第十七編 2人の男女
『自称主任創造神の帰りたければ自分で探せ事件』から1週間の月日が経った。
…大変だった、本当に大変だった。1週間の間、般若女は暴れ狂った。唯一の救いは、自分の力を他人の冒険者では無く魔物に向けた事だった。
『顕現せよ!波打つ熱よ閃きと共に 敵を撃ち弾け飛べ《エクスプロージョン》』
彼女の杖から放たれた小さな火球は、けたたましく咆えていたクマ型の魔物に当たるとクマ型魔物を飲み込む炎の大球となって爆ぜた。
ついでとばかりに、周りの木々も魔物も一緒に爆発の余波に巻き込まれ、辺り一面は焼け野原。
「ハッ!何言ってんの、消えて!」
口は頗る汚いが、外見はかなりの美少女。その本性を知らない男からすれば身近に咲く綺麗な花なのだろう。モテるわ、モテる。
ギルドで依頼書を選んでる時も、偶に他チームとの合同依頼を受ける時も彼女の周りには花に群がる虫のように男達が集まってくる……が来る男来る男が次々と想いも心も彼女の魔法のごとく、爆ぜてゆく姿を見るのは何とも言えない気持ちになった。
そして、その姿を目撃した冒険者達から後に彼女は『暴炎の乙女』と言うアダ名が付いていた。
「それじゃあ、今日は自由行動という事で。」
ノーダは残り2人に今日の予定を告げると、宿屋を出る。
後ろでは、今日も我がチームの女王様はお決まりの従者を連れて街を散策に行くらしい。心の中で従者となってしまった者に合掌を捧げる。
そして、ノーダは1人、先日行った合同依頼の依頼結果と報奨金の受け取りの為に冒険者ギルドに向かっている。
実は、合同依頼を受注したのは自分達のチームとしての実力と他チームの実力の確認の為に受けたのだがこれが不味かった。
自称創造神のお陰?でこの世界での目的は出来たが、どう見ても長期戦になると踏んだノーダ達はこの3人でチームを組む事を提案した。2人も思う所があったのだろう。二つ返事で了承し、テンは冒険者登録を済ますと同時にノーダをリーダーとした冒険者チームを結成した。
最初は、リーダーをするのを渋っていたノーダもオサカの押しとテンの脅しにより快諾。
そこで問題になったのがチームワークである。個としての強さはあるのだが、この一癖も二癖もある者達を纏め上げるのに苦労していたノーダは他チームを観察し、手本にする事を思い付いた。
といっても、創作意欲と言う名のネタ探しも少しは思惑に入っていた。
しかし、そこで悲劇は起こった。相手チームは戦士系の男性1人と魔法使い系の女性2人
男性は爽やかな好青年、仲間の女性は胸の膨らみが凄い美人と笑顔が可愛い美少女という男のロマン満載のチーム。戦闘に関しては些かバランスが悪いと思うが、これでもクラスはC−と一端の冒険者チーム。受ける依頼もオーク10体で金貨20枚という合同依頼にしては割高な依頼だった。
学ぶ事もネタも多そうなチームだと最初は喜んでいたがいざ依頼を始めると、戦闘はオーク1体を倒すのにも一苦労、休憩中は戦士系男がテンをナンパするが、儚くも玉砕。挫けない男はヤル気を上げると、それに比例してテンの期限と魔法使い系女性達の空気が悪くなり、それを宥めるノーダとオサカ。
最終的には、魔法使い系女性2名がテンを敵視してしまい、戦闘に参加しないという散々な結果に終わってしまった。
しかも、依頼の報奨金は複数人で受けた場合、折半が冒険者の間で暗黙の了解としてるらしい。
手に入れたオークの素材の分配も、最初は相手チームが折半だと渋っていたがテンが懇切丁寧なお話しをしたお陰で倒したチームの物となったし、テンのスキル《魔歌》がレベル3に上がった。
そんな思い出したくもない記憶を出している間にノーダは3階建ての建物の前に来た。木の柱に薄緑色の煉瓦を組んで建てられた冒険者ギルドは周りの建物と比べてもひときわ大きい。
木製のドアを押し中に入ると、内装はクバサナ村のギルドと遜色はないが広さはまるで違う。
3人がここに初めて入ったときは、お登りさんの様な声を上げてしまい、周りの注目を集めていた。
「ヨクキタネー。景気はドウダイ?」
目の前にいる小肥り狸人族がお決まりの挨拶をしてきた。何処かの地方のお土産屋で見た通りの外見をした狸人族はカウンターの所為で分かりづらいがフワッフワな装飾が施された服にスカートを着ている、笠と台帳と酒を持たせれば完璧な土産物狸に慣れる彼女は雌だった。初対面で迂闊にも雌雄どちらかを聞いてしまったノーダは、見事な狸パンチを顔面に食らった。
「ボチボチだな。それよりも、この前の依頼の報奨金を受け取りに来た。」
「アイヨ。それじゃあ、カード出しな。」
カバンから銅のカードを出し渡す。
「ハイヨ。チョット待ってな。」
カードを受け取った狸人族は、カウンターの奥に引っ込んでいく。
手持ち無沙汰になってしまったノーダの耳に酒場の方からガヤガヤと男女の声が聞こえる。
「え〜、本当に〜」
「本当だって…俺にはお前しかいない。」
赤髪にシュッと整ったイケメンは胸の大きなこれまた同じ赤髪の美人の腰を抱き、エールを片手に愛を語っている。男は腰には片手剣を背中に盾を、女は弓と弓筒に入った矢を持っているところを見ると、冒険者なのだろう。
ノーダはコッソリと2人を監察…いや、観察した。
別に、羨ましくての行動では無い。いつか、何かあった時の為に必要な事であり、必要な事であると心の底から誤魔化しにかかる。
「……《スキル:観察》」
ボソッと呟くと、件の2人を凝視した。側から見れば、2人を見つめるストーカーに見えるがノーダにはそんな事はお構い無しであった。
「…………あっ?…イッテー!」
ノーダの頭に重い一撃が与えられた。
「何してんだい、アンタは。終わったから確認しておくれ。」
「…解ったよ……あぁ、大丈夫だ。」
「それにしても、誰を見てたんだい?」
「いや、あの2人…を……。」
しかし、そこには誰も居なくなっていた。狸人族は首を傾げると、後ろに並んでいる人達を促す。
「ホラホラ、用が終わったならサッサと行きな。コッチは忙しいんだよ。」
ノーダも、その2人が後々の騒動の一端だとは思わなかった。