第七話【乱入ブラコン妹】
数日という時が流れた。
あれから花菜は本当に朝、晩を作ってくれるようになり、最近ではお弁当だって渡してくれる。本当に通い妻化してる。
今日も今日とて、朝食を作って、お弁当を渡してくれ、夕食まで作ってくれた。
「今日もありがとうな、花菜」
「ううん。全然いいよ」
優しい笑みを浮かべながら、小さく首を振る花菜。俺のご飯ばかり作って、勉強は大丈夫なのかとも思ったが、現在俺の横で勉強をしている。
ちなみに、いまの時刻は午後八時半。
外は暗いが、明日は休みだ。花菜も少し勉強してから帰ると言っていた。
花菜の勉強している様子を、俺は横から覗く。
「すげぇな、そこ次の範囲だろ?」
「え? あ、うん、そうだよ。いまの範囲は勉強し終えたからね」
「よくそこまでできるな」
「まあ、これしか私にはないからね」
「運動もあるだろ」
「そうだけど、私的には運動は気分転換ぐらいだから」
「なるほどな……」
流石と言うべきだろう。そりゃあ学年一位な訳だ。
こんなところから周りと差がついていると、しみじみ感じ取れる。
その後、花菜は小一時間程度勉強を進めたあと、帰る支度をし始めた。外が暗いから送ろうかと思ったのだが、よくよく考えれば隣ということに気付いてやめた。
「じゃ、秋夜くん。また明日」
「ああ、また明日。朝ごはん楽しみにしてる」
「ふふふ、お任せあれ!」
最後に朝食を楽しみにしていると告げると、花菜は嬉しくなったのか、片腕を上げて「任せろ」と言い放った。
そんな様子を見ていると、明日の朝食はなんだろう……そう考え始めていた。
(たった数日で胃袋掴まれたな……)
そう思いつつ、俺は寝る支度をし、電気を消して、布団に入った。
「……くん。起きて、秋夜くん」
「ん……?」
聞き覚えのある声とともに、俺は薄目を開けた。まだ少し眠い。
俺が無意識に布団を頭に被ろうとすると、小さな手がそれを止めた。
「だめ。もう起きないと」
「……花菜?」
「そうだよ、私だよ。朝ごはん出来たから食べて」
「ん……わかった」
その声を聞いているうちに、俺の意識も徐々に覚醒し始める。聞き覚えのある声は無論、花菜だった。俺は一瞬、なんで居るのかと思ったが、そういえば合鍵を渡していたのを思い出した。
俺は一週間の疲れが残る体を起こし、花菜に顔を洗ってくるよう言われる。
それに従い、俺は洗面台に向かう。
顔を洗った俺は、花菜にテーブルに座るよう促され、従った。
「はいこれ、お箸」
「ん……ありがと」
「こっちコップね」
「ん……」
俺は箸と水が入ったコップを受け取る。今日の朝ごはんは納豆ご飯に、卵焼き、加えて果物もある。非常に健康に良さそうだ。
まずは大好きな卵焼きに手をつける。
甘くて、味付けも完璧だ。正直、卵焼きでいいかもしれない。
朝食を食べ終え、洗い物をしている花菜に俺は話しかける。
「花菜、たまに休め。昼ぐらいまでは寝てていいだろ」
「え、でも勉強が……」
「一日のたった数時間サボっただけで、お前の成績を超えるやつなんていないから安心しろ」
「そ、そう? じゃあ言葉に甘えようかな」
「それがいい。洗い物も俺がやってやる」
やや強引に俺は洗っている途中の花菜を引き剥がし、代わりに洗い始める。その様子を見た花菜は少し驚いた表情を浮かべたあと、すぐ、いつもの笑顔に戻し、リビングのソファに横になった。
横になっている様子を見ていると、本当に妖精が眠っているように見える。
その後俺は洗い物も終わり、横になっている花菜に近付く。そして近付くにつれ、すぅすぅと規則正しい寝息が耳に入った。
やはり勉強の疲れや、俺のために料理を作る疲れが溜まっていたのだろう。だが、その眠っている花菜の表情はどことなく幸せに見えたのは俺だけだろうか?
