煙草 / 烈火 / 故郷 / 夢 / 悪夢
《 お題 》
#煙草という文字を使わずに煙草を吸うを文学的に表現してみろ
【煙草】
鼻孔を擽る懐かしい香りに振り返った。
私の胸に燻る甘い疼きが、
知らない誰かの唇から紫煙となってゆらゆらと立ち昇る。
絡み付く。捨てた筈の思い出が。
軽く吸い込み吐き出すだけの刹那の快楽。
それだけのものでしかなかったのに。
《 お題 》
#怒という言葉を使わずに怒り顔を文学的に表現してみろ
【烈火】
烈火のごとくという言葉の通り、彼に向けられた彼女の形相は正に燃え盛る炎そのものだった。
一言も発する事もなくそこに在るのに、触れる事を躊躇させる激しい感情のうねりがその身から蒸気を上げて螺旋を描く。
溢れ出る炎の終着点はその面、中でもその双眸に凝縮され彼に向けて噴火していた。
《 お題 》
萩尾滋は『彼方』と『風景』を使って140字SSを書きましょう!
#140ss_odai2
https://shindanmaker.com/418984
【故郷】
忘却の彼方へ押しやった筈の風景が眼前に広がる。
悪夢が蘇る。
僕は震える脚を一歩踏み出し人食い鬼の家の前に立つ。
軽く押すと、丁番の外れかけた傾いたドアが軋んで開いた。
仄暗い、黴臭い狭い部屋。僕の生家。
ベッドに横たわる人食い鬼は小さく縮んで、僕に向かって腕を伸ばし囁いた。
お帰り、と。
《 お題 》
『5割増しだね』を最初に使ってSSを書いてください。
https://shindanmaker.com/466890
【夢】
5割増しだね。
新発売の睡眠カプセルを一瞥し、彼は嬉しそうに頷いた。
以前の棺桶の様な形より、今のこの白い繭を思わせるフォルムはずっといい。
横半分で切り分けられた蓋を開け横たわる。
パタン。
閉じられた白い宇宙。
重力から解放され拡散する意識に反して、身体は心もとなく赤子の様に縮こまる。
《 お題 》
〔唇を塞ぐ〕です。
〔「!」の使用禁止〕かつ〔第三者の登場必須〕で書いてみましょう。
https://shindanmaker.com/467090
【悪夢】
突然の嵐が彼女を襲い唇を塞いだ。
全てを忘却の波間へと攫う官能に浮かされ、ふわふわと漂い、気付いた時には一人闇の中。
とろりと潤んだ瞳で忘我する彼女の視界の隅を、冷ややかな影が通り過ぎる。
何事もなかった様に。
やがて訪れた静寂の中、窓から見下ろす人影が一瞬の内彼女を夢から引き戻す。




