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モブ、呼び出しを受ける。

お久し振りです。

また更新を開始します。

 あの後、救援信号を見た部隊があまりの火の勢いに驚き、緊急事態だと慌てて俺達がいるここへと来た。まぁ、キャンプファイヤーもかくやという勢いだったからわかるけど。案の定、調査対象であった魔物は丸焦げで調べようにも難しいそうだ。いや、悪いとは思っているが、あの状況ではこれしかなかったんだ。許してほしい。炭化した魔物を何とも言えない顔をして見ていた人から俺は目を逸らす。他のメンバーも似たような顔をしていた。

「まぁ、無事で良かった」

 これで調査は終わり、ようやく帰還することになった。あの緊張感から解放された途端、力が抜けそうになったが、帰るまで気を抜いてはいけないと疲労困憊の体に鞭打って気を引き締める。とにかく疲れた。その一言に尽きた。


 翌日、俺は呼び出しを受けた。まぁ、調査しに行ったのにその対象を丸焦げにしてしまった戦犯だからね。怒られるのかと覚悟して行ったら、お偉いさん方が集まった部屋へと通された。あっ、これアカン奴や。俺は思わず関西弁になった。

「アルト君、昨日のことで聞きたいことがあって呼び出した。話が長くなりそうだからそこに座りたまえ」

 エドのお兄さんが歳いったらこんな感じかという人が席を勧めた。話が長くなるという言葉と辺境伯その人が目の前にいる事実に胃がキリキリと痛み出す。

 何これ。裁判ですか?俺が裁かれる感じ?お前何やってくれてんだって責める感じ!?にしても空気が重い。重すぎ!これに長時間耐えないといけないの!?

 チラッとエドのお兄さんやお兄さんそっくりの次男っぽい人、更には何故かエドにオズまでいた。目が合ったオズには肩をすくめられ、エドには申し訳なさそうな顔で目を逸らされた。えっ、これ本当にやばいの!?

「さて、今回、君が聞いた噂からエドが調査を開始したと聞いているよ。それがなかったら今頃もっとパニックだっただろう。情報提供に感謝する」

「勿体ないお言葉です」

 恐縮しながら素直に感謝を受け取る。ここで大したことしていないとは言えない。空気読む力は元日本人だから高いんだ。これは流石に言ったらアカン気がする。

「時間もないので本題に入るが、今回遭遇した魔物について聞きたい。何せ、燃えてしまったものだから直接見た君達から話を聞いているんだ。質問に答えてくれるだけでいい」

 緊張を解そうとしたのだろうが、燃えてしまったと聞いたらもう罪悪感でいっぱいなんですけど!?

 逆にカチコチになった俺に辺境伯は苦笑した。あっ、その顔はエドに似ているなとふと思った。そこで急に力が抜けた俺は質問に淀みなく答え、粗方の質問に答え終わると解放された。どうやら叱責する場ではなかったらしいとほっと息を吐く。

「あぁ~、王都に帰りたい。団長と副団長は元気かな」

 廊下にある窓から空を見上げた俺はそう呟いた。今頃、俺が抜けたことで書類地獄になっているのかもしれないなと簡単にその様子が想像できた。


「あれがアルト君か。何と言うか、普通という言葉がよく合う子だったね」

 父上がそう呟く。第一印象は悪くないようだ。アルトには警戒心を抱かせない空気がある。本人から悪意を感じられないのもあるだろうが。それともいつも笑っている印象だからか。

「確かにそうですが、あの生死がかかった土壇場であれを思い付くとは逸材ですね。アルフリードが気に入るのもよくわかります。メンバーも誰一人として欠けずに全員生還しましたし」

