1、プロローグ 剣神vs討伐隊(400人超)
趣味全開の作品です。
・女性主人公
・ご都合主義あり
・知識の間違いや勘違いがあるかも知れません。
・書きたい様に書くのでよろしくお願いします。
世界的人気を誇るフルダイブ型VRMMORPGゲーム『Blades・Linker・Online』。
剣1本で世界を切り開け、というキャッチフレーズの通り、プレイヤーは古今東西ありとあらゆる剣を使い、世界を開拓していくゲームだ。
今年で正式サービス開始から5年が経つのだが、このゲームには生きる伝説がいる。
その戦績はサービス開始以来無敗を誇り、ゲーム内ランキングは不動の第1位。
ゲーム内にたった1人しか存在出来ない【剣神】の称号を手にし、類稀なるプレイヤースキルと常人離れした反応速度によって、誰一人としてその体力ゲージを赤くすることが出来ないとまで噂されるほどの強者。
そのプレイヤーの名はモカ。
25才の日本人女性のストリーマーである。
「あらら、こんなか弱い女の子1人をぶち殺そうとするために、よくもまぁこんなに手勢を集めたものね……」
そんな彼女は今、400人を超える3クラン合同討伐隊と対峙していた。
右手には使い慣れた相棒の刀【天羽々斬】。
白無垢にも見える袖の無い純白の袴に真っ赤なインナー、二の腕までの黒い手袋、一本歯の高下駄は【剣神】の称号を持つ者のみに装備が許された【天恵の剣衣】シリーズ装備である。
「そりゃあ、自業自得だと思いますがね……」
討伐隊の先頭に立つ男が言った。
飄々とした態度、仕草、立ち居振る舞い、その全てが脱力じみた雰囲気を醸し出している。
装備も紺色のスーツにロングコート姿で、右手に持つの刀ではなく鞄であったのなら、くたびれたサラリーマンだと言えるだろう。
「ぼかぁ、あんたの配信の切り抜きを見ましたけど、あれは……騒いでいる奴らが悪いに決まってる」
モカに対して討伐隊が出ている理由は、ただ1つ。
彼女が失敗したからだ。
ゲーム内において【剣神】の称号を初めに手にした者にはゲーム内でたった1度しかない挑戦権が与えられる。
それは、この世界に一振りしか存在しない最強の剣、称号としての【剣神】ではなく、ボスとしての【剣神】が持つ『天剣』への挑戦権だ。
モカはそれに失敗した。
幾つものお使いクエストをこなし、天剣の場所を見つけるために7つの宝玉を集め切り、数々の難敵と戦い、知識を試され、そして最難関ダンジョンへソロで挑むことになった。
「まぁ、確かに。性格は悪いよね、あいつら」
モカは顎をあげて敵を睨みつけながらも、ジリジリと足を動かす事ですぐに動ける位置取りをする。
僅かに数ミリを前に出たり後ろに下がったり、あるいは右へ左へと動くことで、敵との間合いを完璧に支配していく。
(この男、前回のランキングで10位だった奴よね……)
「でもまぁ、その言葉だけで片付けたくない輩ってのもいましてね……剣神さん、言っちゃあ悪いが、あんたはやりすぎた。そりゃあ、全世界から盛大にバッシングされるってのは、大変な事だとは思いますけどね? それでもやりすぎだ」
最難関ダンジョンの最奥部にて、モカは最後の試練と対峙する事になった。
その試練とは【剣神】との一騎打ち。
それまで、フレーバーテキストやNPCとの会話でしか登場しなかった本物の剣の神がモカの目の前に顕現し、言った。
「俺に勝てばこの剣はくれてやる。だが、俺に負ければこの剣は渡さねぇ」
そしてモカの前に現れる1つのウインドウ。
そこにはこう書かれていた。
『天剣を賭けた一騎打ちを挑まれました。挑戦を受けますか? YES/NO』
モカはウインドウ越しに剣神を見る。
神とは言い難いほどにオーラは無く、長身痩躯の目つきの悪いおっさん、としか言えない。
ボロボロの着流しを着て、へたった草履を履いて、ボサボサの長髪をごちゃごちゃと纏めただけの髪型。
おおよそ剣の頂に座するとは思えないほど貧相な出立ち。
持っている剣もキャラメイクの時の初期武器だし、気配だってそこら辺の村人のように思えるし、隙だらけで、ヘラヘラと笑っているだけで、あまりにもお粗末だと思う。
だが、油断はしない。
目の前の男が剣の神としてあると言うことは、恐らく自分よりも強いのだと考えるのは当然の思考だろう。
