表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第二十四話 またまた、くまさんは春から 後編

 母さんが電話で呼び出した、猪口さんと蝶野さんは。

 面倒を見ていた詩織と菜摘を、山下さんに預けると。

 あっという間に、駆けつけて。

 宴会が始まってから一時間、大人たちはいまだ盛大に飲んでいます。

 正確に言うならば、まだどころかこれからが本番って感じ。

 何せ、寂しくなったテーブル上を充実させるべく。

 焼き物とお刺身に加えて、お酒をボトルで追加注文しているもの。

 お寿司を食べ終わった僕とあゆみは、そろそろ退屈し始めているのに。


 そんな僕らの、退屈っぷりを見た母さんは。

「退屈しているなら、お義母さまにお寿司を持っていって」

「お使いか、お駄賃はいくらくれるの?」

「どうせ退屈しているんでしょ、黙って行ってきなさい」

「これから注文して作ってもらうんじゃ、向こうに着くころには一時半だよ」

 お店に来てから一時間以上、もうすぐ十二時半だもの。

「注文はさっきしておいたから、そろそろ出来上がっているころよ」

 ちぇっ、いつの間に。

「もう、おばあちゃんはお昼ご飯を食べちゃったかも」

「電話で伝えてあるわよ、一時に良太がお寿司を届けるって」

 こんなに手回しが良いなんて、母さんらしくないな。

 どうせ、父さんから言われたんだろ。

「僕らには何も聞かずに、勝手に配達人にするなんて」

「他に誰が行くっていうのよ」

 最初から、僕らを行かせるつもりだったんだな。

 あ~あ、うちに帰って隼人と遊ぼうと思っていたのに。




 そんなわけで、僕とあゆみはおばあちゃんの家に来ています。

 玄関で出迎えてくれた桜井さんにお礼を言って、お寿司の折を渡してから。

 リビングのソファーで、あゆみから借りたハンカチで汗を拭いていると。

「まだ三月なのに今日は暑いからね、冷たいものでもお飲み」

 そう言ってくれたおばあちゃん、横暴な母さんとは大違いだ。

 桜井さんが出してくれたジュースのグラスを、一気に飲み干してから。

「こっちのふたつの折が特上にぎりで、そっちがねぎとろ巻きだよ」

 折を開けて、中を見たおばあちゃんは。

「かみ切れないものは差し替えてあるね、さすがくまさんだ」

 まさか、母さんがそんな気の利いたことをするとでも?

