能力覚醒、自覚。
猿です。これはゆっくりボチボチ書いていく予定です。このシリーズにプロットはおろか、何の設定もございません。思いつきの行き当たりバッタリが、自己満足シリーズの醍醐味です(猿だけのですが)。
私、松田ゆうこは、普通の女の子になりたいと切に願います。
こんな願いを毎日何回繰り返し言葉にした事だろう。神さまは何て事をしてくれたのかしら?と、このチカラを神様のせいだと決めつけてかかる私。神様なんていないのは知っている。でも私に凄く優しいパパとママを悪く言うのは、私の良心が許さない。
その昔、パパとママは、ここではない遠い世界で、その世界を救ったと聞かせてくれた。その事を誰も知ってくれる人がいないその世界を。これは私がまだ幼稚園に通っていた頃に、ママが内緒よ!と言って、中々眠らない私に話してくれたおとぎ話。
のはずだったのに、それが本当の話しだったと信じざるを得ない事が、私の身に起きた。
小学二年に上がったばかりの春、家族で花見に行った時の事だった。家族全員が揃う事なんて、お正月以外に無かったので、その日の私は、とても嬉しい気分ではしゃいでいた事を、今でも覚えている。
お爺ちゃんに、お婆ちゃん、パパとママ。そしてママがお誕生日にプレゼントしてくれた、マルチーズのノイジー。家族全員集合だった。
大きな桜の木の下で、大きなシートを広げて皆んなでママのお料理を食べた。そして食べ終わった後、カルタをしたり、しりとりをしたりして遊んでいたのだが、パパとママが、人目も気にせずキスしだしたので、恥ずかしくなって、ノイジーを連れて散歩に出た。
ノイジーも嬉しかったのか、桜の舞い散る花びらを見つけては飛びつき、見つけては飛びつき、を繰り返していた。私も負けじと桜の花びらを掴もうと必死になった記憶がある。
だけど、その後の記憶が強烈だったから、こうやって一から思い出していかないと、他の記憶がハッキリとは思い出せない。だから我慢してね。
運動能力で動物に勝てるはずがないのに、小さな私は、ノイジーより高く飛んで花びらを掴もうと、思いっきりジャンプした。すると、思っていた通りに、遥か頭上に見えていた、桜の枝に添えられた花まで手が届いた。
その瞬間私は、『やったー!』と心の中で叫んだのだが、普通では出来ない事が出来てしまった事を直ぐに理解した。フワフワした感覚にとらわれて足元を見ると、地面からかなり離れた高い場所にいる事が分かった。
高くて怖い!という気持ちが湧いてきたが、同時に、『浮いている』という事実も理解出来た。その場所から、上にも下にも移動せずに留まっていたからだ。下ではノイジーがキャンキャン吠えていた。
そのノイジーに、周りの大人達が気付き始め、上にいる私を見上げて吠えるノイジーに習い、周りの大人達が頭上を見上げようとしているのが見てとれた。
『浮いている私を見られてしまう!』そう思った瞬間、私の視界は、花見をしていた公園の裏にある池をとらえていた。私の顔を覗き込むママの顔を見て安心して涙が溢れてしまう。ママが助けてくれたんだと分かった。しかし、しばらくして落ち着いた時に、ある疑問が湧いてきた。
『ママはどうやってあの高さにいた私を助けたのだろう?』という疑問だ。私はママにそのまま感じた事を尋ねてみた。するとママはこう言った。
「うふふ、ゆうこ、『空間転移』というのよ。一瞬で思った場所に行けるの。でも、ゆうこのチカラの方がずっと凄い。今まで空を飛ぶチカラを使う人、確か…いなかったと思うのよね。ゆうこだけのモノかもね。」
ママはそう話してくれたが、まだ小さな私には、ママの話しが全く理解出来なかった。でもママがあまりにも優しく私を抱きしめてくれたから、そんな事はどうでも良くなって、私はすっかり忘れてしまっていた。
そして、中学生に上がった時、その時のママの話しを思い出してしまう出来事が、私の身に起こってしまったのだ。
〜 中学校 〜
「キミー!そこは危ないから下がりなさい!そんな事しても解決はしないんだぞー!死んでしまったら何も出来なくなってしまうんだぞー!」
拡声器で教頭先生がそう呼びかけているのは、校舎の屋上に女子生徒が、今にも飛び降りんばかりの体制で立っていたからだ。校舎は七階建てで無駄に高い為、誰が飛び降りようとしているのかまでハッキリとは見えない。
下にはたくさんの生徒、そして警察官、消防隊員の人達が集まって、その様子を見ていた。勿論、飛び降りても大丈夫な様に準備を整えてだ。しかし、無傷という訳にはいかないだろう。
