用語解説
おまけです。
■■技術
■スターポールドライブ
西暦xxxx年、新開発の宇宙船用エンジンを開発した研究者は、それを搭載した宇宙船で限界速度に至るべく、恒星ソールの自転軸を北極方向へ向けて加速した。エンジンがまだ余力を残していたその時、突然進行方向に未知の恒星が出現し、後方にあったはずの恒星ソールが消えた。これが、後に〝スターポールドライブ〟と呼ばれるようになった恒星間転移の始まりだった。
未だに原理は不明であるものの、恒星の自転軸を航路とし、光速の66.8%まで宇宙船を加速すると、別の恒星の逆側の自転軸にゼロ時間で転移することが解った。それまで、ただひたすらに従来エンジンの改造や新エンジンの開発での恒星間航宙を試行していた人類は、この発見により別の方法での恒星間航宙の手段を手に入れ、人類の活動範囲は1つの恒星系から銀河全体へと一気に広がった。
転移先の恒星は、転移速度(光速の66.8%)に到達する時点の転移元の恒星との距離により決まるらしく、どの恒星とどの恒星がどの距離で繋がるのか詳細に調べられ、スターポールマップとして記録されている。
銀河系間を転移する〝ギャラクシーポールドライブ〟も可能ではないか、とその発見が期待されているものの、未だ発見には至っていない。
■CHIPシステム/CHIPS
Computer and Human Interface Protocol System を略して、CHIPシステムあるいはCHIPSと呼ぶ。
コンピューターと人間を接続し、お互いに双方を利用するシステム。元々は、コンピューターの演算速度を上回る人間の〝直勘〟をコンピューターでも利用すべく開発が始まった。当初は、人間の脳に機械的なコンピューターとのインターフェースを埋め込む方法が検討されていたが、開発は難航した。
その後、人間の持つ遺伝子を改造することでコンピューターとの通信機能が発現することが発見され、これによりCHIPSの基礎理論が確立するに至り、CHIPシステムのために遺伝子改造を受けた人間はCHIPSヒューマンと呼ばれるようになった。
遺伝子の改造は、体内にナノマシンを注入することで行われる。ナノマシンにより脳の一部や太陽神経叢の細胞の遺伝子が改造され、そこから全身の遺伝子が改造されてゆく。注入されたナノマシンは、最初の遺伝子改造を終えた時点で体外に排出される。
開発された当初はそれほど注目されなかったが、スターポールドライブの発見により、CHIPシステムは宇宙船のコンピューターとして採用されるようになった。スターポールドライブは、光速の66.8%に至るタイミングがずれると、予定した目的地とはまったく別の恒星に転移してしまう。そこで、恒星の自転軸に突入するタイミングと加速のタイミングを正確に合わせるため、人間の直勘を使うCHIPシステムが最適だった。コンピューターとしてCHIPシステムを使用する宇宙船が増えるに連れ、その宇宙船をCHIPSシップと呼ぶようになった。
CHIPSヒューマンは遺伝子の改造によってその能力を発現するので、子供にも遺伝する。しかし子供の能力発現率はそう高くはなく、また発現しても親に比べてコンピューターとの同期性能が低いと言われている。しかし、CHIPシステム自体の発明からそれほど時間が経っていないため、推測の域を出ていない。今後の研究が待たれる。
ナノマシンによる改造を受けたCHIPSヒューマンを第一世代、その能力を受け継いだ子供を第二世代と呼ぶ。
なお、作中に登場するCHIPSヒューマンは女性ばかりだが、男性も存在することはCHIPS 02のマリヤと甲板員との会話からも判る。
■コネクト・コクーン
CHIPSヒューマンと対になるコンピューターをほぼ直接接続するためのカプセル。
CHIPSヒューマンとコンピューターとは無線で接続されるが、近距離であっても僅かにタイムラグが発生する。CHIPSヒューマンにとっては無視できるが、高速演算を行うコンピューターからは無視できない。
このタイムラグを限りなくゼロにするために開発されたのが、コネクト・コクーンである。形状は様々だが、概ねは卵、あるいは繭の形をしている。
■CCCF
CHIPS Connect Communication Field の略。
CHIPSヒューマンとコンピューターとの通信を行う通信場。CHIPSヒューマンと対になるコンピューターとの通信は当初、1m程度しかなかった。そこで、CHIPシステムの通信距離を伸ばす研究も進められた。
