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宇宙(そら)翔けるマリヤ  作者: 夢乃


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9/11

CHIPS 09 見舞い

 貨物船マリヤ・アステートは、予定よりも半日遅れてスラジュ星系第四惑星ザミーヌの静止軌道にある中継ステーションに入った。

 到着が遅れたことで、依頼主への謝罪行脚を覚悟していた船長だったが、遅延を咎められることはなかった。むしろ『海賊〝ファング〟に襲われて、良く積荷を守ってくれた!』と感謝されて戸惑うばかりだった。


 急激な機動と海賊船との接触で、積荷の一部は損傷していた。その依頼主すらアステート宙輸に対する苦情を口にすることはなく、次からも是非利用したい、いや利用させてくれ、という声ばかりだった。


 名の知れた海賊、しかも襲われたら逃亡は不可能と言われる海賊から、小さな被害だけで逃げ延びたということが知れ渡り、マスコミの取材は引も切らなかった。船長が矢面に立ってくれたものの、被害がCHIPS(チップス)シップだったこともあり、マリヤへの取材要請が強かった。

 抑え切ることができなくなった船長は、予定の航宙が終わった後、アステート宙輸本社で会見を行うことで、一応の収束を見た。


 コーストガードの事情聴取はそういうわけにはいかず、マリヤはもちろん、船長から甲板員まで全員が、交代で聴取を受けることとなった。

 その間も、荷物の積み下ろしや、傷付いた船体の応急修理を行なった貨物船マリヤ・アステートは、予定より1日半の遅れでザミーヌ中継ステーションを出航することになった。


〈はぁ、余分な時間を使っちゃったね。ちょっと急いで行くよ〉

 ブリッジに自分の姿を浮かべたマリヤが行った。


「嬢ちゃん、急ぐのはいいが、無理はしないようにな。まだ万全じゃないんだから」

〈うん、解ってるよ〉

 注意を促す船長に、マリヤは笑顔で答えた。


「管制からの出航指示、出ました」

「航路計算、終わっているわよ」

「いつでも出れます」

 通信士、航宙士、操舵士がそれぞれ、準備完了を告げる。


〈じゃあ、行くよ。貨物船マリヤ・アステート、発進!〉


 貨物船マリヤ・アステートは、中継ステーションからゆっくりと離れた。



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 そしてこの航海に出てからおよそ3ヶ月。貨物船マリヤ・アステートは船籍港であるソール星系第三惑星テラの静止軌道ステーション、通称〝スペースガーデン〟に戻って来た。アステート宙輸で借りている、スペースガーデン第33215番ポートに入港する。

 荷卸しをクルーに任せたマリヤは、クルーよりも一足早く、船を下りた。


「ただいま、父さん、叔父さん」

「おかえり。マリヤが無事で本当に良かった」

「話を聞いた時は肝が冷えたよ。また姉さんのようになったら、と」

 マリヤを出迎えてくれたのは、アステート宙輸の社長である父と、副社長を務めアステート宙輸の実務を仕切っている叔父の二人だ。

 普段の航海なら、スペースガーデン内にあるアステート宙輸の事務所か、あるいは地上で帰港の連絡を受ける二人が、今日はポートまで来ているのは、宇宙海賊〝ファング〟の襲撃を受けてのことだ。


「船体のオーバーホールが必要かな」

 一頻り、再会と無事を喜んだ後、マリヤの父は貨物船を見て言った。航宙の間に応急修理はしたものの、無理な機動や他船との接触という、通常ではない行動をしているので、本格的な整備が必要だ。それに、破壊されたブリッジ・ブロックのフィンは、応急修理だけで今も痛々しい姿を晒している。


「すぐに点検を始めるが、マリヤは下に降りるか?」

「うん。母さんに報告しなくちゃ」

「一人での行動はしないように。事務員を付けるよ」

「はーい」

 マリヤは父と別れ、叔父と一緒にアステート宙輸の事務所に向かった。



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 事務所で叔父が指名した女性事務員と共に、マリヤは軌道エレベーターでスペースガーデンから離れた。成層圏に設けられた中間プラットフォームでエレベーターを降り、旅客機に乗り換えて地表を目指す。

 空港に降り立つと、ハイヤーでハイフューチャー航宙株式会社付属病院へ向かう。


 程なくして到着した病院の、〝ユリア・アオイ・アステート〟の名札が掛けられた病室の前で、マリヤの足は止まった。


「私はここで待機しています」

「うん、ありがとう」

 事務員の言葉に甘えて、マリヤは一人で病室に入った。

 広い清潔な病室には、カプセルで覆われたベッドとそこに繋がる色々な機器。それにコンソールやスクリーンも設置されている。

 マリヤは躊躇うことなく、カプセルの横に立った。

 カプセル内のベッドには、艶やかな黒髪の美しい女性が眠っている。彼女こそ、マリヤの母にして海賊〝ファング〟から全乗員乗客を守り抜いたCHIPS(チップス)ヒューマン、ユリア・アオイ・アステートだ。


「母さん、母さんをこんな風にした海賊に、一泡吹かせてきたよ」

 マリヤの語り掛けに、ユリアはピクリとも動かない。呼吸に合わせて僅かに胸が上下していることだけが、生命活動が続いていることを示している。

 そんな母に、マリヤは語り続ける。


「本当はブチ倒したかったんだけどね、ちゃんとみんなと預かっている荷物を守るように頑張ったよ。母さんもそうしたように。積荷がいくつか壊れちゃったのは減点だと思うけど、及第点はもらえるよね。

 でも、次は叩きのめすよ。次があるかわかんないけど。……だから、それまでに目を覚まして……よね」

 マリヤの眦に涙が浮かぶ。それを拭って、マリヤは病室の広い窓に歩み寄り、カーテンを開けた。


 窓の外、広大な空間に、白い鏃型の巨大な宇宙船の船体が鎮座している。旅客船アオイ・ユリアだ。全長およそ500メートルの巨体は完全に修復され、海賊〝ファング〟に襲撃される前の姿に戻っている。

 身体(船体)は完全に治っている。けれど、ユリアはまだ目覚めない。父も長い時間をこの病室で過ごし、CHIP(チップ)システム技師として治療に力を入れているが、回復の目処はまだ見えない。


 しばらくアオイ・ユリアの船体を見つめてから、マリヤはカーテンを閉じ、カプセル内の母を振り返った。


「それじゃあ、また来るから。母さんも早く元気になってね」

 無言の母にもう一度声を掛けて、マリヤは病室を後にした。



                    Fin.


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