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『体育祭のMVP景品が「話題のハロウィン街ペアチケット」だったので、隣の席のツンデレ魔導姫シェリアとガチで競い合うことになりました』  作者: eccen.


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第1話 魔導学園の体育祭と、極上のペアチケット

 王立アステリア魔導学園、秋季体育祭。


 年に一度だけ、魔法と身体能力のすべてをぶつけ合う、学園最大のイベントだ。


「今年こそ、俺たちのクラスが優勝するぞ!」


『おおおおっ!』


 校庭いっぱいに、生徒たちの雄叫びが響き渡る。


 普段なら魔導書を片手に授業を受けている生徒たちも、今日ばかりは運動着姿。


 魔法障害物競走、精霊騎馬戦、魔力障壁突破、属性魔法リレー――。


 魔導学園らしく、普通の体育祭とは一味も二味も違う。


 そんな熱気に包まれた開会式の壇上で、学園長が杖を掲げた。


「そして今年は、特別賞を用意しておる!」


 ざわっ。


 生徒たちの視線が一斉に集まる。


「総合成績において最も優れた個人に贈られる――今年の体育祭個人MVP。その賞品は……」


 学園長が一枚のチケットを高々と掲げた。


「現在、王国内で最も話題になっている観光地――『奇跡のハロウィン街』の、限定ペアチケットじゃ!」


「えええええっ!?」


「マジかよ!」


「ペアってことは二人で行けるの!?」


「限定チケットなんて超レアじゃん!」


 一瞬にして、校庭が大騒ぎになった。


 奇跡のハロウィン街。


 巨大なカボチャが夜になると動き出す。


 魔法で作られた幽霊が街を飛び回る。


 小さなゾンビたちが店を経営している。


 さらには、夜になると街全体が巨大な魔法陣に包まれ、空に無数のランタンが浮かぶらしい。


 最近、王都では知らない者がいないほどの人気スポットだ。


「……ペアチケットか」


 俺――アルス・クライドは、掲げられたチケットを見つめた。


 そして、ふと隣を見る。


「…………」


 そこには、普段と変わらない澄ました顔の少女がいた。


 長い金髪。


 整った顔立ち。


 背筋をぴんと伸ばした立ち姿。


 名門ファロン公爵家の令嬢にして、学年首席候補。


 シェリア・ファロン。


 俺の隣の席であり――。


 俺が密かに想いを寄せている女の子だ。


 そんなシェリアが。


「…………」


 ものすごい勢いで、学園長が持っているパンフレットを凝視していた。


 いや。


 凝視どころじゃない。


 目が輝いている。


「…………」


 俺は思わず二度見した。


 いつもの冷静沈着なシェリアはどこへ行った。


 パンフレットの写真に映っている巨大カボチャを見つめながら、今にも身を乗り出しそうになっている。


「シェリア」


「な、何よ」


「……ああいうの、好きなのか?」


「べ、別にっ!」


 シェリアは勢いよく顔を背けた。


「私はただ……」


「ただ?」


「巨大カボチャの生態に興味があるだけよ!」


「生態?」


「そうよ!」


 なぜか頬が赤い。


「魔力によって自律行動する植物系魔物が、観光施設としてどう利用されているのか。その構造を研究するだけ。別に遊びたいわけじゃないんだから!」


「へえ……」


 俺はもう一度パンフレットを見る。


 そこには大きく、


『今年限定! 巨大カボチャと一緒に記念撮影!』


 と書かれている。


 シェリアの視線が、そこから一ミリも動かない。


「…………」


「…………」


「……何よ」


「いや」


 俺は思わず笑ってしまった。


「楽しそうだなって」


「なっ……!」


 シェリアの顔がさらに赤くなる。


「そ、そんなことないわよ!」


 そう言いながらも、パンフレットを大切そうに胸元へ抱えている。


 その横顔を見ていると、胸の奥が妙に熱くなった。


 普段は何でも一人で完璧にこなしてしまうシェリア。


 そんな彼女が、こんな顔をするなんて。


 俺は知らなかった。


 ――いや。


 知りたかった。


 もっと、こういう顔を見ていたい。


 そう思った瞬間だった。


「よし」


 俺は拳を握った。


「俺、MVP獲る」


「……は?」


 シェリアが振り向く。


「体育祭のMVP。俺が獲る」


「……あなたが?」


「ああ」


 俺はチケットを見つめる。


「そしたら……」


 シェリアと一緒に、この街へ行ける。


 もちろん、彼女を誘う。


 俺がずっと言えなかった想いを、少しでも伝えられるかもしれない。


「……シェリアを連れて行く」


「…………」


 なぜかシェリアが固まった。


「シェリア?」


「……っ」


 彼女は慌てて顔を背ける。


「か、勝手にすれば!」


「おう。勝手にする!」


「……ばか」


 小さな声が聞こえた気がした。


 だが、俺にはその意味が分からなかった。


 その一方で――。


 シェリアは誰にも聞こえないほど小さく呟いていた。


「……私だって、あなたと行きたいのに」


 こうして。


 俺たち二人の、妙に熱い体育祭が始まった。


 目指すは個人MVP。


 賞品は、極上のペアチケット。


 そして――。


 お互いに「相手と一緒に行きたい」と思っていることを知らないまま、俺たちは同じゴールへ向かって走り出したのだった。

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