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劉邦、転生したら劉備だった件  作者: レイン
第一章 黄巾の乱

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プロローグ 漢高祖、死す

劉邦という男は、決して生まれながらの英雄ではなかった。


 名門の出でもない。

 若き日に学問へ打ち込んだわけでもなければ、武勇で天下に名を轟かせたわけでもない。


 酒を好み、人を好み、気ままに生きた。


 だが、不思議と人が集まった。


 沛(はい)で兵を挙げ、秦の乱世へ身を投じたときもそうだった。

 張良がいた。

 蕭何(しょうか)がいた。

 樊噲(はんかい)がいた。


 そしてやがて、天下最強と恐れられた項羽(こうう)と争うことになる。


 負けた。


 何度も負けた。


 逃げたことも、一度や二度ではない。


 それでも劉邦は立ち上がった。


 自分にできぬことは、できる者に任せた。

 戦なら将に。

 策なら軍師に。

 国を治めるなら、それに長けた者に。


 そうして人を集め、人を使い、最後には項羽を破った。


 長き戦乱は終わった。


 劉邦は皇帝となり、新たな国を興した。


 ――漢。


 かつて何も持たなかった男が、天下を手に入れた瞬間だった。


 だが。


 天下を得た後の道は、天下を得るまでよりも楽ではなかった。


 守らねばならぬものが増えた。


 国。

 皇位。

 子。

 そして、自らが築いた漢そのもの。


 かつて肩を並べて戦った者たちでさえ、ときには疑わねばならなかった。


 反乱を恐れた。

 裏切りを恐れた。


 昔なら笑って済ませたことにも、目を光らせるようになった。


 そして気がつけば。


 劉邦の周囲からは、一人、また一人と、かつての仲間が消えていった。


 晩年。


 反乱を討つため、老いた身体で再び戦場へ出た劉邦は傷を負った。


 その傷は、日に日に彼の身体を蝕んでいった。


 長安(ちょうあん)。


 病床に伏した劉邦は、ぼんやりと天井を眺めていた。


「……つまらんのう」


 皇帝の寝所である。


 豪奢な調度品。

 最高の酒。

 望めば何でも手に入る。


 若い頃の自分が見れば、さぞ羨むことだろう。


 だというのに。


「…………」


 ふと、昔のことを思い出した。


 まだ天下など夢にも思わなかった頃。


 酒を飲み。

 くだらぬ話をし。

 仲間たちと笑っていた。


 何も持っていなかった。


 だが、不思議と楽しかった。


「……昔は、楽しかったなぁ」


 誰に聞かせるでもなく呟いた。


 天下を取った。


 皇帝にもなった。


 自ら興した漢は、これから先も続いてゆくだろう。


 それで十分なはずだった。


 だが胸の奥に残るものは、どうにも拭えなかった。


「もう少し……信じてもよかったかもしれんのう」


 自嘲するように笑う。


「まあ……今さら言っても遅いか」


 目を閉じた。


 張良。


 蕭何。


 樊噲。


 そして、今はもういない者たち。


 思い浮かぶのは、皇帝となってからの日々よりも、何もなかった頃の顔ばかりだった。


「次があるなら……」


 そんなものがあるはずもない。


 だが。


「もう少し、気楽に生きるかのう」


 劉邦は小さく笑った。


 そして。


 漢高祖(かんのこうそ)・劉邦は、その生涯を終えた。


     ◇


「――おぎゃあああああああ!」


「…………」


 何やら、うるさい。


 誰じゃ。


 人がせっかく気持ちよく眠っておるというのに。


「元気な男の子ですよ!」


「…………」


 男の子?


 何の話じゃ。


 というか。


 さっきから妙に身体が動かん。


「まあ、かわいらしい」


「…………」


 待て。


 何かがおかしい。


 劉邦は目を開けようとした。


 ぼやけた視界の向こうで、見知らぬ女が自分を抱き上げている。


「…………」


 嫌な予感がした。


 ものすごく嫌な予感がした。


 そして数年後。


 その予感は、最悪の形で的中することになる。


 自らが死んでから、およそ四百年。


 漢は、まだ存在していた。


 それを知ったとき、劉邦は少しだけ嬉しかった。


 自分の作った国が、それほど長く続いたのかと。


 だが。


 成長するにつれ。


 世を知るにつれ。


 民を知るにつれ。


 朝廷を知るにつれ。


 劉邦の顔から、笑みは消えていった。


「…………」


 そしてある日。


 少年は、誰もいない場所で天を仰いだ。


「……ワシの漢」


 一度、言葉を切る。


「腐っとらん?」


 後漢末(ごかんまつ)。


 のちに劉備玄徳(りゅうび・げんとく)と呼ばれる少年の中で。


 漢を築いた男が、再び動き始めようとしていた。

「ここまでお読みいただきありがとうございます!

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