その答えがCCCFである。これは空間に特殊な場を作ることで、CHIPSの通信を補助する。現在では銀河系全域が、この場で包まれている。
この場でのCHIPSの通信は光速を超え、銀河系の端から逆の端までのタイムラグは数分程度。
■CCCF通信
CCCFを利用した一般通信の手段。元々はCHIPSヒューマンとコンピューターとの通信のために開発されたCCCFだが、それを通常の通信でも使用できるようにした通信機が開発された。
恒星間航宙が一般的になると、恒星間の通信での大きなタイムラグの発生が問題になる。何しろ、隣の恒星系との通信でも、片道数年かかるのだから。そこでCCCFの利用を思いつくのは、当然の帰結だった。何しろ、CCCFでの情報伝達は光速を超えるのだから。
CCCFが銀河系を包み込んでから僅か3年でCCCF通信の技術が確立され、銀河系内でほぼリアルタイムの通信が可能になった。
■■施設
■スペースガーデン
ソール恒星系第三惑星テラの静止軌道上にある巨大な宇宙ステーション。算盤玉状の形をしており、地上とは起動エレベーターで繋がっている。宇宙に関連する事業を持った企業のほとんどが本社や支社を置き、惑星テラと宇宙との接点となっている。
中央に宇宙港関連設備を持ち、地上側と宇宙側にドーム状の居住区画がある。
■■企業
■株式会社アステート宙輸
ソール恒星系第三惑星テラの静止軌道ステーション〝スペースガーデン〟に本社を置く、運送会社。
旅客船アオイ・ユリアが海賊〝ファング〟に襲われ、ユリアがいつ目覚めるとも知れない眠りに就いた。ユリアの入院費と治療費を稼ぐため、彼女の夫と娘がユリアの弟にも協力を求めて起業した。現在のところ、就役している貨物船はマリヤ・アステートのみ。しかしCHIPSシップのアドバンテージを活かし、連続スターポールドライブを使った高速輸送を武器に、実績を積み上げている。
■ハイフューチャー航宙株式会社
ソール恒星系第三惑星テラに本社を置く、巨大輸送企業。スペースガーデンにも支社を置き、テラでの主業務は本社よりも支社に比重が寄っている。ソール恒星系を中心に、銀河系全域に旅客線を敷き、銀河系のインフラの一端を担っている。
所属していた旅客船アオイ・ユリアが宇宙海賊〝ファング〟に襲撃されたことで、優秀な旅客船を一隻失うことになったが、乗員乗客の犠牲者が出なかったこの事件は、結果として会社の株を上げることになった。それもあり、ユリアの入院費・治療費の大部分を社で引き受けている。
■■人物
■マリヤ・アステート
16歳。女性。本作の主人公。
アステート宙輸に籍を置く貨物船マリヤ・アステートのCHIPSヒューマン。第一世代であるユリアの遺伝子を受け継いだ、第二世代のCHIPSヒューマンである。当初は、母のような旅客船として就労するつもりだったが、旅客船アオイ・ユリアが宇宙海賊の襲撃を受け、母が昏睡状態に陥ったことで、建造中だった船体を貨物船に改造、父と共に株式会社アステート宙輸を立ち上げて、母の入院費と治療費を稼ぐために、今日も宇宙を翔け巡る。
□貨物船マリヤ・アステート
CHIPSヒューマン・マリヤの対となるコンピューターに制御される宇宙貨物船。株式会社アステート宙輸所属。全長およそ300メートル。乗員28名(マリヤを除く)。
船体上部のブリッジ・ブロックと下部のコンテナ・ブロックの、大きく2ブロックの構造を持つ。コンテナ・ブロックは前部が貨物室に、後部は機関室とエンジンになっている。エンジンは、2基1組のメインエンジン2組と、3基1組のサブエンジン2組を組み合わせている。また、ブリッジ・ブロックにも2基のエンジンを装備している。積載貨物が多い時にはサブエンジンを左右に展開し、できた隙間に外部コンテナを増設できる。外部コンテナは15基まで連結しての航宙が可能。
デブリや宇宙塵から船体を守るために、船体を覆うシールドを張ることができる(一般的な宇宙船すべてが持つ装備)が、他に〝シールド・ソーサー〟というシールド発生器を24基格納し、外部コンテナを連結した時にはこれを使って積荷を守る。他に、大きめのデブリや岩塊を破壊するための小出力レーザー砲を2基搭載している。
ブリッジ・ブロックは分離して、それだけで恒星間航宙船として稼働できる。貨物船の主目的である貨物輸送は不可能だが。船員たちの船室や食堂、娯楽室などもすべてブリッジ・ブロックにあり、いざという時には荷物を捨ててブリッジ・ブロックだけでも航宙を続けられる。非常脱出システムの究極形。
