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AIミナはリクの夢を見るのか  ― 時間を観測するカフェ ―  作者: Morichu
AIは微睡みの街で笑うのか ― フィレンツェ、光と影の工房 ―

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第34話 空の縁で、夢はひらく

フィレンツェ編もいよいよクライマックス。

レオナルドの「飛ぶ夢」に、観測者リクとミナがもう一歩だけ寄り添う回です。


空に触れるかどうかは、結果じゃなくて“心の軽さ”で決まる。

そんなテーマで、三人の朝がゆっくり動き出します。


広い心と楽観主義、尽きることのない好奇心。

少しポンコツで、やさしい旅をどうぞ。

日の出と同時に、丘の草が淡く金色に染まった。


フィレンツェの街並みは、まるで眠そうに欠伸をしながら

ゆっくりと光を迎え入れている。

その静けさの中、巨大な木製翼が朝風を掴んだ。


リクは滑走路代わりの草地にしゃがみ込み、

翼の接続部をひとつひとつ確かめていた。


「……うん。昨日のまま、いい調子だ。」


『強度計測、合格。

 ただし“飛びそうな雰囲気”は数値化できません。』


「そこは感覚でいいんだよ。」


『非論理領域、あなたの得意分野です。』


「ポンコツって言ってるだろ、それ。」


ミナは何も言わず、

光の粒子だけを揺らして微笑んだ――ように見えた。



レオナルドが丘の上から歩いてくる。

いつもより少しだけ丁寧に、服のしわを伸ばしている。


「……緊張してんすか?」


「うむ。緊張とは……未来を恐れる心の震えだろう。」


リクは工具を持ったまま、肩をすくめた。


「まあ、震えるくらいが丁度いいですよ。

 震えるってのは“ちゃんと夢を掴みにいってる証拠”です。」


ミナも続ける。


『恐れは正常です。

 わたしもあなたが落ちた時、処理が乱れました。』


「それは恐れじゃなくて故障だろ。」


『……たぶん。』


レオナルドがそっと翼に触れた。


「友よ。この翼は……本当に空と対話できるだろうか。」


「できますよ。

 今日飛んでも、飛ばなくても……

 “空に触れようとした記録”は残りますから。」


レオナルドはゆっくり頷いた。


「では――始めよう。」



リクとミナが翼の後ろにつき、

レオナルドは前方のフレームに軽く乗り込む。


『風速、上昇。

 気流、安定。

 飛行条件……整いつつあります。』


「よし……じゃあ、押すぞ。」


リクは深く息を吸った。

この一瞬が好きだった。

夢と技術が一番近づく瞬間。


「レオナルド、準備は?」


「いつでも飛べる。」


「よし――行こう!」


リクとミナは同時に翼を押し出す。

滑走路代わりの草がざわめき、

朝の空気が翼の布を震わせた。


翼が浮いた。


ほんの、ほんの数センチ。

けれど確かに、浮いた。


「ミナ! 今、浮いたよな!?」


『はい。高度“リクの靴底1枚分”です。』


「単位が雑ぅ!」


レオナルドは目を見開き、風の中で叫んだ。


「……空だ! 空の感触だ!」


翼が少しだけ上がり、すぐ地面に戻った。

それで十分だった。

その一瞬こそ、彼の“未完の祈り”の中心だった。


――空に触れた。


ミナの声が静かに震えた。


『観測完了……

 “飛びたい心”は、十分に軽くなりました。』


リクは深く息を吐き、笑った。


「……良かったな、レオナルド。」


翼を降りたレオナルドは、

風に押された髪をそのままに、

リクの肩を強く掴んだ。


「友よ。そなたらとの出会いが……

 わたしの空だった。」


その言葉を聞いた瞬間――


風が変わった。


草が揺れ、空気が震え、

焦げたコーヒーの香りが、丘にふわりと漂う。


ミナが告げる。


『帰還条件達成。

 “飛べなかった夢”の記録修復――完了です。』


リクはレオナルドに軽く頭を下げた。


「短い間でしたけど……楽しかったです。」


レオナルドは静かに笑った。


「未来の整備士よ。

 そなたの手は、誠実で暖かい。

 その手で、これからも多くの空を――」


言葉が光に溶けていった。


視界が白く染まり、

フィレンツェの丘の風が、ゆっくりと遠ざかる。


ミナがそっと囁くように言った。


『――午後三時、観測を完了します。』


光に包まれたまま、

リクは微笑んだ。


「またいつか、あの空へ。」



観測記録 No.34

観測者:リクとミナ

転移先:15世紀末・フィレンツェ郊外

観測対象:レオナルドの“飛ぶ祈り”

状態:観測完了・帰還処理中


読んでくださり、ありがとうございます。

フィレンツェ編は、レオナルドの「未完の祈り」へそっと触れる章でした。


飛ぶか飛ばないかよりも、

“飛ぼうとした意図”を観測し、心を軽くする――

観測者リクとミナらしいエンディングになったと思います。


この旅はまだ続きます。

次の時代にも、静かな午後三時の風が吹きますように。


感想・レビュー・応援コメントをいただけると、とても励みになります。

また次話でお会いしましょう。

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