「それって、たぶん父さんがお店にお願いしたんだと思うよ」

「あの強がかい、あの子はあたしにそんな気を使やしないよ」

「母さんは、そもそも気を使えないよ」

 それにしても、いつものことながらおばあちゃんは。

 母さんへの当たりに比べて、父さんのことはけちょんけちょんだな。


 冷たいジュースのおかわりを飲みながら、バウムクーヘンを食べていると。

「あゆみはどうしたんだい、顔が赤いようだが」

 ジュースを少し飲んだだけで、バウムクーヘンに手を付けていないもの。

「お寿司屋さんにいたときから、興奮しているんだよ」

「あゆみが興奮するなんて珍しいね、どうしたんだい?」

「さっき、鹿山さんの新居を見てきたばかりだから」

「新婚夫婦の新居か、そんなものを見せられたんじゃ興奮するのも」

 そう言ったおばあちゃんに、あゆみは控えめに。

「姉たちは、まだ結婚はしていないんです」

「ふうん、結婚前に引っ越したのかい」

 鹿山さんの名誉のために、おばあちゃんにことのあらましを説明すると。

「そうかい、ピンチに陥った妹の友人に部屋を譲るためにねえ」

「だから、結婚前から同居することにしたんだよ」

「いい姉さんじゃないか」

 鹿山さんのことだし、あの問題がなくても同居は始めていたと思うけれど。

 いい姉かどうかは別にして、ピンチの委員長を救ったのは確かだからね。

「引っ越したといっても、良太さんのおうちのすぐ近くですし」

「そりゃあ、あゆみのためには良かったね」

 母さんだけじゃなく、おばあちゃんもあゆみには甘いんだから。

「姉妹が離れて暮らすのは、あゆみだってつらいだろ」

「つらいもなにも、どうせ食事をしに来るだろうからしょっちゅう会えるさ」

 もともと、あゆみがうちに来る前は何年も離れて暮らしていたんだし。

「そうでしょうけれど、近くに住んでいれば何かあったときでも安心でしょ」

 あゆみは反論しているけれど。

「何かがあるといっても、その何かを起こすのはいつも鹿山さんだよ」

「それは、そうだけれど……」

「近かろうが遠かろうが、本人が発生源なんだから安心はできないだろ」

「安心するのはお姉ちゃんではなくわたしよ、何かあっても助けられるもの」

 あゆみが鹿山さんを助けるのか、なるほどね。


「わたしたちも結婚してから住むなら、今のおうちの近くがいいわね」

「え~っ!」

「大きい声を出して、何が不満なんです?」

「あの町は好きだけれど、母さんと近すぎるっていうのはどうかと思うな」

「二人で暮らしていても、困ったときはお母さまやお父さまがいてくれれば」

「いつまで親を頼るつもりをしているのさ、結婚しているならもう大人だろ」

「何でもかんでも頼るんじゃないわ、困ったときにって話よ」

「父さんはともかく、母さんはいても大した役には立たないだろ」

「また、そんなことを言って」

 ここまでは、僕らのやり取りを黙って聞いていたおばあちゃんが。

「何を言っているんだい、あんたたちは結婚したらここに住むんだろ」

「えっ?」

 いきなり飛び出した衝撃的な発言に、僕が次の言葉を失っていると。

「どういうことですか、おばあさま」

「だって、くまさんがそう言っていたから」

「母さんが?」

「お母さまが、何と?」

「くまさんと二人で、この家の将来について話をしていたときにね」

「この家の将来の話をしていたのに、どうして僕とあゆみが住むことに?」

「あたしが一人でこのままずっと住むには、この家は広すぎるだろ」

「父さんが今の家に住むようになってから、ずっと一人で住んでいたのに?」

「あたしも年を取ったからね、この家を売ってマンションでも買おうかと」

「ふうん」

「強が今の家に住み続けるなら、ここは売るしかないと言ったらくまさんが」

「母さんが、何て言ったの?」

「良太とあゆみが結婚したら、ここに住まわせるからって」

 母さんたら、また本人への相談もなく勝手なことを言って。

 帰ったら、きっちり問い詰めてやる。

「あんたたちは、くまさんから聞いていないのかい?」

「うん、何も」

 あゆみも聞いていないんだろうな。

 ついさっき、うちの近くに住みたいと言ったぐらいだから。


 ちょっと待てよ。

 この家なら、二世帯で使っても余裕の広さがあるし。

 おばあちゃんとの同居なら、母さんの近くにいるよりはずっといいかもね。

 母さんを結婚させようとした、例の犬作戦を仕掛けたときから。

 僕とおばあちゃんとの仲は、すこぶる良好だもの。

 あゆみだって、おばあちゃんにかわいがられている上に。

 この家は、料理を習いに通っているから勝手を知っているし。

 何より、母さんの監視や干渉から逃れられるってのが一番の魅力だな。

「二階は、あんたたちの好きなようにリフォームしていいからね」

 ふうん、それじゃあ。

 あゆみの雷対策のため、父さんの部屋を寝室にして……。




 春休みに入ったばかりの、よく晴れた日曜日。

 両親の引っ越しに合わせて、委員長が隣の家に引っ越してきました。

 家具はそろっているし、鹿山さんがくれたテレビやレコーダーもあるので。

 荷物は、自転車と服や身の回りのものだけ。

 自転車は昨日のうちに持ってきたし、荷物は段ボール箱が六つだけだから。

 両親が引っ越すトラックには便乗せず、隼人と二人で運んでいました。

 鹿山さんもそうだったし、このスタイルは僕の周りで流行しているのかな?


 運んだ荷物を自分の部屋に置いてから、あいさつをしにうちにきた委員長。

 自分を残して名古屋へ引っ越していった、両親を見送った直後だからかな。

 心なしか、目が赤いみたいだ。

「よく来たね」

「いらっしゃい、優紀ちゃん」

 父さんと母さんに出迎えられて。

「これから、お世話になります」

 少し緊張しているみたいだな、委員長。

「うちを、自分の家だと思っていいから」

「大家さんやあたしをご両親だと思ってね」

「ありがとうございます」

 これまでも、毎日のように放課後になるとうちに来ていたのに。

 隣の家の住人になり、母さんが親代わりになったからかな?

