92、一旦解散
どんな事でも後片付けというのは存外面倒なものだ。
料理にしろ祭りにしろ、終わった後にさらに一仕事を、と言うのはテンションが上がらない。
それが何かしらの面倒ごとの類であれば尚更に、だ。
「これ……どうしよう?」
呆けているメルツェナさんたちを尻目に、あたしは双頭蛇の頭に突き刺さっていた黒い鍵の残骸を見つめる。
上下で真っ二つにしたのは良いものの、双頭蛇の頭に刺さっていたのは斬った瞬間に黒いモヤ同様に崩れ去っていて、残っているのは地面に転がる一部のみ。
「まぁ、碌なもんじゃないだろうから、あとでギルドに渡せばいっか」
それを拾い上げてアイテムボックスに放り込もうとした瞬間に、メルツェナさんがいち早く我に返った。
「素手で触るなバカ!」
とメルツェナさんが烈火の如く怒りながら、気を抜いていたとはいえあたしが反応出来ないほどの速度で距離を縮められ、手を掴まれる。
その大声に反応して『黒金の雷雨』たちも慌てて黒い鍵の残骸に駆け寄ってきた。
「魔獣を操っていたか支配してた物を素手で触るバカがどこにいるのよ!? あんた本当に危機感ってものが無いわね!」
でも、この残骸からはもう何の力も嫌な感じもないから大丈夫だと判断した結果なんだけど……これはあんまり言い訳しない方がいいパターンかな?
「はぁい、ごめんなさい」
「全くもう……私がいないとダメダメなんだから……」
ここでも遺憾無く先輩風……と言うかお姉さん風を吹かすメルツェナさんは、ぶつくさ言いながらしゃがみ込んで黒い鍵の残骸を観察する。
「魔道具、よね。あんたたちの中でこれを見たことある奴はいる? 似たような物でもいいわ」
メルツェナさんの質問に、みんな首を横に振る。
かくいうあたしもそうだ。
こんなもの見た事もないし、BLOでも存在していなかったと思う。
何と言うか見た目だけなら、某ゲームの鍵の剣に似てるんだよなぁ。でもそれを言えばさらに混乱するのが目に見えているからお口チャック。
「迂闊に触るのは不味いわね……壊れているから能力は無いと思いたいけど、魔道具の中には壊れるとその力の制御が出来なくて暴走するものもあるし……しょうがない。小娘、あんたの収納魔法に入れなさい」
「あ、はい、分かりました」
言われて、あたしは黒い鍵の残骸に手を伸ばすと、スパコーンと小気味の良い音で頭を叩かれた。
「いったぁ!? 何するんですか!?」
「あんた話聞いてたわけ!? 素手で触るなって言ったばっかでしょうが!」
ぐぬぬ、そう言えばそうだった……くそぅ、反論出来ない!
「……じゃあどうやってアイテーー収納魔法に入れるんですか?」
不貞腐れたようにそう聞けば、メルツェナさんが指をちょいちょいっと振る。すると残骸がふわっと浮いた。
「ほら、早く開けなさい」
「あ、はい……」
アイテムボックスを開いて、そこに残骸が投げ込まれる。
「はい、終わり。とりあえず、これで双頭蛇の件は片付いたわね。小娘は本来の依頼に戻るわよね?」
「そうですね。鹿の角とミミズの牙が欲しいんで……皆さんはどうします?」
あたしがそう尋ねると、グレイグさんたちは気まずそうに笑う。
「このままモカちゃんに同行してもいいか? 流石に何にもしていないのは……なぁ?」
「あ、あぁ、そうだな。グレイグの言う通りだぜ……ザフィーラ、デュラン、お前たちも良いか?」
残る2人が頷いて肯定を示す。
別にそんなに気にする事ないと思うんだけどな……適材適所というか、あたしに出来なくて『黒金の雷雨』に出来る事もいっぱいあるんだから、そう卑下することもないと思う。
「じゃあ、あたしは報告のためにギルドに戻るわね」
「え!? メルツェナさんも一緒に来ないんですか? そ、それじゃあ誰がモカちゃんの面倒を見るんですか!?」
「そりゃ、あんたたちよ。それにほら、あんたらなら、もう大丈夫でしょ? この山も大人しくなったみたいだし」
言われてみれば、ついさっきまで騒がしかった山はいつしか鎮まりかえっており、嫌なざわめきは感じない。
「グレートデーモン・エルクも、ランドディガー・ワームも、それなりに強い魔物だけど、あんたたちなら難なく対処出来ると思うわ。だからあたしはギルドに報告に戻るの。双頭蛇の件は一刻でも早く伝えた方良いでしょ?」
「そう言われると……確かにその通りですね。分かりました、ギルドへの報告の件はお任せします。モカちゃんの方はこっちで何とか面倒を見ますので!」
「頼んだわよ。それと小娘?」
「……なんですか?」
またお小言とかグチグチ言われるんだろうなぁ、と嫌な顔をしていたら
「良くやったわ」
メルツェナさんの優しい声がふわふわと耳に届いて、じんわりと心に染み渡っていく。
こういう事をスマートに言えちゃうんだから、本当にこの人って憎めないなぁ。何だかんだで情に熱くて面倒見も良くて、叱るところはきちんと叱る。本当に良い先輩だよ。
「んじゃ、あたしは一足先に戻るわね。良い? 帰ってきたらギルドに顔を出しなさいよ? 報奨金やら報告の追加とか、やる事はたくさんあるんだからね?」
「分かりました。顔出します!」
「よろしい。それじゃまた後でね」
メルツェナさんはそう言ってマントを翻すと、木材を担いで出てきた人形たちがせっせと木材を組み始めた。
まさか……
「……え? もしかして、それに乗って帰るつもりですか?」
すごい速さで組み上がっていくのは、ロッキングチェアだ。それも少しゆったりとした作りになっていて、人形たちが敷物やクッションなどを設置している。
そしてその後ろでは大きな団扇を持った人形が待機していた。
「そうよ。流石に疲れたもの」
出来上がったロッキングチェアに座り、クッションを抱いたメルツェナさんが指を動かすと、人形たちが一斉にロッキングチェアに群がり、担いだ。
「んじゃ、あとは頑張って」
手をふりふりしながら山を降りていくメルツェナさんを見送る。
こう言う時、人形って便利なんだなぁ……なんて思いながら、隣に立つグレイグさんを見上げると、同じような事を考えていたのか、羨望の眼差しを向けていた。
そんなあたしの視線に気付いたのか、グレイグさんは顔を少しだけ赤らめながらこほんと咳払いをして、みんなの方へ向き直る。
「よし、それじゃあ、行くか」
その号令により、あたしたちは目当ての魔獣を探すために山の中へ、再び歩を進めた。
この時のあたしは、まさか数時間後にあんな事になるなんて、微塵も思っていなかった。
メルツェナさんが山を降りるのにロッキングチェアを使いましたが、実は神輿にするか山車にするか迷いました。
ただ、やっぱり大きすぎると色々と面倒なので1番小さいロッキングチェアになりました。




