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妖精 / 約束 / 声 / 靴 / 魔の刻

《 お題 》

萩尾滋さんは、「夜のキッチン」で登場人物が「傷つく」、「夏」という単語を使ったお話を考えて下さい。



【妖精】

夏の夜のキッチンで小さな妖精に出会ったよ。ランプから小枝に火を移そうとしてそれごと床に落ちたんだ。危うく火事になりかけた。慌てて水をぶっかけて、割れたガラスの下に傷ついたその子を見つけたんだ。破れた羽に蜜を塗り油でコーティング。やっと飛び立つ日は嬉しさと寂しさとが混ぜこぜだった。





《 お題 》

〔わからないとはいわせない〕です。〔「!」の使用禁止〕かつ〔風景描写必須〕で書いてみましょう。



【約束】

蝋燭が燃え尽きるように命が尽きようとしていた私の元へ、黒ずくめの男が訪ねて来た。「私が誰だかわからないとはいわせない」押し殺した声に、私は枯れ枝の様な指を立てた。瞼裏に崩れ落ちそうな灰色の空が広がる。枯れた木の根元に転がる私。「わかるとも」私は微笑んで、この魂を悪魔に差し出した。





《 お題 》

〔悲鳴がきこえた〕です。〔会話文のみ禁止〕かつ〔動物の登場必須〕で書いてみましょう。



【声】

まるで機関銃の乱射を受けているような豪雨の翌日は、曇天に覆われ二次災害が危ぶまれる覚束無い天気だった。荒ぶる川音に紛れ、確かに悲鳴がきこえた。前を走るレスキュードックが激しく吠える。「しっかり!直ぐにヘリを呼びますから」濁流の中、屋根の上に身を寄せ合う一家族に大声で呼びかけた。





《 お題 》

「夕方の公園」で登場人物が「抱く」、「かかと」という単語を使ったお話を考えて下さい。



【靴】

人気のない夕方の公園で、ちっとも中身の減っていない重たい鞄を抱え込んでいた。かかとが磨り減り白く砂埃を被ったこの靴だけが僕の努力の証のようで、僕は疲れきった頭を垂れじっと靴を眺めていた。父が選んでくれた就職祝い。営業は服よりも靴だと奮発してくれた。この靴が諦めるなときゅっと鳴る。





《 お題 》

『罠だったとしても』をお題にして140文字SSを書いてください。



【魔の刻】

街灯の届かない細い路地裏の薄闇の中、女は冷たい石造りの壁に凭れて佇んでいた。こんな所では客など取れぬだろうにと、男は俯いたままちらと視線を女の剥き出しの足先に向けた。白い指先に赤く塗られた爪が茫と浮かぶ。罠だったとしても…脳裏を掠めた使命を忘れさせる魔の刻に男は既に囚われていた。






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