 兄の発言に俺はアルト以外の調査隊員を思い出す。アルトの呼び出しの前に他のメンバーも呼び出されていたのだが、皆口を揃えてアルトのお陰だと言っていた。アルトのフォローがなかったら死んでいたと。器用貧乏なアルトはこういうフォローやサポートには向いている。事前に調査して、準備万端に用意して、そしてあらゆることを想定して動くのが癖になっているからか、先を読む力が高く、また冒険者時代の経験から臨機応変に動ける。純粋培養の貴族にはない強みなのだが、本人にその自覚は一切ない。一つ一つの能力は低くてもそれを総合した場合の数値はかなり高いのがアルトだ。今まで積み重ねてきた経験と努力、それがアルトの強さなのだ。それをわかる人は残念ながらごく少数だろう。あの徹底的に自己評価が低いのは多分、スタンピードの影響が大きいと思う。どうやらあの時に大きなトラウマができたアルトは心がボッキリと根本から折れたのだ。自分がいかに無力かを痛感したことが原因だろう。自分は何もできなかったと、今もできないとそう未だに思い込んでいる。あの強固な思い込みはだんだんと弱くなっているが、まだまだ時間がかかりそうだ。それに一番イラついているのは隣にいるオズだろうが。


「本当に意味がわからない」

 ムスッとした顔で僕は呟く。隣でエドが呆れた顔をするも気にしない。

「あの土壇場で魔法式を改良とか意味わからないんだけど!?」

 魔法式の改良は研究対象になるぐらいには奥が深い。僕だってそう思うし、僕の趣味は魔法式や魔法陣の改良だ。どうせ、元の式をちょっと改良しただけとかあの能天気なバカは思っているんだろうけど、全然違うから!と声を大にして言いたい。アルトが得意とする魔法は補助と妨害だ。見せてもらったこともあるし、知っている。だからこそ、余計に思う。最早、別物じゃん!何が改良しただけだ!土台の魔法式から改良じゃなく、改造して全く別の魔法式だから!何でそこに気づかないんだ!あの馬鹿は!それを短時間でやったことがどれだけ異常なのかわかっていない!

「何なのさ!おかしい!絶対におかしい!そのことに本人が気づいていないことが更にムカつくー!」

 叫ばなきゃやってられない。エド以外の人は出て行き、もうこの場には僕とエドしかいなかった。だから叫んでいるんだけど。

「はぁ~、もう何なのさ。尋常じゃない努力の上に身に付けた能力なんだろうけど、そろそろ自覚してほしいよ、本当に……」

 魔法式を日頃から考えてないと土壇場での改良などできない。その積み重ねがあったこそ成し遂げられたことだとわかる。実際に丸焦げになった魔物を見たが、あの巨体の倍以上の深さがある落とし穴を作ったことに僕は驚いた。無から作るよりもその場にあるものを操作する方が簡単ではある。だが、アルトがしたのはちょっとした落とし穴というよりは地形を操作したと言ってもいい。そうなると話は全く変わる。魔力で具現化するよりも地形に干渉することの方が遥かに難易度が高いのだが、このことに気づいているのがどれくらいいるのか。実際の落とし穴を見れば一目瞭然なんだけど、今は森が立ち入りと禁止なっている。何しろ、本人が落とし穴だと言い張っているからこのことに気づいているのは僕だけかもしれないな。

 魔術師は魔力量が重要視される。確かにどれだけ魔法が撃てるかは重要だ。だが、それだけで勝負は決まらない。戦術の組み立て方、使える魔法の数、流動的な状況を把握する能力、状況から最善を導き出す判断力、何よりタフであること。これら以外にもたくさんの要素で勝負が決まる。だけど、最も重要なのは精神力だと思う。戦闘中に諦めないこと、心が折れないことは結構大きい。あの家にいたことでよりそう思うようになった。アルトは魔力量が少ないから必然的に使える魔法も少なくなる。だけど、あの暴言ばかりの僕に話しかけ続けたことと言い、身分違いでも好きであり続けたことと言い、アルトは諦めなかったし、最後まで心が折れなかった。きっとこれからも最後まで足りない力を振り絞って足掻き続けるだろう。どんなに無様で綺麗なものじゃなくても、最後に勝てたらそれでいいのだから。

 そういうアルトだからこそ、僕やエド、アリス、アルフリード中央騎士団長といった人達から好かれているのだ。そのことに当の本人が無自覚だが。

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