第六十話 南蛮との接触と陰謀の深化
永禄十二年(1569年)春。
二条城の桜が、春の到来を告げるように、美しく咲き誇っていた。
しかし、京の都には、花見を楽しむ余裕などなかった。
信長の上洛によって、都の空気は、一変していたのだ。
信長は、南蛮貿易に興味を示し、ポルトガル人の宣教師、ルイス・フロイスとの会談を計画していた。
「南蛮との交易は、莫大な利益をもたらす。それに、南蛮の技術や文化は、わしの天下統一にも、役立つであろう」
信長は、家臣たちに、そう語った。
彼の言葉には、強い野心が込められていた。
信長は、岐阜城から京へと戻り、二条城で、フロイスと対面した。
「拙者、ルイス・フロイスと申します。南蛮より参りました。日本と南蛮の架け橋となるべく、参上いたしました」
フロイスは、ぎこちない日本語で、信長に挨拶をした。
信長は、フロイスの言葉に、静かに微笑んだ。
「面白い格好をしておるな、南蛮人」
信長は、フロイスの服装を、興味深そうに眺めた。
「汝の国では、どのような文化が栄えておるのか?詳しく聞かせてもらおうか」
信長は、フロイスに、南蛮のことについて、様々な質問を浴びせた。
フロイスは、信長の質問に、丁寧に答えていった。
信長は、フロイスから、南蛮の文化や技術、そして、キリスト教について、
熱心に話を聞いた。
彼は、新しい知識や情報に、常に貪欲だった。
「鉄砲か…面白い。南蛮の技術はわしの天下統一に役立つかもしれぬ…」
信長は、フロイスが持参した鉄砲を手に取り、
興味深そうに、その仕組みを尋ねた。
一方、公家内では、南蛮との接触に対する動揺が広がっていた。
保守派の公家たちは、この新たな動きを、
どう対処すべきかを論じ合っていた。
「南蛮との接触は、危険じゃ! 異国の文化や宗教が、この国に入ってくることで、混乱が生じるであろう」
「しかし、信長殿は、南蛮貿易に、強い興味を示しておられる」
「我々が反対したとしても…信長殿は聞き入れてしまうでしょう」
公家たちは、不安と焦燥を、隠せない様子だった。
二条晴良は、公家たちの不安を、利用しようと考えた。
「南蛮との接触は、我々に機会をもたらすかもしれない。同時に、幕府の力を強化する好機ともなり得る」
晴良は、公家たちに、そう語りかけた。
「信長は、南蛮との接触を進めることで、朝廷や仏教勢力の反感を買っている。今こそ、我々が、彼らと手を組み、信長を、都から追い出す時だ」
晴良の言葉は、公家たちの心を、揺さぶった。
彼らは、信長への恐怖と、自らの権力への執着から、晴良の誘いに、乗ってしまうかもしれない。
宗則は、公家内での動揺を感じ取りながらも、南蛮との接触が日本にもたらす影響を考え、陰の気がどこに集中しているのかを感じ取るべく、星を観察していた。
そして、彼は、綾瀬に、公家や寺院の関係者、そして、二条家の残党について、情報を集めるように指示した。
「はっ! 宗則様」
綾瀬は、宗則の言葉に、力強く答えた。
彼女は、すぐに、屋敷を出て、情報収集に向かった。
南蛮貿易に伴う変化が、市場にも現れ始めていた。
異国の品々が並ぶ中で、公家や幕府の動きが、複雑さを増していた。
しかし、南蛮との接触がもたらしたのは、経済的な影響だけではなかった。
都周辺の本願寺や比叡山延暦寺などの仏教勢力もまた、キリスト教の影響に、敏感に反応し、義昭のもとには、苦情が相次いで寄せられていた。
「この異教徒たちの影響が強まれば、我々の信仰も揺らぎかねない。義昭様、どうかこの状況をお取り計らいください」
義昭は、南蛮との接触がもたらす混乱に悩み、信長との関係悪化を恐れながらも、宗教勢力の圧力を避けることができなかった。
彼の瞳には、苦悩が深く刻まれていた。
義昭が多くの問題に囲まれる中で、二条晴良は、その影響力を利用できることに気づいた。
「これは好機だ。彼ら宗教勢力を我々の側に引き寄せ、信長との対立を煽れば、信長包囲網を形成する機会となる」
晴良は、自らの屋敷に、公家たちを集め、密談を始めた。
「諸君、信長を倒す機会が到来した」
晴良は、静かに、しかし力強く、言った。
「信長は、南蛮との接触を進めることで、朝廷や仏教勢力の反感を買っている。今こそ、我々が、立ち上がる時です!」
晴良の言葉は、熱く、公家たちの心を、燃え上がらせた。
「我々は、二条家の再興を願っております…!」
「信長を倒し、再び二条家を都の頂点に…!」
公家たちは、口々に、そう叫んだ。
彼らの瞳には、信長への憎しみと、権力への執着が燃えていた。
その頃、宗則は、晴良の屋敷の周辺に、結界を張り、彼の行動を監視していた。
そして、彼は、晴良が、夜な夜な、怪しい人物と密会していることを、突き止めた。
(晴良殿は、一体何を企んでおられるのか…?)
宗則は、不安に駆られた。
彼は、この陰謀を、阻止しなければ…と、思った。
(続く)
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