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02 恋愛相談

 去年の初詣の出来事。くじを引いて凶を引いた事。

 つまり俺がなにを言いたいかと言うと俺は異常にくじ運が悪いという事だ。

 幼馴染である三森結花と中学に上がってから一度も同じクラスになった事が無かった。

 五年間、何の奇跡か一度も同じクラスになれていない。高校は学科が違うわけでもないのにだ。

 だから、俺は休み時間、甲斐甲斐しく彼女のクラスまで行って、彼女のクラスに居る友人に会いに行く名目で彼女を覗きに行っていた。

 しかし、今年は更に悪運が発揮してしまったのか、彼女のクラスに俺の友人が一人も居ないという状況が出来上がってしまったのだ。元々、友人の少ない俺にとってはこれまでは奇跡的に友人が彼女のクラスになっていたのだけど。何故,友人ばかりが彼女と一緒のクラスになれるのか妬んだこともあるが、友人からしたら結花に興味ないのでこっちは何の特にもならないのに良い迷惑だと言われた。


「で、なにか発展したの?」


 江本公平は興味なさそうにそう尋ねてくる。


「いつも玄関の前で会うねって話をした」


 江本公平。俺の中学時代から友人だ。彼こそがいつも俺の幼馴染である三森結花と同じクラスになるという幸運の持ち主。

 彼は何の発展もない状況に飽いているのか、最近、俺の恋愛相談をぞんざいに扱っている。そんな彼に俺はとっておきの進展の話を聞かせてやった。いつもなら挨拶して終わるのに、今日は会話らしい会話をしたのだ。


「そりゃそうだろ。いつもストーカーみたいに玄関先であいつが出てくるのを待っているんだから」


 しかし、江本は感心する所か更に冷めたような声でそう言った。

 俺は江本の言う通りなので言い返すことが出来ない。いやだって、昔ならともかく、今はあの時くらいしか結花と会える機会が無いのだ。勘弁してほしい。後、ストーカーって言うのやめろ。


「てか、それってある意味、遠回しな警告じゃね? いつも玄関先で待つようなストーカー行為やめてくださいっていう」


「は? そんなわけ…………」


 ない。と思いたいけど、なんか不安になってきた。確かに言葉の意味として深読みすればはそう取れなくもない。


「いや、そんなすげー深刻な顔されると対処に困るんだけど……本当に向こうがお前をストーカーと思ってるならそもそも話かけもしないから」


「そ、そっか。そうだよな」


 絶望の淵からなんとか立ち直った気分だ。すごい安堵感を味わった。もし、ストーカーと思われているなら玄関で待つなんて出来ないし。流石に彼女を怖がらせるつもりはない。


「まぁ、でも、このままだとストーカー一直線だな、お前。少しは進展させないと、てか、せめて昔くらいの仲に戻らないとヤバいぞ」


「わかってるって。…………そんなヤバい?」


「割と」


 真顔で答える江本に俺は深く落ち込む。ストーカーか。幼馴染からストーカー。元彼からストーカーになるなんて話はよく聞く話だし。過去に親しい間だったからこそありえるのかもしれない。


「よし、とりあえず昔みたいに気兼ねない幼馴染の関係に戻ることから始める」


 俺はストーカーにならない為、新たな決意表明をする。


「で? 具体的にどうするんだよ。朝、玄関先で挨拶する以外で」


 江本はそう半目で尋ねてくる。


「…………」


 俺的には玄関先で挨拶→会話→昔の幼馴染の関係→恋人のつもりだったのだけど、いきなりそれを潰されてしまった。


「昔はよく一緒に遊んだ幼馴染の間柄で三森の両親や三森の妹とも親しいっていうアドバンテージを持っていながら、よくもまぁ、そこまで全く活かせずにいれるな。お前の活かしてるアドバンテージは隣の家ってくらいなもんだろ。しかも、会話の無い一言二言のただの挨拶するだけ。ある意味すげーよ、お前」


 ぐうの音も出ない。


「大体、昔は仲良かったのに、なんで今は疎遠になったんだ? そのキッカケは?」


 若干苛ついたようにそう江本は尋ねてくる。


「小学校までは普通に遊んでた記憶あるよ。たぶん、中学の頃から疎遠になったと思う。キッカケか……」


 疎遠になったキッカケ。


「まぁ、よくある話だと思うけど、男子の友達とつるむようになって、遊ばなくなった感じだったと思う。向こうも女子の友達とつるんでたし。それに中学からクラスが別になって、一緒に帰らなくなって、部活。部活始めて全然一緒に帰らなくなったからだ。で、いつの間にか疎遠になってた」


