03 三森若葉
放課後、俺は若葉と会う為に速攻家に帰った。帰って思い出した。あいつ、部活してるんだったな。
結局、俺は若葉がいつ帰ってくるのかわからず自宅の二階の窓から若葉が帰ってくるのを待った。正直、結花を待つのは全然退屈ではないけど、若葉を待つのはすごい退屈&苦痛だった。あいつと仲良くしないといけないと思うと……憂鬱だ。嫌いではない。でも、なんか距離があるんだよな。俺の問題だと思っていたけど、それだけではない気がする。
ぼけーっと窓の外を眺めていたら、目的ではない、いや最終目的の人物が道路を歩いているのが見える。結花は今時の若者(俺)みたいに歩きスマホなどせず、清く正しくご帰宅された。知らぬ間に自分の鼓動が高鳴っていることに気がつき、やっぱり俺はあいつが好きなんだと再確認させられる。
日が暮れてきた頃だろうか。太陽が赤くなりつつあるなか、俺はスマホをいじいじしながら、窓の外をチラチラと確認していたら、目的の人物が通りかかった。俺が二年前通っていた制服を纏った美少女。三森若菜だ。こちらは結花とは違い、不真面目に歩きスマホをしていた。
あいつ、結構真面目だと思っていたけど、ああいうことするんだな。何故か昔のお節介していた時の気持ちがむくむくと蘇ってきたのか、人の事言えない癖に注意したくなった。怪我したらどうするんだよ。つか、人にぶつかって怪我させたり、絡まれたりしたらどうするつもりだ。やばい、注意したい。すごく文句を言いたくなってくる。とりあえず、落ち着こう。あいつと会うのはそれが目的じゃないだろう。
とにかく早く下に降りないとあいつが家の中に入ってしまう。その前に外に出て、あいつを引き止めなければ。俺はドタドタと音を立てて一階へと降りる。そして、玄関の扉を開けて、外に飛び出した。
三森若葉は歩きスマホをしながら俺の家を通り過ぎようとしていた。どうやら俺が家から出てきたことに気がついていないようだ。俺は一瞬なんて声を掛けようか迷っていたが、若葉が俺の家を通り過ぎ、自分の家の玄関へ続く門を開けようとしているのを見て、焦った俺は、
「若葉」
そう久しぶりにあいつの名前を呼んだ。あいつと出会っても俺はあいつの名前を呼んだ事はない。疎遠になってなんて呼べばいいかわからなかったからだ。意外と名前を呼ばなくても会話は出来るもので、尚更名前を呼びにくくなっていた。
「え……」
若葉はスマホから顔を上げて、ぱっとこちらを見る。驚愕した表情っていうのはこういう顔のことを言うんだろうなと俺は思った。いや、そんなことはどうでも良くて、えっと、次になんて話しかければいいんだ? いきなり結花との仲を取り持ってくれなんて流石におかしいし。
俺が言葉に詰まっていると、驚愕した表情のまま固まっていた若葉の顔が少し崩れて行き、
「樹……先輩?」
そう確認するように俺の名前を呼んだ。疎遠になって敬語を使うようになってから、あいつは俺のことを先輩と呼ぶようになっった。いーくんなんて呼ばれなくなって、恥ずかしさから解放されたと同時に正直寂しくもあった。
「……ど、どうしたんですか?」
若葉はぎこちなく破顔しながらそう問いかけてきた。若干だけど何故か若葉は動揺しているように見える。いきなり声をかけたからびっくりしたのかもしれない。思えば俺から声を掛けるなんて滅多に無かったし。
「あ、いや、今、偶々見かけたから」
なんて答えていいのか判らなかった俺はとっさにそう言った。若葉が歩きスマホをしていなければ俺が家から飛び出してくるところを目撃されたかもしれないので今の言い訳は通用しないが、
「あっ……そうなんですか」
幸い俺の姿を目撃していない若葉は納得しているようだった。
「…………」
「…………」
そこから話が続かない。
結花の時と一緒じゃねーかと心の中でツッコミを入れたけれど、そんなことをしている場合じゃない。とりあえず、結花との仲介役を頼む前に若葉と昔みたいとは言わずともある程度仲良くならないと始まらない。