 互いに、距離感がちょっと違うみたいだな。

「お家賃は、ご両親から預かっているお金からあたしが蝶野に渡すから」

「家賃って、いくらなのさ?」

「食費込みで二万五千円だけれど、優紀ちゃんは食事が不要だから二万円よ」

「どうして食事がいらないの?」

 山下さんが作る料理って、あゆみほどじゃないけれどおいしいのに。

「うちの家族と一緒にとることになるからよ、外食にはみんなで行くでしょ」

「俺やくまさんが二人とも遅い日は、良太やあゆみちゃんとうちで食べるし」

「週に二回から三回は、あゆみちゃんの手料理を食べることになるわね」

 委員長と三人で食べるってことか、だったら。

「そんな日は、隼人も一緒に食べていくといいよ」

「でも、うちで食事を用意しているから」

「おじいさんとおばあさんには、母さんが同意をもらえばいいさ」


「朝は、あたしはあゆみちゃんと一緒にこちらに来れば?」

「わたしは、朝食の支度をするから早いんです」

「優紀ちゃんは、七時すぎに来ればいいわよ」

「あたしもお手伝いします、あゆみちゃん一人に任せて寝ているのは」

 いいのかな、それだと六時に来ることになるよ。


「委員長のお小遣いや、必要なものを買ったときはどうするのさ?」

「良太さんっ!」

 下世話なことを言うなって顔をしちゃって、あゆみったら。

「大事なことだろ」

「お小遣いは、毎月二十五日にご両親から預かっているお金から渡すから」

「服や参考書を買ったときは?」

「事前でも事後でも、言ってくれればその都度に渡すわ」


「お風呂はうちで入るといいわ、猪口と蝶野は長風呂だから」

「良太がいるのに、お風呂あがりのパジャマ姿は……」

 おっ、この話題については隼人が食い気味に。

「心配をしなくても大丈夫よ、あたしは寝る直前まで部屋着だもの」

「隣に帰るときはどうするのさ、あゆみちゃんは架け橋を使って帰るだろ」

「あたしも、それを使って帰るわよ」

「良太とあゆみちゃんは二人でいたいだろうに、邪魔になるんじゃ?」

 遅くまで僕の部屋にいさせまいと、隼人ったら必死だな。


 そんな隼人の心配をよそに、母さんが委員長の歓迎会をすると言い出して。

「歓迎会なら、明日は日曜日だし本格的なお花見をしない?」

「引っ越したのは今日なんだから、今日のうちにするものじゃない?」

「だったら夕方から山河でしようか、その後に近くで花見をすればいいだろ」

 父さんが正しい方向に軌道修正をすると、隼人が委員長に補足説明を。

「良太の家のお花見って、川沿いを散歩しながら夜桜を見るんだよ」

「ふうん、夜桜のお花見なのね」

「少し歩いた後でお店に入ってお酒を飲む、それをお花見と称しているんだ」

 何だか、身内の恥をさらされている気分だな。


 五時になりみんなで山河に繰り出して、お店に入ると。

 なぜだか、鹿山さんと中島さんが来ているし。

「どうしたの、二人とも」

「課長に呼ばれてん、歓送迎会ちゅうことにするんとちゃうか」

「送別会や引っ越し祝いなら、ついこの間したじゃない」

 そのあおりを受けて、僕らはおばあちゃんの家へお使いに。

「めでたいこっちゃ、何度やってもええやん」

 そう言っている鹿山さんこそ、おめでたく見えるよ。




 それが母さんの性分だから、仕方がないのかもしれないけれど。

 去年のあゆみに続いて、今年は委員長の母親役を買って出ることになって。

 何でもかんでも引き受けちゃって、大丈夫かな?

 それでも、こうやってメンバーが入れ替わりながらも。

 母さんの騒がしくて忙しい生活が、またまた春から始まるんだね。


 なんて、いい話としてまとめようとしたんだけれど。

 巣立ったと思われた鹿山さんは、週に三回は僕らと夕食をともにしている。

 中島さんだって、父さんと一緒に帰ってくるから後で合流するし。

 この一年で、あゆみと中島さんと委員長が加わっただけだもの。

 ってことは、この先もメンバーは減りもせずに増える一方なのでは?




Copyright 2026 後落 超


「くまさんの春から 3rd season」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 鹿山さんのドタバタロマンスや。

 隼人君の騒動から、一転して優紀ちゃんの転校騒動など。

 二人が過ごす、騒々しい日々をお送りしてきましたが。


 次にお会いする「くまさんの春から 4th Season」では、二年の月日が流れ。

 良太君は高校二年生、あゆみちゃんは一年生です。

 三歳になった詩織ちゃんと菜摘ちゃんも、すっかりおしゃまさんになって。

 騒動の中心になることも。

 あゆみちゃんのお姉さん(お母さん?)ぶりも、すっかり板について……。

 そして、ついにあの人にもロマンスが?


 ますますにぎやかになる、「くまさんの春から 4th Season」を、どうぞお楽しみに。




「くまさんの春から 4th Season」は全二十四話、二十七年四月一日から投稿予定です。

 一年もお待たせする代わりといってはなんですが。

 二十六年の十月一日からは新作、「千里の道も歩いてみれば」を投稿予定です。

 春は「くま春」、秋は「せんある」でお楽しみいただけますと幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