第八十四話 宇佐山城の危機
宗則は、覚恕から託された紹介状を握りしめ、心に重い責務を抱えながら信長軍との合流を急いでいた。野田城の戦いから撤退してきた信長とその軍勢が目の前に迫り、宗則の心に安堵と緊張が交錯した。
信長を前にしたとき、宗則は深く一礼し、覚恕との会談内容を報告する決意を固めた。
「信長様、覚恕様との会談結果ですが、覚恕様は和平を望んでおります」
信長の鋭い眼が宗則を捉え、その視線には冷静さと深い感情が宿っていた。
「ほう、それで覚恕はどう出るつもりだ?」
「覚恕様は御上の弟君として、国の安泰を心から願っております。信長様に和平を求めています」
「そうか……しかし、今は宇佐山の状況次第だ。来い、全軍を動かすぞ」
宗則は信長と共に急ぎ宇佐山城へ向かった。その途中、聞こえてくる戦の喧騒が宗則の心に緊張と決意を呼び覚ます。
宇佐山城に突入した信長軍は、今にも落城しそうな城内の闘気に包まれながら、浅井・朝倉勢と激突した。敵兵たちの絶叫と剣戟の音が響き渡る中、宗則は一瞬の躊躇もなく駆け込んだ。
信長が剣を振り上げた瞬間、騎馬で突撃し、彼の声が怒りと共に響き渡った。
「全軍、儂に続け!浅井・朝倉勢を討ち取るのだ!」
信長の突撃に続き、信長軍が一斉に動き出し、浅井・朝倉勢を駆逐していく。その光景はまさに戦場の修羅場であった。
城内に入った信長と宗則が目にしたのは、無念の中で倒れた森可成の亡骸であった。
「可成……」
信長の眼に宿る悲しみと怒りが、一瞬の間に彼の心を彫り込んだ。信長の拳は激しく震え、その握り拳からは一滴の血が零れ落ちた。
「可成。長年支えてくれた…お前の無念に応えるために、立ちはだかる者は儂がこの手で全て討ち取ると誓おう」
信長の叫びが兵たちの胸に響き、士気を一層高めた。
「浅井・朝倉勢を討ち滅ぼすのだ!」
「うおおぉぉぉぉおおおぉおおおおぉぉぉおぉ!!!!」
その号令に呼応するように、信長軍の奮戦は続き、浅井・朝倉勢は比叡山へと撤退し、籠城を決意していた。
「明智光秀、佐久間信盛よ、比叡山を包囲せよ。覚恕のしたことを解くためにもな」
宗則の心に湧く覚恕の言葉と紹介状の存在が、信長に訴えた。
「信長様、覚恕様からこの紹介状をいただきました。彼の和平の願いを信じていただければと…」
信長の視線が紹介状に注がれ、その目が見開かれる。
「これは……宗則、お前は大和へ行け。この紹介状の意図を確かめて来い」
信長の驚きと冷徹な指示に、宗則は深く一礼して答えた。
「ありがとうございます、信長様。必ずや果たしてまいります」
その後、信長軍は比叡山の包囲を続ける。宗則は覚恕から託された紹介状を手にして、大和へと向かう決意を固めた。
「私の運命はここにある。共に新たな道を切り開こう」
比叡山の包囲が続く中、宗則は大和への道を歩み始めた。その背には広がる比叡山の景色が、新たな試練と運命の道を照らしていた。
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