「ふぁ……」
そんな花菜を見ていると、俺も眠くなり、欠伸が出てしまった。俺もまだ眠い、少し寝よう。
(一時間ぐらい……)
俺は眠っている花菜に布団をかけ、俺はソファに顔を埋めた。
数分後には俺も花菜と同様、すぐに眠れた。
どれくらい経っただろうか。そう思い、俺は目を開けた。
(そうだった、ソファに……)
目を開けると、目の前には、まだ眠っている花菜が姿があった。時計を見ると、まだ三十分ほどしか経っていなかった。
「へぇ……」
「!?」
「お兄ちゃんが女の子を家に上げてるなんてね……」
「ま、真美!?」
そのとき、背後から声がした。反射的に振り向くと、そこには真美、もとい……ブラコン妹が仁王立ちしていた。
顔は笑っているが、目は据わってる。この前の花菜に似ている。
「なかなか帰ってこないと思って、来てみたら……なに? この状況」
「帰ってこない? どういう……あっ」
「お兄ちゃん。もしかして忘れてた?」
そうだ、今日は土曜日だ。幸せの日々を送りすぎて完全に忘れた。今日は実家に帰る日だった。
いつもなら九時に実家に着いてる頃であり、現在の時刻は九時十分。
来ない俺に痺れを切らした真美が来て、合鍵を使って部屋を開けたのだろう。
そして、花菜はソファ。俺はそのソファの端っこで寝ていたのを見たということだ。
「……お兄ちゃんが女の子を連れ込む」
「ま、真美! これには訳が……」
「問答無用。しっかり教えてあげる」
そのまま俺は真美に腕を掴まれ、奥にある俺の自室へと連れていかれ、ベッドに仰向けに倒された。
「よいっしょと」
「ぶへっ!?」
「なにその声」
「な、なんでもない……」
そんな俺に、真美は馬乗りに乗った。
「取られたならば、取り返すぞ。ブラコン妹」
そう言い、真美は着ている服を胸元が見えそうまでめくり、手を離す。その拍子に、肋骨が浮き出ているのが見えた俺は、一瞬心配したが、そんな心配など忘れてしまうほどのことが起きた。
「えっ、秋夜くん? そういう趣味が……」
「え?花菜!? ち、ちが、これには訳がある!ちゃんと話を聞いて――」
「ご、ごめん! 邪魔しちゃったね!」
いつの間にか起きていた花菜は、リビングから俺たちのやり取りを聞いたのか、開いた扉の前に立っていた。
そして、真美が俺に馬乗りになっているのを目にし、良からぬことがチラついたのか、耳の先まで真っ赤にさせながら俺の部屋を立ち去った。
――バタン。玄関が閉まる音を鳴り響いた同時、真美の口角がさらに上がった。
「逃さないよ、お兄ちゃん!」
「勘弁してくれ!?」
その後俺は、しがみつく真美を引き剥がすのに三十分掛かったのはここだけの秘密である。
「やった〜お兄ちゃん!」
「あんまりくっつくな」
「えー酷い〜」
「暑いし、うざい」
「ひど!?」
そして現在、俺は実家に帰って来ていた。帰宅途中に真美に聞いたのだが、花菜の顔が見えなかったらしく、一緒に居たというのはバレなかった。
花菜が起きて、部屋に来た時も、真美は興奮状態だったらしく、俺が花菜と呼んだのも花菜の声も聞こえなかったと言う。
(獣かよ……)
明日花菜に事情を話して、誤解を解こう。こういうときに連絡先を交換しておけばと……少し後悔している。
「おかえり、秋夜」
「ああ、ただいま。母さん」
「お父さんは夜帰ってくるから」
「ああ、わかった」
「そうそうねぇねぇ、お母さん! お兄ちゃんが部屋に女――んむ!?」
「それ以上言ったら、部屋に縛り付ける」
「え、なになに?」
「母さんも食いつくな」
こういうところが遺伝していると、つくづく思う。
真美は母さん似。俺は父さん似。性格も似ている。
顔は……まぁ、似ているだろう。
「で、秋夜? 彼女さんはできた?」
「できるわけないだろ?」
「できたら真っ先に私が言うからね」
「それもそうね」
(まぁ、付き合ってはないけど、半同棲の人はいるけどな……)
いま、花菜は何をしているんだろうか。
- 山岸花菜目線 -
花菜は秋夜の部屋を出たあと、自分の部屋に戻っていた。
「あれ、妹の真美ちゃんだよね? あのふたりって、ああいう……いやいや、兄妹でそんなのはだめだよ!」
やはり、あの様子を見た花菜は、良からならぬことが頭に思い浮かんでいた。それにより現在、花菜の顔は茹でタコより真っ赤で、心臓も、周りに人がいたら聞こえるレベルにドキドキと動いていた。