大きなエアマットが置いてあるとは言え、落ちた時の衝撃は凄いだろうし、落ち方が悪ければ、命を落とす危険だってある。一番いいのは飛び降りさせない事だ。だから教頭先生が先程から頑張って呼びかけている。
「教頭ずっと同じ事繰り返し言ってるだけじゃない。もっとドラマとかみたいにさ……」
周りの生徒からそんな言葉が飛び交う。どこか他人事のようで、何ともし難い感情が湧き上がる。
「ねね、聞いた?あの飛び降りようとしてる子って、二組の…、えと…、川上美希さんだったかな?その子らしいよ。」
その言葉で私の心臓が大きく脈打つ。もし今のが本当だとしたら、飛び降りようとしているのは、小学校から一緒だった親友という事になる。遠すぎてよく見えない事が腹立たしく思えた。何故見えないんだ!と思った瞬間、まるで望遠鏡でも覗き込んだかの様に、屋上の人物がグーンと迫って見えた。
その事にも驚いたのだが、更に驚いたのは、さっきの噂話しが事実であった事だ。今正に飛び降りようとしているのは、私の親友『川上美希』だったのだ。彼女は震えながら泣いていた。
《どうして…、みっちゃん、何があったの?あぁ…、親友なのに気付いてあげられなかった…、ごめんね。どうしよう。》
校舎を入って屋上に駆け上がろうにも、「今は彼女を刺激しないように!」とか言って、消防隊員の人が入り口を封鎖しているし、教頭先生から拡声器取り上げても、何を言えばいいのか分からない。
やはり一番良いのは、ちゃんと目を見て話しをする事なんだが、周りに生徒もいて身動き出来ない状態になっている。しかし、何とかして入り口に行き、消防隊員の人を説得して上がらないといけない。そう考えていた時、周りの生徒から悲鳴が上がった。
その視線は屋上に向けられたままだった。私も即座に視線を移す。そこで私が目にしたのは、既に落下し始めているみっちゃんの姿だった。
《あぁ!!みっちゃん!!!ダメーーーーっ!!!!》
そう心で叫びながら、みっちゃんへと手を伸ばす私。すると!!
《え!?えええええ!!!!》
なんという事だ!あろうことか、私はみっちゃん目掛けて空宙を高速で移動していた。しかし驚いている場合では無い。既にみっちゃんが目の前まで迫ってきていた。いや、正確には私が迫っているのだけど。
「みっちゃん!!私が受け止める!!」
その様子を見ていた下の群衆から歓声が湧き上がる。私も心の中で叫ぶ。『救出大成功!』
「う…、ん。あれ…?ゆうちゃん?…なんで…、私、生きてるの?…、なんで…。」
「みっちゃん…、私に黙ってあんな事するなんて、私が許さないんだから…。よ、よかった…。本当に…良かった…。」
私は未だ宙に浮いている事も忘れて、そのままみっちゃんを抱きしめて号泣してしまった。
〜 伊町ゆうこ宅 〜
「おお!ゆうこがテレビに映ってるぞ!凄いなぁ。どうやって飛んでるんだコレ?ね、ママは飛べる能力者、他に見た事ある?」
「もう稜くんたら、さっきからそればっかりじゃない。今はそれどころじゃないでしょ?テレビに映されてしまったんだよ?ゆうこのこれからの事が大事だよ。きっと報道関係者が押し寄せてくるよ?」
「あっははは〜、心配はいらん!ゆうこ、心配しなくても大丈夫だぞ。おじいちゃんがちゃんと先手を打っておいたからな。」
そう、あの後みっちゃんを助けてから、下にいた人達がもの凄く騒がしかったから、みっちゃんを抱えたまま飛んで帰宅してしまったのだ。しかし、その様子を誰かが録画していたらしく、早くもテレビで流されていた。
「ご、ごめんね…、私のせいでゆうちゃんが…。」
「いいのいいの、みっちゃんの命の方が大切だもん。おじいちゃんの先手っていうのは、ちょっと危ない匂いがするけど、まぁしばらくここには誰も来ないだろうし、そのうち映像加工されたモノでしたー、なんて事に…、ならないかな?」
とまぁ、実際に見ていた人が大勢いたものだから、私の吐き捨てた言葉通りとは行かず、超能力女子中学生!とネーミングされ、全国ネットで私の顔が知れ渡る事となったのです。
ママが公園で私を助けてくれた時の事をやっと理解できたのは、この時だった。そして、私の普通の生活は、音を立てて崩れ去っていくのであった。
次の更新は、何か思いついたら!という感じでの投稿になります。ゆっくりのんびりと投稿していこうと思います。