さらに、通常のCHIPSシップとは異なり、マリヤ・アステートはコンテナ・ブロックの切り離しをいつでも無理なく行える。CHIPSシップは通常、全船がCHIPSヒューマンの身体の延長なので、適切な手順を踏まずに船体の分離などを行うとCHIPSヒューマンにも影響が及ぶ。マリヤ・アステートは、ブリッジ・ブロックのみを身体とし、コンテナ・ブロックを義肢のように扱うことで、緊急分離を無理なく可能にした。このシステムは今のところ、マリヤ・アステートのみの装備である。
■ユリア・アオイ・アステート
女性。
主人公マリヤの母で、第一世代のCHIPSヒューマン。旅客船アオイ・ユリアのCHIPSヒューマンとしてハイフューチャー航宙に籍を置いていたが、ある航宙にて富裕層の乗客が貨物として持ち込んだ資産を目当てにした海賊船メアリ・リード、通称〝ファング〟に襲われ、船体のおよそ4割を切り離すことで乗員乗客の全員を守って逃走したものの、船体を切り離したことによる後遺症でそれ以来、意識を失っている。
□旅客船アオイ・ユリア
CHIPSヒューマン・ユリアの対となるコンピューターに制御される宇宙旅客船。ハイフューチャー航宙株式会社所属。
全長約500メートルの鏃型の船体の下部に全長約300メートルの鏃型の船体を接続した形状の、白い瀟洒な船体を持つ。乗員およそ2,000名、乗客およそ5,000名。
客室、特に上部客室は非常に豪華な内装をしており、時に長期に渡る宇宙の旅でのストレスを乗客が溜めないように極力配慮されている。その豪華な内装も相まって富裕層にも人気の豪華客船。
宇宙海賊〝ファング〟に襲撃されたものの、下部船体を捨てることで海賊から逃げ切り、乗員乗客の命を守った。しかし、船体の一部を緊急強制分離した影響はCHIPSヒューマン・ユリアの昏睡という形で現れ、母星に帰った後で船体は完全に復元されたものの、現在は無期限の停航となっている。
旅客船の名前が〝ユリア・アオイ・アステート〟ではなく〝アオイ・ユリア〟なのは、就航したのがユリアの結婚前のため。
■メアリ・リード
女性。
海賊船メアリ・リードのCHIPSヒューマン。銀河系のあちこちで旅客船や貨物船を襲っているが、乗員乗客は皆殺し、船のコンピューターも完全破壊することで、その正体を長らく隠していた。唯一、襲われた宇宙船に共通してついている、巨大な刃物あるいは牙を突き刺したような傷から、〝牙〟と呼称されるようになる。
その名前と朧げな姿が確認されたのは、旅客船アオイ・ユリア襲撃事件の時。事実上、襲撃に失敗したことで獲物の大部分を取り逃がしたことで、襲撃前の通信内容と目撃された海賊船の姿が知られることになった。
□海賊船メアリ・リード
CHIPSメアリ・リードの対となるコンピューターに制御される宇宙海賊船。全長およそ250メートルだが、後部に切り離して運用可能な全長約100メートルのジャミング船を連結している。
船体下部に船体長と同じほどの巨大な刃をジャックナイフのように納めており、海賊仕事の時にはその刃で目を付けた宇宙船に突貫し、その上で配下の海賊たちが突撃艇で目標に突っ込み、荒らす、という方法で荒稼ぎをしている。目を付けられた宇宙船には巨大な刃で付けられた傷が大きく残り、1本の牙で付けられたようなその傷跡から、〝牙〟と通称されるようになった。
巨大刃のほかに、大出力のレーザー砲を4基装備しているが、あまり使われない。
ジャミング船はその名の通り、直径100メートルほどのアンテナを展開して、周囲のすべての通信を妨害する。〝仕事〟中に横槍を入れられたくない海賊にとって、あって損はない装備。
突撃艇は緊急時の脱出艇を兼ねている。というより、脱出艇を改装して突撃艇として使っている。しかし脱出艇とは思えないほどの強固な外殻を持ち、獲物の宇宙船の横腹にシールドを物ともせずに激突して船殻をぶち破る。元が脱出艇なだけあって機動力は大したことなく、小型のエンジンがあるのみ。襲撃時は、強靭なワイヤーで母船と接続されたまま、ワイヤーのテンションを利用し弧を描いて獲物に襲い掛かる。
なお、CHIPシステムは大企業や国家が大規模な予算を計上して製造するようなものであり、単独の海賊ごときが手に入れられるような代物ではない。メアリ・リードがどこで製造され、どのような経緯で海賊に身を落とすことになったのかは、不明のままである。