だからこそモカは、獰猛な笑みを浮かべる。
挑んでみたい。
全身全霊を賭けて、剣の神を打ち倒したい。
全身を支配する高揚感が自然と体を震わせ、YESのボタンを押す手が震えた。
『この一騎打ちはゲーム内で一度しか発生しません。敗北すれば天剣を手にする機会は永遠に失われます。それでも挑戦を受けますか? YES/NO』
押したのはもちろんYESだ。
そして剣神との一騎打ちが始まる。
ボタンを押した瞬間からその戦いは全世界に同時生配信され、全世界のプレイヤーを熱狂の渦に巻き込む……はずだった。
「んじゃ、行くぞ」
剣神が愛刀を肩に担ぎながらペタペタと緊張感の無い音を立てて歩いてくる。そして、二人の間合いが一刀一足のそれに入った瞬間だ。
「ーーッ!?」
ただ4合を打ち合っただけ。
「……あぇ?」
たったそれだけでモカは斬り伏せられていた。
あまりにも無様な負け方だった。
全プレイヤー中最高の反応速度とプレイヤースキルを持っていると自負していたモカですら捉えられない剣速。
1合目の剣速には反応出来た。肩に担いだ剣をただ振り下ろしただけ。
2合目の剣速にも反応出来た。振り下ろした剣を返して切り上げただけ。
3合目の剣速から反応が遅れ。切り上げを途中で止め、突きを放っただけ。
4合目の剣速など反応すら出来ず。突きの体勢からまた剣を返しての袈裟斬り。
血や臓物の変わりにダメージエフェクトが飛び散る。
「あり……えない……」
「あぁ? 自分が弱えのを俺のせいにするんじゃねぇ」
モカのアバターが消滅し、リスポーンするまでの刹那でモカは見た。
あまりにも期待外れ、もっと楽しめると思っていた、果てしなくつまらねぇ……そう言った感情を全て内包したような冷え冷えとした落胆の顔を。
あり得ないほどの屈辱だった。
全プレイヤーの中で1番強い、最強だって思っていたのに。
あたしなら剣神に勝てる、そう思っていたのに。
剣神からすれば、あたしなんか道端に転がる小石の1粒に過ぎないんだ……悔しい……悔しいッ……悔しいッッ!
あたしは弱くないッ!
お前ほどの高みがあるのなら!
あたしは絶対にそこへ行くッ!
待ってろ剣神!
お前はあたしが!
絶対にッ!
「ーー殺してやるッ!」
モカの濁った瞳を向けられた【剣神】は、口角を上げて鼻を鳴らした。
「はっ! そうかよ。だったら丁度良い。こっちの準備が出来たらお前を迎えてやる。言っておくが、俺はこの俺より強いぞ?」
そう【剣神】が言ったのを聞き届け、体が完全に光の粒子となって霧散した。
こうしてモカは負けた。
そのせいで天剣は永久に失われる事となったのだ。
【剣神】VS【剣神】の『天剣』を賭けたただ一度の一騎打ち。
総配信時間は1分にも満たず、世界ランク1位のプレイヤーがたった4合の打ち合いで瞬殺された。
「ま、そのおかげであたしは世界一の有名人になったわけだけど……」
そのせいでモカは全世界のプレイヤーから盛大にバッシングされ、大炎上し、誹謗中傷の嵐に晒された。
始めの1ヶ月ほどは怖かった。
外にも出られないし、食事も喉を通らない。
誰も信じれらなくなったし、信じたくなくなった。
だが、その地獄のような1ヶ月を耐え切ると、今度は煮たたぎるような怒りが湧き出てきた。
どうしてあたしが! なんでこんなことに!? 天剣を手にする事は出来なかったけど、天剣に挑戦できたのは【剣神】の称号を持つ自分だけ。
だと言うのに有象無象からバッシングされなくちゃいけないのか。
「そういう誹謗中傷は、あたしに勝ってから言え、雑魚が」
その発言がまた炎上し、モカは1日のほとんどをゲーム内で過ごし、戦いを挑んでくる敵の全てを葬ってきた。
そんな事態になったとて、ゲーム内最強の称号は伊達ではない。
挑まれては切り伏せ、やがてモカは心に巣食う負の感情に支配されたまま、その憂さ晴らしにエナジードリンクをがぶ飲みし、徹夜での辻斬りを敢行。
5日間でおおよそ4800名のプレイヤーがその餌食となった。
そして、この事態を重く見た「新鮮組」、「従事軍」、「電卓の騎士団」の3クランが合同で討伐隊を結成し、【剣神】の称号を持つ者の所業に在らず! とモカの討伐に乗り出したのである。
「ぼかぁ、あんたの気持ちは分からないけれど……ちょっとは同情するよ」
