毒を吐く
《 お題 》
『そうだったっけ、覚えてないや』をお題にして140文字SSを書いてください。
【結婚記念日】
妻は昨夜からビーフシチューを仕込んでいた。
冷蔵庫には白ワイン。
牛には赤だって何度言っても覚えやしない。
意思疎通はすぐ諦めた。
退社時間に電話した。
「残業で遅くなるから」
横で女のくすくす笑い。
「早く帰るって約束したのに」
「そうだったっけ、覚えてないや」
人生の墓場に入った記念日なんて。
《 お題 》
『暗い』を最初に使ってSSを書いてください。
【御伽噺】
「暗いえたいの知れない何かに怯え、世界で一番勇敢な男は死んでしまった。ところが男が恐れたのは、男の影に過ぎなかったんだよ!」
御伽噺のあっけない結末に、僕はははっと笑ってみせた。
恐れるなんて!
光溢れる温かい部屋。団欒の時間。
床に刻まれる影こそが僕自身。
偽りない安寧の常闇なのに!
《 お題 》
「早朝(または朝)のデパート」で登場人物が「探す」、「汗」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【迷う】
愛猫がするりと逃げ出した。
薄明にぽっかり開いたデパートの搬入口に、
ちりん、ちりんと鈴の音を残して。
僕は慌てて後を追った。
高い天井の薄闇から、煌々とした灯の下へ。
取り取りの品物の間をぬって、静寂の中を探す。
汗が伝うほど追い続けているのに、届くのは鈴の音だけ。
閉じ込められた刹那の中。
《 お題 》
〔君と眠るベッド〕です。
〔句読点以外の記号禁止〕かつ〔手触りの描写必須〕で書いてみましょう。
【ベッド】
泉に石を落としたような広がる波紋。
その中心で微睡む君。
汗にしっとりと濡れたリネンの感触。
粗い糸目が熱を呑み込む。
夜の薄掛けを纏い静寂に身を浸す時、僕は君を忘れ一人常闇に沈む。
この手に残る温もりの感触を振り払い、僕を包み癒してくれる冷ややかな帳を求めて。
この、君と眠るベッドの上。
《 お題 》
『魔法』と『どしゃ降り』を使って140字SSを書きましょう!
【人形遊び】
僕は雨が嫌いだ。
どしゃぶりの雨が降ると魔法が解けてしまう。
毎日必死に頑張って増やした紙人形が、濡れて溶けて消えてしまう。
丹精込めて作ったのに。
可愛い彼女。優しい両親。甘えん坊の妹。
僕を囲む温かい世界。
雨上がりの荒涼とした地面に虹が掛かる中、
溜息をついて、僕はまた人型の紙を刻む。




