

 おっきい方まで来てしまった……!!

 ヤバいヤバいヤバいこれは本当にヤバいヤツだ……!!

 頼む俺のお尻持ってくれ……!!

 が、頑張って意識を逸らすんだ俺……!!

 えーと!?えーと!!あっ!久しぶりにお好み焼き食べたいっ!ソースが恋しいです!

 たこ焼きでもいいなっ!焼きそばもいいなっ!!

 

 あ"あ"あ"ーーー!!!限界が来てしまいますよぉぉぉぉ!!

 何コレ!?イジメ!?俺が何したっていうの!?

 えっ。もしかして勇者業辞めて魔王軍に転職しようとしたから!?

 天罰でも下ったの!?

 

 ふと、視界の端に鉢植えがあるのに気づいた。

 

 「……。」


 俺は考えた。

  

 「……そこの鉢植えさん。キミって植物を抜いたら丁度いいくぼみになりそうだよね……。」

 

 決壊間近なせいで鉢植えに話しかける。

 

 「とても良さそうな土だよね、きっと。ねぇ、キミの中にしていいかな……。」

 

 とにかく早く出したい。

 俺の頭の中はトイレに行って、我慢しているものを解放したいという事しかない。

 

 「こんなに我慢したんだ……。ちょっとぐらい、してもいいよね……?」

 

 我慢しすぎて流れる額の汗を拭うことも出来ずにジッと鉢植えを見つめ、話す。

 

 「いやダメだ……!そんな事……!!人間としての尊厳的な何かが無くなるっ!!」

 

 頭を振ってその考えを振り払う。

 

 そんな事をしたらこの地域の笑いものになってしまう……!

 この地域だけじゃなく上司になる魔王様まで笑いものになるかもしれない……!!

 

 俺は頑張って耐えた。

 赤い鍵マークのついたトイレの扉の前で背を丸めた状態で股間を押さえ、冷や汗だか脂汗だか分からないけど我慢しすぎて流れる汗を拭くこともせずに、ひたすら我慢した。

 

 

 

 10分は経過しただろうか。

 

 (いや遅すぎだろ!?

 待って待って待って待って本当にヤバいんだって!!

 誰だよ入ってんのッ!!)

 

 俺は意を決して戸をノックしてみる事にした。

 

 コンコン

 

 返事はない。

 

 「……ノックし返すくらいはしてくれ……!!漏れるっ!!色々もれる……!!!」

 

 コンコンコンッ

 

 何度ノックしても返事はない。

 

 (……これはもしやヒトがいないのでは……?

 いやでも鍵マーク付いてるし……!!)

 

 流石に限界を超えていた俺は震える手で戸に手をかける。

 引いてみるとキィッと音が鳴って戸が開いた。

 

 「開いてたのかよぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 そう、小さく叫んでしまった俺は悪くないと思う。

 よく見れば先に入っていたヒトが出た時に間違って鍵ボタンを押していたのだろう。

 ストッパーみたいなのが出ていたせいで鍵マークが付いていたと。

 

 (前に入ったヒトちゃんと確認してくれっ!!)

 

 俺は前屈みになりつつ震える足を進め、急いでトイレに入った。

 

 

 

 カチッカチャン

 ちゃんと戸を閉めた事を確認。

 鍵ボタンを押しなおす。

 

 震える手で浴衣をたくし上げパンツを下ろしたと同時に便器に座り……。

 

 

 

 

 

 

 

 スッキリしました。

 ここは、天国ですか?

 

 

 もうこんな思いは嫌です。

 

 手を洗ってトイレから出てきた俺は部屋へと戻ることにした。

 

 (なんかもう疲れた。勇者業の時の戦いよりも疲れた気がする……。)

 

 行きは急いでいたので見る事が出来ていなかった渡り廊下の中庭をゆっくりと歩きながら見る。

 

 中庭にはどういう風になっているのか分からないけども、段々になった小川が流れていて水溜まりに金色の魚が泳いでいる。

 光源が渡り廊下の下にあるみたいで仄かに照らされて暗闇の中、浮かぶ光景に心が癒される。

 ような気がした。

 

 何か忘れているな。なんて思いつつ廊下を歩く。

 途中、右に曲がる廊下があったのだが真っ直ぐに来てしまった。

 

 「……あれ?ここは、何処だろう……?」

 

 いつの間にかに渡り廊下から普通の廊下に変わっていた。

 見事に迷ったようだ。

 

 (さっきの所曲がった方が良かったのかな……。

 どうしようか。もし引き返してもあの部屋に誰もいなかったら……?

 俺は、要らないんだと……。)

 

 俯いてその場で立ち止まる。

 泣かないように目をきつく閉じていたら突然、膝裏に衝撃が走りバランスを崩した。

 

 「っ!!」

 

 後ろに倒れる。

 廊下に無様に倒れるんだと、覚悟していたのに衝撃が来ない。

 それどころか両脇を誰かに持たれている感覚がする。

 

 「……?」

 

 固く瞑っていた瞼を恐る恐る開けてみた。

 

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