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04 朝の出来事

 朝食終えて、俺は制服に着替えて、荷物を持って外に出る。

 そして、お隣の幼馴染の三森結花が出てくるのを待つ時間が始まる。

 俺はこの時間は嫌いではない。

 朝の新鮮な空気はうまいし、普段は見向きもしない裏庭で飼っている愛犬とも戯れることも出来る。後、母さんが趣味でやっている花を眺めることも出来、新しい花を買ってきたのをこの時間で知って、家に居る時にその事を言うとすごい嬉しそうに話し始める。親子のコミュニケーションの手助けにもなっているすばらしい時間だ。


「……なにやってんの、あんた」


 そう背後から声が聞こえた。姉貴だ。どうやら、もう家を出る時間だったらしく、玄関で結花が出てくるまで居座る俺と鉢合わせしたらしい。

 正直、いつものように無視して欲しかったのだけど、こういう時に限って話しかけてくるのだから厄介だ。俺が結花が出てくるまで待っていると知ったら姉貴は今以上に俺を軽蔑するだろうし、更に最悪の場合、結花にそのことを話させてしまう可能性がある。

 答えに窮していたが、俺は苦し紛れに、


「か、母さんの花見てる」


 そう言った。一応、事実ではあるし。


「…………」


 姉貴はすげー気味が悪そうな顔して、俺の横を通り過ぎて行った。

 そりゃあ、そうだよな。朝早くから出ていった弟が自分が出るまで母親の趣味の花をずっと眺めていたなんて、気味が悪すぎる。仕方なかったとはいえ、また姉貴に嫌われた。朝から最悪だ。


 憂鬱な気分でしゃがんで母親の花を眺め続けていると、隣の玄関扉が開く音が聞こえた。俺は直ぐさま立ち上がり、隣の玄関先を見つめる。結花が出てきたのだろうか。それにしては少し早いような気がする。

 心拍数が上がるのが自分でもわかる。この瞬間はいつになっても慣れない。ドキドキしながら出てくるのを待っていると——


 俺の予想通り、結花ではなかった。

 結花にしては早いなと思っていたので、予想通りではあるが、内心落ち込んでいた。


「先輩、相変わらず朝早いですね」


 そう隣の家から出てきた人物が俺の家の前まで来て、そう俺に話しかけてきた。


「まぁな」


 昨日の夕方、会って会話した三森若葉だ。


「お前も早くないか、いつもはもうちょっと遅いか……だろ」


 若葉を見かける時は大体、今の時間よりもう十五分くらい遅い時間に家を出てくる。結花が先に出てくることもあるので、その後は知らないが。


「そりゃ、まぁ、今日は早起きしたんで。早く出ないと先に……いや、今日は偶々早起きだったんですよ」


「ふーん」


 偶に早起きすることはあるよな。早起きしても二度寝して、いつもより遅い時間に起きるなんて最悪なことになることもあるけど。


「…………」


「…………」


 会話が途切れ、居心地の悪い沈黙が流れる。このパターンは知っている。「じゃあ、先輩、あたし、先に行きますね」と言って別れるパターンだ。

 本来ならもっと若葉と仲良くなる為にもっと会話した方がいいのだろうけど、俺的には昨日の夕方で江本の条件はクリアしたと思っているのでここで別れても問題はないかなと思っていたので、特に引き止める気などなく彼女の別れの言葉を待った。


「…………」


 しかし、一向に彼女から別れの言葉を切り出して来ず、黙りこくったままだ。俺から若葉に「学校遅れるぞ、行ってこいよ」なんて言えるはずもなく、そもそも遅刻するような時間ではない。


「……先輩って、もう部活やってないんですね」


 いきなりそう若葉はそう言葉を発したので、俺は一瞬怯んだ。


「おう」


 俺は高校に入って部活には入らなかった。入ろうかと思ったけど、結局、めんどくさいのと自分の実力の無さに入部はしなかった。


「もったいないなー……あたし、先輩が走ってる姿、結構、格好良いって思ってたのに」


 そう嘆息めいて若葉は告げる。走っているという言葉の通り俺は陸上部に所属していた。

 格好良いという言葉に嬉しさはこみ上げてこない。むしろ、責められているような気がして後ろめたかった。


「……そうでも、ないだろ。遅かったし」


 照れ隠しでも本音でもない、早くこの話題を終わらせたくてそう言った。


「あっ、そうだ。先輩、昨日約束覚えてます?」


 また嫌な沈黙が流れる前に話を変えるようにそう若葉は言ってきた。

 昨日の約束って、それはもしかして、合格祈願に一緒に行くって奴か?


「ああ、合格祈願しに行くって奴か」


 俺がそう答えると、


「はい、それです。まぁ、すぐに行ってもいいんですけど、あたしも用事とか色々ありまして……」


 まぁ、こいつは俺と違ってリア充だし。友達多そうだし、用事もあるだろう。彼氏が居るかは知らないけど、居たらデートとかもあるだろうし。

 忙しいからやっぱり無かったことにしてくれって話なのか。いや、別にそれはそれでいいんだけど、ちょっぴり自尊心が傷つくというか、女の子と一緒に出かけるなんて全然全く本当に無いから期待していたから、結構落ち込む。


「そうだな、別にいいぞ。そんな気使わなくて。まぁ、俺は俺でお守りくらいは買っておいてやるから」


「え……?」


 なんかすげーびっくりした顔で見られた。なに、お守り買うことすら駄目なのかよ。俺みたいな運気を下げるような奴から貰ったら受かるような事も受からないってか。


「あ、その、先輩、勘違いしていません? 別にあたしは断ってるわけじゃなくて、その、日にちとか色々後になったりするので、先輩にそれを伝えるのに、こういちいち朝に会って話すのも面倒じゃないですか、だから——」


 だから——の後の言葉に詰まる若葉。いくら鈍感な俺でも気がつく。つまり、若葉は俺と連絡先を交換しようってことなのだろう。


「連絡先、交換しません……?」


 少し間を開けて、そう若干上目遣いで若葉は尋ねてくる。美少女に上目遣いでお願いされて断れる男なんてそうそういるわけがない。俺も例外ではなく、


「べ、別にいいけど」


 承諾した。

 若葉は俺の返答を聞いて、嬉しそうに安堵する。


「じゃあ、先輩、交換、しましょう」


 電話番号とメッセージアプリのIDを教え合う。

 電話番号とIDを登録し終えて、確認の為に掛けたり送ったりし終えた後、少し気恥ずかしい間が開く。

 目的の若葉の連絡先を手に入れることが出来たのだが、なにかがおかしいような気がする。俺は確か若葉とは結花との恋愛成就を手伝ってもらう為に近づいているのであって、これでは——


 そんな時、玄関扉が開くのが眼に入った。三森結花が家から出てきたのだ。


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