「はぁー。つまりはクラス別になって、中学で部活入って一緒に帰らなくなったのが原因か。まぁ、ありがちだな」


 最初の男子の友達とつるんで辺りは無視されてしまった。まぁ、でも、確かに一緒に帰っていたのが、その後遊ぶキッカケになっていたように思える。


「じゃあ、また一緒に帰れば昔に戻れるじゃね?」


 江本はそう気だるそうに言った。

 俺は頭の中でシミュレーションしてみる。「三森、今日一緒に帰らない? 久しぶりに」「え……? あ、え?」「結花ー。なにやってんのー? さっさと帰るよー」「あ、うんっ。ちょっと待ってー。……えーっと、ごめんね。もう先約あるから」「あ……だよな、はは」「じゃぁ……ね」「あ、うん」「……誰? あの人?」「……中学時代からの」「あー……なんか用事、あった?」「いや、大丈夫だよ」「そっか、じゃ、行こ」「うん」


「無理だ……」


 俺はその場に両手をつきそうな勢いで落ち込んだ。


「あー、うん、無理だって判ってたから、そんな気落ちすんなよ」


 少しも気遣う素振りも見せずそんなこと言う江本。

 恨めしく江本の方見ていると、


「そんな顔で見るなって。まぁ、そうだな。本人が駄目なら、その身近な奴に近づくってのも手だと俺は思うぞ。ほら、三森には妹居るんだろ?」


 江本はそう新たな提案をしてくる。


「まぁ、居るけどさ……」


 しかし、俺は少し渋るようにそう呟く。居るには居る。三森若葉っていう妹が。


「居るけど、なんだよ」


 言葉を濁す俺に江本は痺れを切らしたのか、先を促す。


「あいつとも、あんまり仲良くないっていうか、疎遠っていうか……」


 俺は歯切れの悪い答えを返す。


「でも、三森よりかは話すんだろ?」


「まぁ……」


 三森若葉。子どもの頃はよく俺になついて後ろにくっついていた。

 いつからか姉と同様に疎遠になっていた。姉の結花とは疎遠になった理由はなんとなく心当たりある。しかし、若葉と疎遠になった理由は心当たりがない。

 昔の若葉はなんというかダメダメだった。勉強も出来なかったし、運動もダメダメで、更に俺と結花にべったりだった所為か友達なんて全くいなくて学校ではいつもぼっちだったはずだ。だから、いつも俺がなにからなにまでお節介を焼いていたような気がする。姉の結花も若葉には苦労していたはずだ。


 それがいつの間にか、今では勉強も、運動も、友人の数もすべて俺を上回っていた。

 彼女が成長したことは祝福するべきなのに、褒めてあげるべきことなのに。

 俺はたぶん彼女の成長に嫉妬していた。


 彼女と疎遠になって遠くから彼女の成功を聞いて余計に妬んだ。

 だからいつの間にか俺は彼女が苦手になり、疎遠になった以上に自分から壁を作っていた。


「なーんか、はっきりしないな。三森より距離があるのか?」


「そういうわけじゃ……ないけど。ちょっと苦手で」


 向こうからは話しかけてくるし、結花よりかは会話は弾む。たぶん、俺の問題なんだろうな。苦手意識があるって意味で。

 でも、前は普通にタメ口だったけど、疎遠になってからは敬語なんだよな。やっぱり距離あるのかもしれない。


「苦手って……三森の妹から近づく以外にお前にはもう手はないぞ? もういっそ諦めた方がいいじゃないか」


 江本は自分の提案にそこそこ自信があったのか、俺がそれを没にしようとしたからか、もう投げやりにそう言った。折角、いろいろ相談に乗ってくれているのに、俺の都合で江本の意見に駄目だしするのは確かに江本にとっては面白くない。


「……わかったよ。まぁー、自分なりに若葉と仲良くなれるように努力してみる」


「おう」


 俺がそう決断すると、江本は冷めきった顔が少し和らいだ。


 結花みたいに会話が続かないってわけじゃないし、なんとかなるだろう。

 若葉も別に俺のことを嫌っているわけでもないし。もし仲良くなれば、結花との仲を取り持ってくれるかもしれない。恋仲という意味で。

 とりあえず、若葉とコンタクトを取れるようにしないとな。まずは連絡先を交換しないと。


 ……幼馴染なのに電話番号もメッセージアプリのIDも知らないなんて。なんか先が思いやられる。我ながらそう思ってしまった。



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