目の前の男が、腰に下げた剣を抜く。意外な事に日本刀だった。
「行けッ! 剣神を、討ち取れッ!」
ヒュッと切先が空を切り、モカに向けられる。
その瞬間、世界を震わすような雄叫びや怒号が響き、400を超える剣士たちが我先に剣を抜き、次の【剣神】に俺はなる! と意気揚々に飛び出した。
と言うのが今から2時間前の話。
現在、立っているのはモカと討伐隊の2人の3人だけだった。
「いやぁ……噂以上、想像以上、本当に強いねぇ」
ランク7位の男は、刀を杖代わりに地面に突き、肩で大きく息をしている。
服装はボロボロで体力ゲージもあと数ミリしかない。その隣の全身純白の甲冑を着込んでいるプレイヤーも同じような有様だ。
「いいえ、あんたたちが弱いだけよ」
「上には上が、ってやつだねぇ……にしても、どんなカラクリだい? 400近いプレイヤーを相手取って、その残HP……回復アイテムを使ったとしても、被弾率が低すぎるんじゃあないかなぁ?」
そんな男の言葉に、モカはきょとんと首を傾げる。
「? 何言ってるの? 攻撃なんて、当たらなければ怖くないのよ?」
モカの言葉に、二人は思わず絶句した。
「避ける、受ける、受け流す、若しくは弾いたり、連撃が出来ないように位置取ればいい。全方位からの同時攻撃だって、同時に攻撃されてる、ってだけで、回避なんて簡単だもん。あたしを殺したいなら、あたしよりも早い奴を連れて来るのね」
その言葉が耳に届いた瞬間には、目の前からモカの姿が消えており、続く言葉は彼らの背後から聞こえてくる。
「ま、そんなプレイヤーがいないから、まだあたしが【剣神】なんだけど……ね!」
振り返る間も無く、バッサリと切り伏せられた。僅かだった体力ゲージが削り切られた二人は、その場で声もなく光の粒子となって散っていく。
「あたしを殺したいなら、倍の人数でも足りないっての……っぐ!? あぁ、またこの頭痛だ……」
強烈な頭痛に顔を顰めたモカがプレイヤーの死亡エフェクトを見つめていると、ピコンと目の前にホップアップウィンドウが出現する。
「またか……」
もう見飽きたそれに書かれているのは見慣れた文言。
『健康管理アプリより、健康を害する異常な数値が検出されたため、現在のアプリケーションを強制終了します』
その表示の下には、ゲームのホップアップがあり、『あと30秒でゲームが強制終了します。現在までの状態をセーブしますか? YES / NO』と表示されている。
「しょうがない……」
イエスボタンを押したモカは刀を鞘に納め、ドロップアイテムで埋め尽くされている草原を見渡す。
「このアイテムたちは諦めるか……」
強制ログアウトするまでの残り20秒を、モカはぼんやりと流れ行く雲を見て過ごした。
目を開く。
ノロノロと腕を上げて、頭に被ったヘッドギアを外す。瞼は重いのにギンギンと血走った瞳で両手のアームギア、両足のフットギアを外して、ベッドから起き上がる。
深緑色のショートカットは艶やかでサラサラと揺れてはいるが、綺麗な薄紅色の宝石のような瞳は見る影もないほどに澱み、血走っている。整った顔立ちだが、不健康そうな顔色と目の下のクマのせいで、死人のように見えてしまう。
「はぁ……エナドリ飲も……」
モコモコした部屋着を直しながら冷蔵庫に向かい、開ける。中には綺麗に整列した原色塗れのエナジードリンクたち。海外ファンからの定期的な仕送りのおかげでこれに困ることは無いのだが、まだ日本での認可が降りていない商品なだけに、大きな不安もある。
「でも、効き目は凄まじいんよね、これ……」
その内の一本を取り出してグビグビと飲む。
辻斬りを始めてからの五日間で、口にしたものといえばこのエナドリと案件配信でもらったカップ麺の残りだけ。しかし大してお腹が空いているわけでもないので、とりあえずエナドリを飲み干すと、モカは再びベッドに戻ってVR機器を装着して横になる。
「インしても、あのドロップアイテムはもうないだろうなぁ……」
ログインのための網膜スキャンを終えると、心臓がやけにうるさく喚いていたことなど気にも留めず、モカは目を閉じた。
始まりました。
ストックが無くなるまで、1日1話の更新予定(毎日21時30分〜22時)です。
次回の更新は6/26です。




