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宇宙(そら)翔けるマリヤ  作者: 夢乃


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CHIPS 03 遭遇

 貨物船マリヤ・アステートは、恒星スラジュの第四惑星ザミーヌに向けて、正確には惑星ザミーヌの静止軌道上にある中継ステーションに向けて順調に航宙を続け、航程の大半を終えていた。

 大半の航宙は何事もなく終わる。しかし、今回の航宙は例外だった。惑星ザミーヌまで残り1日と数時間というところで、航宙士が船長に警告を告げた。


「船長、二時の方向に船籍不明の船影があります。現在の航路を維持すると、およそ四時間後に本船の土手っ腹から突っ込んで来ます」

「ソミール、警告を出せ。カリナ、不明船の航路を解析、スクリーンに出せ」

「はい」

 船長の命令で、通信士が不明船に警告メッセージを送り、航宙士は不明船の推定航路をブリッジ中央空間の三次元スクリーンに表示する。

 不明船は、恒星スラジュの第五惑星と第六惑星の間にある小惑星帯を抜けて来たようだ。貨物船マリヤ・アステートとの接触が無ければ、第三惑星でスイングバイしてスラジュ星系の外縁に向かう軌道を取っている。航路としては不自然だ。少なくとも、標準航路にはない。


 スクリーンに映し出された航路を睨みつつ対応を考える船長に、通信士が振り返った。


「船長! 不明船からの応答ありません」

 船長はしばし考える。標準航路を使わず、通信にも応じない。ならば考えられるのは、通信機器を故障した難破船、新兵器実験中の軍用艦、そして海賊船くらいか。しかし、内惑星系で非公開の実験を軍が行うことなどあり得ない。ならば、難破船か海賊船か。

 船長が沈黙していたのは数秒だった。


「ソミール、スラジュ星系の航宙管制とコーストガードに連絡しろ。不明船あり、難破船の可能性あり。カリナは引き続き不明船を監視。コーラル、いつでも軌道を変えられるようにしておけ」

「「「はい」」」

 通信士、航宙士、操舵士が返事をするのとほぼ同時に、船長の脇に白いワンピース姿のマリヤの姿が立体投影された。


「嬢ちゃんも気付いたか」

〈そりゃあね。それで、何だと思う?〉

「恐らく、難破船か海賊船だろう。軍艦の可能性も無くはないが、コンマパーセント以下だな。念のため、嬢ちゃんはコクーンで待機してくれるか?」

〈言われなくてもそのつもり。もう向かっているよ〉

「さすがは、判断が早いな」

「船長!」

 再び通信士の声。船長と映像のマリヤが通信士に顔を向ける。


「航宙管制、コーストガード共に応答がありません! CCCF(スリーシーエフ)通信、通常電波通信の双方ともです!」

「妨害されている?」

「と思われますが、CCCF(スリーシーエフ)の妨害って手間ですよね?」

「しかし、不可能ではない」

〈ということは、海賊船の可能性が高いわね〉

「嬉しくはないがな。ソミール、不明船に警告を送れ。貴船は本船の航路を妨害している、速やかに航路を変更しない場合、実力行使もある、とな」

「届くんですかね?」

「妨害しているのが奴なら、通じる可能性は高い」

「解りました」


 通信士が再び不明船に向けてメッセージを送る。また無応答かと思われたが、今度はすぐに応答があった。


『うるさいねぇ。アンタらはウチらのただの獲物。獲物は獲物らしく、大人しく喰われてな』

 正面スクリーンに通信相手が映し出された。椅子に足を組んで座った目付きの鋭い女が、口角を上げている。回りには人相の悪い男が数人。絵に描いたような海賊だ。


「海賊か。アンタらが欲しがるような物は積んでいない。ここはスルーした方がお互いに無駄がなくていいんじゃないかな」

『あっはっはっ。ウチらにも情報網はあるんだよ。アステート宙輸の貨物船だろう? 情報によると、金になりそうな物を運んでいるよな』

「見逃すつもりはないと? 見逃してくれれば、ここで会ったことをコーストガードに流さないくらいはするんだがね」

『どうせ乗員は皆殺しだ。そんな約束は意味がないね』

『姐さん、皆殺しなんて言わず、いい女がいたら残してくれよ。そこに映ってる女の子とか』

 船長と女海賊が会話を交わす中、スクリーンの中で、男の一人が下卑た笑い声を上げる。


『そういうわけだ、諦めてウチらの餌になりな』

「そうはいかんな。全力で抵抗させて貰う。無事で済むと思わないことだな」

 船長の啖呵に、女海賊は面白そうに笑う。


『できるならな。狙った獲物は逃がさないのがウチ、海賊メアリ・リードだ。世間では〝ファング〟なんぞと呼ばれているがね。抗うつもりなら、精々無駄に足掻いてみな』

〈ファング?〉

 女海賊の言葉に、マリヤが反応する。ブリッジに浮いた映像のマリヤの長い黒髪がフワリと広がり、ワンピースも波打つ。立体映像なのに威圧を感じた全員たちが、思わずマリヤの映像を振り返る。


『あん? 重力制御もしていないのかと思ったら、そっちもCHIPS(チップス)シップか。通りで貨物船に不釣り合いな可愛子ちゃんがいるわけだ。その子が、そっちのCHIPS(チップス)ヒューマンってことだね』

〈……黙れ〉

『……あぁ?』

「おい、嬢ちゃん!」

 船長が止めるも、間に合わなかった。


〈あたしは貨物船マリヤ・アステート! 四年前、あんたに襲われてから意識不明の旅客船アオイ・ユリアの娘! ここで会ったが百年目! 母さんの仇、覚悟しろ!〉


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