表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/59

59 最終話 新たなる出航

いよいよ第一章最終話です。




 秋も深まった日の早朝、紺碧の海に滑るように西へと進む船団があった。

 巨大なガレオン船とそれを護衛する斜め後方にフリゲート艦が二隻、いずれもマストに王冠を戴いた翼のある獅子と薔薇の旗を掲げている。

 そのデッキで黒い軍服に一つに括った銀色の髪を靡かせて海を眺めているのはディアーナだ。

船の右舷に並走する銀色の鱗を煌めかせて飛ぶように海の中を進む大きな聖獣のシーサーペントに手を振る。


「ヒャッハー!やっぱイイな海は!」


応えるのはアルファルドだ。

 アルファルドは普段は小さな姿となり移動の時はいつもディアーナの肩に乗っている。

以前は蛇のように這って進むか小さな翼をパタパタと動かして飛んでいたのだが、床を這うと汚れるし、飛ぶと疲れるのでこのスタイルが一番楽だということで落ち着いた。

たまにディアーナの護衛騎士のカイルの頭の上に乗っていることもある。


 ディアーナとリオンハルトは今、昨日から行われているマルティオス辺境伯領の秋の(フェスタ)に参加するため帰郷の途中である。

ディアーナは昨年に続いて今日の夜、海神トリトーネへ祈りを捧げる巫女「聖なる乙女」の役を行うこととなった。

 帝都から途中、三ヶ所の港に寄港し、四日間のゆったりした船旅だ。

 ちなみにビエナブルクの海戦の時、いち早くドニエーブル帝国海軍の動きを掴んだマルティオス騎士団の船は、南からの海流に乗り風魔法を駆使して昼夜休まずオールで漕いで何とわずか1日でビエナブルク港沖まで達したという。

やっぱり脳筋集団である。

 

 あの戦勝の夜会が終わった後、ディアーナは悩んだが結局マルティオス領へは帰らず帝都に残った。

 皇帝陛下や神殿からの要請もあり、聖女として授かった能力(ちから)をこの国と民のため役に立てたいと思ったからだ。

 泣く泣く領地へと帰る父やマルティオス騎士団の皆を見送り、今は帝都にあるタウンハウスから神殿や帝宮に通い聖女としての勉強を続けている。

 ゆくゆくは魔獣を討伐して瘴気を浄化し、聖水を作ったり病人や怪我人を癒し、聖女としてリオンハルトの役に立ちたいと考えている。

 もちろん騎士として時間のある限り第一騎士団の鍛錬に参加して皆からは今まで通り接してもらっている。


「ディア、ここにいたのか。もうすぐバレッサ港に入るぞ。」


 そう言ってキャビンから出てきたのはリオンハルトだ。

同じ黒い軍服を着たリオンハルトはディアーナに並びデッキより景色を眺める。

 透き通るようなエメラルドブルーの美しい湾の入口にある岬の先端には海神トリトーネを祀る白い神殿が見える。

湾の奥には白い石造りの建物が建ち並びマルティオス辺境伯領の領都バレッサの街並みが見えてきた。

二人にとっては懐かしい見慣れた景色だ。

 そうして巨大なガレオン船はゆるゆると港に入り乗組員達がテキパキと接岸し下船の準備を始める。

 港にはジェラールやラディアス、マルティオス騎士団の者達が皇太子と聖女を出迎えるために整列し、たくさんのバレッサの街の人々が懐かしい二人の姿を一目見ようと詰めかけていた。

 並び立つリオンハルトが、


「今日は大人しく飛び降りずにエスコートさせてくれるかな。ディア。」


と笑いながら手を差し出す。


「もう!兄様ったら。」


思わず以前のように返事をしてしまったディアーナも笑いながら恭しく手をのせた。

 タラップを降りると整列する騎士達の前に父ジェラールが笑顔で二人を迎える。


「ただいま帰りました。父上。」


と、笑顔で返すリオンハルトにジェラールが二人の肩を叩く。


「よく帰ったな。二人とも。」


「お父様…。」


そしてがっしりと抱き合った三人に周りからわっと歓声と、「お帰りなさい!」といった声が上がった。

 それから騎乗した二人は騎士達に囲まれて神殿へと向かう。

 一年前と同じように、バレッサの街は色とりどりの花やリボンで飾り付けられ、いくつもの屋台や露店が出てたくさんの人々が笑顔で秋の(フェスタ)を楽しんでいた。


 やがて日が沈み東の大地から大きな月が昇ってきた。

 ディアーナは前回と同じく、身を清め、長いトレーンを引く純白の衣装をまとい、頭には百合の花冠を乗せて聖なる乙女として祈りを捧げるため海に突き出たテラスへと向かう。

 昨年とは違い、今回、ディアーナの左肩には海神トリトーネの巫女の証である百合の花の形のあざがあり、聖女を護衛する真っ白な聖騎士の制服を着たリオンハルトが付き添っていた。

