これまでの話
「さて……これからどうするか」
殺されてからもしばらく、エレノアにずっと話しかけていたテンマだったが、復活アイテム使用待ちの三十秒を過ぎたところで、その姿を消した。
とは言っても、最後に訪れた街マップに戻されただけだろう。彼がエレノアに連れて行ってもらったあの村だ。
>>話がしたい
「話? なんのだよ」
彼のその返しは意外だったのか、しばらく間が開いた後、
>>あなたのこと
エレノアはそう返事をしてきた。
>>別世界に生きてきた人間だっていう話を、もっと詳しく
「なんだそりゃ」「お前も俺の話を信じないとか設定だとか言うつもりか?」
>>わたしは、信じてる
その返事は、これまで彼女が打ってきた言葉の中では、かなり早い言葉だった。
>>あなたが、助けてくれた
>>ソレh絶対にプログラム何kじゃない
>>だから、あなたのkとおが、もっとしりあい
慌てて打っているせいだろう。打ち損じが激しい。
しかしそうまでして、彼に早く伝えたかったのだろうことが分かる。
彼が本当に別世界の人間だと信じている、ということを。
……まあ、エレノアの中の人からしてみれば、身を挺してまで庇ってくれたようなものだからな……アレがイベントの一環だとすれば、テンマに付き纏われていた頃から仕込みということになってしまう。
もしそうじゃなかったとしたら、プレイヤーが困っているのを察知して助けてくれるNPCのイベント、ということになるが……それもまた同様に荒唐無稽だと言える。
……異世界人だ、ってのを信じるほうも大概荒唐無稽だけど。
でもまぁ……彼女の年齢が低ければ――さっきも考えた通り中高生ぐらいだったなら、信じたい方を信じてしまっても、なんらおかしくはない。
付き纏いから仕込みなのか、プレイヤーを助けてくれるNPCなのか、生きた人間だから助けてくれたのか……どれを信じるかは、本人の性格というよりかは、どれだけ夢を失ってしまったに依るのかもしれない。
「お、おう……なんかすっげぇ噛んでて分かり辛かったが、必死なのは分かった」「ま、もう付き纏うな、って言われてた頃を思えば、進歩してるわな」「っていうか、アイツのせいで俺を遠ざけてたのか? お前」
しばらく、間が空いて、
>>目立ちたくなかった
短くソレだけが返ってきた。
打ち損じを噛んだと認識されたのを恥ずかしがったのかもしれない。
「は?」「でもお前、この戦うための世界で戦わないのはチヤホヤされたかったとか何とか言ってなかったか?」「それってつまり目立ちたいってことだろ?」
>>最初はそうだった。でも今は違う
今はひたすらに目立ちたくない、ということか。
>>目立ったら、彼の目に留まりやすくなる
「なるほど」「それがイヤだったと」
>>うん
「だからこんな奥地にずっと隠れてるようなことしてたのか」「んなコソコソするなんて、なんかやましいことでもしたのか?」
そこまで言った後、はたと、彼は気付いた。
「っと、そういやここにずっといるのはいけねぇよな」「さっさと別の場所に移動するぞ」「アイツが帰ってくる」
>>私は、ひきょ
途中まで打っていたであろう言葉が、チャットウィンドウに表示される。
>>じゃあ、このエリアの村にワープする
しかし、彼の警戒心が尤もだと思ったのか、エレノアはそのことには何も触れず話が進んだ。
「おいおい、それこそアイツがそこで待ってるかもしれねぇだろ」
>>じゃあ、どうするの?
「歩いてこのエリアを出るしかねぇだろ」「見つからないようにしながらな」
それは……かなり難しいだろう。
非課金アイテムで売買されているアイテムは、最後に辿り着いた街へとワープするものだけ。課金アイテムなら好きな街にワープすることも出来るんだが……エレノアの課金履歴を調べてみると、これまで一度も課金したことが無かった。
オリジナルの服を作って公式サイトを通じて売れば、「ラッキー・スター」専用ネットマネーがある程度入るのに、それすらも無かった。
非課金を貫いているプレイヤーなのか、はたまた課金するほどのお金が無いのか……。
ならばと、彼のその提案を受けるのもまた危ない。
彼は自分たちが必ず俯瞰で見られることを知らない。それはつまり、相手の視界に入らないよう障害物から障害物へと移動していても、相手には見つかってしまうということだ。
まあ、見つかってもまた彼が倒すかすれば済む話ではあるが……移動先から次の街に先回りされ、そちらから彼とエレノアへと向かってくるかもしれない。
……仕方がない。
正直ここまでの状況を見ても、「ネットゲームストーカー」としてテンマのアカウントを停止することは出来ないだろう。
というか、言い方が悪くなるが、こうした話はネットゲームならよくある話なのだ。
そしてそういう時は決まって、ゲーム内のことはゲーム内で解決してもらうという方針で落ち着いている。
……とはいえ――
>>聞こえる?
――このまま、という訳にもいかないだろう。