なにか話さなければならないと思いながらも頭の中は真っ白で、口の中が乾いてくるのが判った。このままだと結花みたいに「じゃ、じゃあ、先輩失礼します」と言って家の中へと入られてしまうと思ったその時、
若葉は開きかけた門を閉じて、スマホをポケットにしまい、こちらへと近づいてきた。
正直、え? なに? え、なんでこっち来るの? という心境だった。
「先輩とは久しぶりに朝以外で会った気がします」
俺のすぐ側までくると若菜はそう笑顔で話題を振ってくる。どうやら若菜は俺と会話を続けようと思っているようだ。内心ほっとしたような、あのまま家にも帰って欲しかったような微妙な気持ちだった。
「かもな。まぁ、中学、高校って学校違うし、会う機会ないしな」
中学校の頃なら、よくこいつと顔を合わせていた。部活が一緒だったから同然かもしれない。あの頃はまだ今より仲は良かったような気がする。まぁ、あの頃、既に敬語&先輩呼びだったけれども。
「ですねー。あっ、でも、あたし、先輩と同じ高校受験するんでまた会う機会増えますよ」
そう若葉は嬉しそうに言う。俺と同じというより、姉の結花の同じ高校って意味だろう。そういえば、こいつ受験生だったな。すっかり忘れていた。
しかし、なんていうか、流石リア充。俺みたいなコミュ障とは違い、話すテンションが違う。華やかで明るい。
「もう受かった気でいるのかよ。受験勉強してるのか?」
こいつの場合、受験勉強しなくても俺の高校くらい余裕で受かりそうだけど。
「そりゃ、もちろん。あっ、でも、あたし数学がちょっと苦手なんですよね。……もし、良かったら、先輩教えて貰えませんか?」
若葉は俺の問いに頷いた後、顎に人差し指を当て、チラッとこっちを見てそう言ってきた。
若葉がわからないところを俺がわかるはずないし、そもそも俺は人に物を教えられる程、成績は良くない。
「いや、無理だから」
「あはは、冗談です」
俺が勉強出来ないのはこいつも知っているだろうし、断るのをわかって言ったのだろう。大体、こいつが顎に人差し指を当ててわざとらしく尋ねてきた時点でからかわれているなと俺は気付いた。
「あ、でも、あたしが受かるのは応援してくださいね」
「そりゃあ、な。応援くらいいくらでもするさ」
いくら苦手意識があるからって受験を応援しないほど、俺も鬼ではない。
「…………」
何故か急に黙りこくる若葉。
あれ? 俺、なんか変なこと言ったか?
「……じゃあ、合格祈願一緒に行ってくれます?」
若干、声色が違ったように思える。先程のような冗談っぽさがない。
俺はいきなりそう言われ少し動揺する。若葉は若干俯きながら俺の返答を待っているが、すぐに俺は答えを返せなかった。
合格祈願ってあれだよな。神社で受験成功を祈る奴。そして、お守り買ったりする奴。俺も二年前やった。
一緒ってことは、二人で行くって事か? 若葉と二人でどこか行くなんて、本当にここ最近無かった事だ。正直、不安だし、あんまり行きたくない。が、
「そりゃ、いいけど……」
頷くしかないよな。結花と仲介して貰う為にも、こいつとは仲良くならないといけない。
「……あ、あはは、じゃあ、その時、またお願いしますね」
若干俯いていた顔を上げ、そう若葉は笑う。
「お、おう」
今すぐってわけでもないのか、じゃあ、受験が近づいたら行くのか。いつ行くのかくらいは正直知りたい。心の準備が出来ないし。しかし、そんなこと聞ける度胸などなく、俺は頷くほかなかった。
「えっと……じゃあ、そろそろ」
一応、話の区切りがついたからか、そう若葉は家に戻ることを示唆する。
「あ、おう。じゃあ、な」
「はい、また」
俺が返事をすると、若葉はそう言って自分の家へと入っていく。俺はその後ろ姿を眼で追いながら、結局目的の連絡先を交換することを忘れていたことに気がついた。




