第五十九話 浅井長政の苦悩と陰謀の伏線
永禄十二年(1569年)冬。
京の都は、雪に覆われ、静寂に包まれていた。
しかし、その静寂は、新たな戦乱の始まりを告げる、不吉な静けさだった。
信長は、美濃へと戻り、義昭は、将軍として、京の都に残された。
だが、二人の間には、すでに、深い溝ができていた。
信長と同盟を結んだ浅井長政が、京を訪れていた。
彼は、信長への臣従の証として、
そして、
義昭への挨拶のため、
はるばる、
北近江の国から、
やってきたのだ。
「長政殿、ようこそ、京へ」
義昭は、長政を、笑顔で迎えた。
しかし、長政の顔色は、優れなかった。
彼は、信長への恐怖と、朝倉家への義理の間で、激しく葛藤していた。
「義昭様、お久しぶり…に…ございます…」
長政は、義昭に、ぎこちなく頭を下げた。
彼の視線は、落ち着かず、どこか遠くを、見ているようだった。
「長政殿、信長殿との同盟は、順調に進んでおると聞いておるが…」
義昭は、長政の異変に気づきながらも、努めて、明るく言った。
「はっ…信長殿とは…お市を娶り…同盟関係に…ございます…しかし…」
長政は、言葉を詰まらせた。
彼は、信長への恐怖を、義昭に、打ち明けることができなかった。
「長政殿、何か悩みがあるのか?」
義昭は、長政の苦悩を、察した。
「いえ…何でも…ありませぬ…」
長政は、慌てて、首を横に振った。
しかし、彼の顔色は、ますます、悪くなっていった。
(信長殿は…まことに…恐ろしきお方…)
長政は、心の中で、そう呟いた。
彼は、信長の冷酷さと、容赦のなさ、そして、底知れぬ野心を、恐れていた。
(…しかし…わしは…お市様…を…娶って…しまった…)
長政は、自らの運命を、呪った。
彼は、信長と、敵対することなど、できなかった。
しかし、
朝倉家への義理も、
また、
彼を苦しめていた。
その夜、宗則は、二条城の天守閣に登り、天文を観測していた。
冬の夜空には、無数の星が、輝いていた。
しかし、宗則の目には、その星々が、不吉な光を放っているように、見えた。
(これは…!?)
宗則は、背筋に、冷たいものを感じた。
北斗七星の輝きが、鈍く、そして、南斗六星が、不自然に、赤く光っている。
それは、まるで、天が、血を流しているかのようだった。
(これは…一体…?)
宗則は、不安に駆られた。
彼は、この不吉な予兆が、何を意味するのか、分からなかった。
しかし、彼は、何か…恐ろしい…こと…が…起こる…前兆…を…感じていた。
(…長政殿…あなた様…は…一体…?)
宗則は、長政の運命を、案じた。
数日後、二条城内での宴席。
優雅な音楽が流れ、美しい舞が披露される。
公家たちは、華やかな衣装を身につけ、酒を酌み交わしながら、談笑していた。
しかし、その華やかさの裏では、冷たい視線が交錯し、陰謀の言葉が、囁き合われていた。
宗則は、その場に漂う、不穏な空気を、感じ取っていた。
彼は、酒を口にすることなく、周囲の様子を、注意深く観察していた。
「長政殿、信長殿との同盟は、順調に進んでおると聞いておるが…」
義昭は、長政に、声をかけた。
「はっ…信長殿とは…お市を娶り…同盟関係に…ございます…しかし…」
長政は、言葉を詰まらせた。
彼は、信長への恐怖を、義昭に、打ち明けることができなかった。
その時、二条晴良が、長政に近づき、
低い声で、
言った。
「長政殿、信長殿は、危険な男ですぞ。
彼は、義昭様を、利用しているだけです。
いずれ、義昭様も、我々も、信長に、切り捨てられるでしょう」
晴良の言葉は、
毒のように、
長政の心に、
染み渡った。
「…信長…を…制御…する…ため…に…は…この…機会…を…逃すべき…では…ありませぬ…幕府…の…力…を…取り戻さねば…なりませぬ…」
晴良は、長政の耳元で、
囁くように言った。
「…信長…を…排除…し…そして…義昭様…を…真の…将軍…に…」
長政は、晴良の言葉に、
心を奪われた。
彼は、
信長への恐怖から、
逃れるために、
そして、
自らの野心のために、
晴良の誘いに、
乗ってしまうかもしれない。
宗則は、長政と晴良の会話を、
陰から、
聞いていた。
彼は、
晴良の言葉が、
長政の心を、
蝕んでいくのを、
感じ取った。
(…まずい…このままでは…長政殿…が…!)
宗則は、
陰謀を阻止するために、
何かしなければ…と、
思った。
その時、彼の背中に、
冷たいものが触れた。
振り返ると、
そこには、
綾瀬が立っていた。
「…宗則様…何か…感じる…の…です…か…?」
綾瀬は、
宗則に、
静かに尋ねた。
彼女の目は、
鋭く、
そして、
冷たかった。
「…ああ…綾瀬…何か…不吉な…気配…が…」
宗則は、
綾瀬に、
自らの不安を、
打ち明けた。
「…長政殿…の…周り…に…陰謀…の…影…が…渦巻いて…いる…」
「…わたくし…が…調べましょう…宗則様…」
綾瀬は、
宗則の言葉に、
静かに頷いた。
そして、
彼女は、
闇の中に、
消えていった。
(続く)
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