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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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第29話 走り出す日

 クラファン最終日。

 朝の倉庫は、いつもより静かだった。


 数字は 298人のまま止まっている。


「……動かないな」

 俺――白峰理久は、スマホを握りしめた。


「まあ、最終日はこんなもんよ」

 黒江斎は、ホワイトボードの前で腕を組む。


「昨日のテレビ効果で一気に伸びたんだから、

 今日は“様子見”の人が多いのよ」


「様子見って……

 今日で終わりなのに?」

 雨宮柊が不安そうに言う。


「終わりだから様子見なのよ」

 黒江は淡々と答えた。


「最後の最後で“押す”人が多いの。

 クラファンって、そういうもの」


 俺は深呼吸した。


「……信じるしかないか」


「信じるだけじゃダメよ」

 黒江が言う。


「“動かす”のよ。

 最後のひと押しを」



 俺たちは、

 昨日の技術的な課題を正直に投稿した。


『接合部の角度を3度変えることで、

 強度の突破口が見えました。

 最後まで走り抜けます。』


 投稿して数分後、

 反応が返ってきた。


“応援してる!”

“最後のひと押し、任せて!”

“科学部、かっこよすぎる”

“美人すぎる科学部員って本当だった”

“イケメン科学部員、頑張れ”


「……なんだこれ」

 俺は頭を抱えた。


「事実よ」

 黒江は平然としている。


「顔は武器。

 使えるものは全部使うの」


「言い方よ……」

 俺は呆れた。


 雨宮が静かに笑った。


「でも、

 “顔だけじゃない”って伝わってますよ。

 技術の話に反応してくれる人が多いです」


「それは嬉しいな」

 俺は素直に言った。



 昼過ぎ。

 ケーブルテレビが再放送された。


 その直後、

 数字が動いた。


298 → 301 → 312 → 327


「……来た」

 雨宮が息を呑む。


「動いたわね」

 黒江が笑う。


「テレビの力、やっぱり強いわ」


 数字は止まらない。


327 → 341 → 356 → 372


「すげぇ……」

 俺は言葉を失った。


「町が押してくれてるのよ」

 黒江が言う。


「“最後のひと押し”ってやつね」



 数字が伸びる中、

 俺たちは“角度3度”の接合部を試作していた。


「じゃあ、荷重かけるぞ」

 俺はフレームを固定した。


「いくわよ」

 黒江がメモを構える。


「お願いします」

 雨宮が息を整える。


 10キロ。

 15キロ。

 20キロ。


 ――ミシ……ミシ……


 しなる。

 でも、折れない。


「……耐えてる」

 俺は呟いた。


「次、25キロ」

 黒江が言う。


 ――ミシッ……ミシ……


 それでも折れない。


「すごい……」

 雨宮が目を見開く。


「角度3度、正解ですね」


「南条のおかげだな」

 俺は苦笑した。


「敵に助けられるって、

 なんか変な感じだ」


「敵じゃないのよ」

 黒江が言う。


「“挑戦者”は、

 同じ山を登る仲間なの」


 その言葉が、

 胸に静かに落ちた。



 夕方。

 締め切りまで、あと一時間。


 数字は 392人。


「あと少し……」

 雨宮が呟く。


「いくわよ」

 黒江が言う。


「最後のひと押し、絶対来る」


 そのときだった。


 スマホが震えた。


392 → 401 → 417 → 438


「……来た」

 俺は息を呑んだ。


「来たわね」

 黒江が笑う。


「町が押してくれてる」


 数字は止まらない。


438 → 462 → 489 → 503


「……超えた」

 雨宮が震える声で言った。


「目標……達成です」


 俺は深く息を吸った。


「……やったな」


「やったわよ」

 黒江が笑う。


「町と一緒に、

 ここまで来たのよ」


 雨宮が静かに言った。


「嬉しいですね。

 なんか……

 胸がいっぱいです」



 そのとき、

 黒江のスマホが震えた。


「……また来てる」


「南条工業か?」

 俺が聞く。


「ええ。

 見て」


 画面には、

 短いコメントがあった。


『目標達成、おめでとうございます。

 大会で会いましょう。

 共に、最高の走りを。』


 俺は言葉を失った。


「……いいやつらだな」


「敵だけどね」

 黒江が笑う。


「でも、

 “挑戦者”は敵じゃないのよ」


 雨宮が頷いた。


「はい。

 僕たち、

 ここからが本当のスタートですね」


 俺は深く息を吸った。


「よし。

 走るぞ。

 町と、南条と、

 そして俺たち自身と」


 倉庫の外では、

 商店街の旗が風に揺れていた。


 科学部は、

 ついにクラファンを完走した。

 そして、

 大会へ向けて本当の走りが始まった。


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