 本物の聖女様と聖騎士である皇太子殿下による儀式を見物するために集まっていたたくさんの人々は二人の神々しい姿に息を呑んだ。

 そして祈りの言葉と共に巫女がオリーブの枝を海へと投げ入れた時、暗い海面がパァッと白く輝き、海神の御使いである大海蛇(シーサーペント)が姿を現した。

驚く人々を前に、


「巫女の祈りは確かに受け取った。

今年も豊穣と海の安寧を約束しよう。」


と厳かに宣言した。

 そして空一面に星のような煌めく光の花びらを降らせる。

青い月の光を浴びて虹色に輝く銀色の鱗を持つ聖獣の出現に神官を始め人々はこの奇跡の光景に感動の余り皆跪き感謝の祈りを捧げた。


 その夜、祭の熱に浮かされてディアーナとリオンハルトは岬をそぞろ歩いていた。


「一年前はこんなふうに二人で話をするなんて思ってもみなかったな。」


「本当に。こんな事になるなんて想像もできなかったわ。」


 護衛達を遠ざけ、ディアーナとリオンハルトは聖女と聖騎士の姿のまま兄妹に戻って岬のバルコニーより月の光に金色にさざめく海を見つめて静かに語らっている。


「そうだな。あの頃はずっとこの幸せが続いていくものだと思っていた。」


「そうね。いろいろありすぎて何だかずっと昔の事みたい。たった一年前のことなのに。」


 リオンハルトは紫紺色の瞳に強い光を湛えて夜の海を見つめている。


「あれからこの身に起こった出来事は、あまりにも信じられない事ばかり次々に起こって無我夢中でまだ夢の中で足掻いているような気持ちなんだ。

でも今、これだけは言える。

過去をやり直すことはできないし、これが自分に与えられた運命なら、受け入れて前へと進むしかないんだと。」


「リオン兄様…。」


ディアーナはリオンハルトの決意を秘めた精悍な横顔を見つめる。


「私も私に与えられた運命を受け止め、少しでも兄様のお役に立てるように精一杯頑張っていきたい。」


「ディアーナ…。

なら私にお前を守らせて欲しい。

それが母上の最後の願いだった。」


 リオンハルトはディアーナに向き合い突然跪いた。

そして右手を左胸の上に当て左手でディアーナの手を取った。


「我、リオンハルト フォン ローゼンシアは聖騎士の名に於いて聖女ディアーナ マルティオスに騎士として生涯の忠誠を捧げん事を誓う。

以後、貴女(あなた)の剣となり盾となって貴女をお護りする栄誉を与えられん事を。」


そう言ってディアーナの左手の甲に唇を落とした。

 突然の「騎士の誓い」にディアーナは驚き言葉が出ない。

そっと唇を離したリオンハルトの真剣な眼差しにじわじわと感動が押し寄せる。

たぶん真っ赤な顔をして、やっとの思いでリオンハルトの腰から白金の美しい剣を引き抜きゆっくりと左肩に剣を落としてアコレードを返す。


貴殿(あなた)の忠誠を受け入れます。

生涯、聖騎士(パラディーン)として(わたくし)の庇護の下に。」


 そう宣言するとキラキラとした星屑のような光が二人の上に舞い降りた。



 次の日の朝、領主の館、グランマスターズ城で一夜を過ごしたディアーナとリオンハルトはジェラールとともに母、アマリアの墓を訪ねた。

 墓地はトリトーネ神殿の近く、青い海を見下ろす丘の上にある。

 白百合にガーベラやダリアを添えた明るい色の花束を墓前に供えリオンハルトとディアーナが跪き祈る。

 そんな二人の後ろ姿を見てジェラールの胸に感慨深い思いがよぎる。

 リオンハルトは数奇な運命に翻弄されながらも自らの手で、皇太子として、将来の皇帝としてこの国の未来を背負っていく道を切り拓いた。

そしてディアーナの守護騎士として誓いを立てたという。

その左手の指には二人の母からの思いを託されたタンザナイトの指輪が光っていた。

 ディアーナは騎士として己を鍛え、兄を慕い家出までしたかなりのじゃじゃ馬娘ではあるが、皇妃の筆頭侍女だった母の薫陶を受けて美しい淑女(レディー)となった。

これからは聖女としてリオンハルトを支えこの国のために尽くす事を決めた。

 そんな未来を選んだ二人を眺めながら、ジェラールはまるで雛鳥の巣立ちを心配して見守る親鳥の気分だなと苦笑した。


(大丈夫よ、あなた。

だって、(わたくし)達の子ですもの。)


と、爽やかな海風にアマリアの笑い声が聞こえた気がした。


 そうしてディアーナとリオンハルトは最終日の秋の祭をレグルスとアルファルド達とともに楽しみ、夜、グランマスターズ城にてラディアスやマルティオス騎士団の皆と賑やかに宴を開いて別れを惜しんだ。


 そして今日、短いマルティオス領での滞在を終え、帝都ビエナブルクへ向けて船は出航する。

 港にはジェラールを先頭に騎士達が整列し、たくさんの街の人がお見送りに集まっていた。

 別れの挨拶をしたリオンハルトにジェラールが最後の号令を掛ける。


「御身の征く先に女神の加護のあらんことを!」


カツンとブーツの踵の音を響かせて、ザッと皆が一斉に右腕を胸に当てた。


「ローゼンシア帝国万歳!」


「リオンハルト皇太子殿下万歳!」


「聖女ディアーナ様万歳!」


 歓声に見送られ、高々と王冠を戴いた翼のある獅子と薔薇の紋章の旗を掲げた巨大な船が東へと白い波をかき分け青い海を進んで行く。

その船首には、手を繋ぎ瞳を輝かせて立つリオンハルトとディアーナの二人の仲睦まじい姿があった。


第一章が当初の予定よりだいぶ長くなりましたので、この話で一旦完結とさせて頂きます。

長らくお付き合い下さいましてありがとうございました。

しばらくお時間を頂いて、第二章「聖女の覚醒」を連載予定です。

第二章はディアーナとリオンハルトの新しい関係を中心にまたまた新たな波乱の予感?

引き続きお楽しみ頂けると幸いです。


励みになりますのでぜひぜひブックマークや評価をしてもらえますようお願い申し上げます。


それではまた。  ふう



活動報告の方にこの物語の設定や小ネタを載せていますので良ければご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