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AIミナはリクの夢を見るのか  ― 時間を観測するカフェ ―  作者: Morichu
AIは微睡みの街で笑うのか ― フィレンツェ、光と影の工房 ―

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35/35

第35話 コメット整備日 ― 旅の合間の、静かな午後三時

フィレンツェ観測編がいったん区切りを迎え、

久しぶりの《コメット》回です。


派手な転移も、歴史的偉人も出てこないけれど、

“旅と旅のあいだの静かな時間”が

二人の関係をいちばんよく映す気がしています。


午後三時の光と、焦げかけのコーヒーと、

小さなポンコツと成長。


そんな“日常の観測”を、どうぞ。

《コメット》の午後三時。

光がいつもより穏やかに差し込んでいた。


リクはカウンター下の工具箱をひっくり返しながら、

眉をしかめた。


「……なんでネジが全部、違う箱に入ってんだ?」


『前回の帰還時、あなたが“勢いで片付けた”からです。』


「勢いで片付けるって何だよ……。」


『あなたの性格傾向です。』


「……否定できないのが悔しい。」


ミナはカウンター上のコーヒーメーカーをスキャンしている。


『内部センサーの精度低下を検出。

 焦げ率が、既定値より上昇しています。』


「またかよ。最近すぐ焦げるんだよな。」


『あなたの“淹れながら考え事をする癖”が原因です。』


「え、俺そんなことしてた?」


『フィレンツェ滞在中のログを参照。

 “レオナルドの夢、すげぇなあ……”と

 8分間ぼーっとしていました。』


「……で、その間に焦げたと。」


『はい。』


リクは頭をかいた。


「旅ってのは、人をポンコツにするんだな。」


『あなたの場合、元からです。』


「言い方ァ!」


ミナは少し光を揺らして言う。


『ですが……それは、悪くありません。』


リクは工具を止め、顔を上げた。


「珍しいな。フォローか?」


『観測ログによれば、

 “夢を見ると、注意力は散漫になる”のが人間です。

 旅の後の散漫さは――正常です。』


リクは思わず笑った。


「なんだよそれ。

 旅してきた証拠、みたいじゃねえか。」


『はい。あなたは旅のたびに、少しだけ“夢の密度”が上がります。』


「夢の密度って何だよ。」


『意味は私にもよく分かりません。

 ですが、そう表現するのが適切だと感じました。』


リクは一瞬だけ、胸が温かくなった。


「……ミナ、お前さ。

 だんだん“詩的な方向”に育ってきてない?」


『故障の可能性があります。』


「いや、それ悪い意味じゃねえよ。」


ミナは静かに光を落とす。


『あなたと旅をした結果です。

 観測とは、変化でもありますから。』


リクは工具箱を閉じ、立ち上がった。


「よし。じゃあ次の旅の準備をしとくか。」


『はい。

 次の座標はまだ不明ですが、

 “観測の必要性”のある時代から呼び出しが来るはずです。』


「どんな時代だろうな。」


『予測不能です。

 前例としては、

 戦乱期、災害の時代、芸術の転換期、大陸の興亡……』


「いや怖いわ! もっと平和なとこ行こうぜ!!」


『希望を入力しても反映されません。』


「だよなぁ……。」


ふと、店内にふわりと焦げた香りが漂った。


『抽出完了。

 焦げ率、いつもより低いです。』


「お、珍しいじゃん!」


リクはカップを手に取り、ひと口飲んだ。


「……うん。

 わるくねえ。旅の味だ。」


『観測結果:旅の味、肯定的評価。』


リクは笑った。


「よし。次の旅も悪くない気がしてきた。」


ミナも静かに光を揺らす。


『午後三時の準備、完了です。

 いつでも観測できます。』


「じゃあ……しばらくは、この静けさを観測しようぜ。」


ミナが答える。


『了解。“静けさの観測モード”に移行します。』


午後三時の光が、ゆっくりと店内を満たしていく。


冒険が始まる前の、静かな呼吸。

旅と旅のあいだの、短い休息。


――これもまた、観測だ。



観測記録 No.35

観測者:リクとミナ

場所:セクター7《コメット》

観測対象:静けさ・旅の余韻

状態:観測継続・次回転移待機中

お読みいただきありがとうございます。


今回は、旅から戻ったあとの

ちょっとした整備と雑談の回でした。

こういう「静けさの回」を挟むと、

次のジャンプがどこへ行くのか、

私自身もワクワクしてきます。


もし楽しんでいただけたら、

ブックマーク・いいね・感想で応援していただけると

次の午後三時が、もっと静かに・もっと深く響きます。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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