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第二十話

海堡の事件から一週間。聖ガバナンス高校の日常は、阿久津の完璧な情報操作によって平穏を取り戻したかに見えた。風の噂では田中先生は「一身上の都合」で長期休暇に入り、エリカやレンも姿を消しています。しかし、その静寂こそが、次なる嵐の前触れであることを、四人は肌で感じていました。


「……これを見て」


放課後、ネクサス・コアの最上階ラウンジ。麗華が、重厚な漆黒の封筒をテーブルに置きました。中には、手書きのカリグラフィーで記された一枚のカード。


「『神宮寺の再興、おめでとう。君たちの負債、三〇〇〇億円を肩代わりした。返済の相談をしよう。Jより』」


阿久津がコーヒーを吹き出しました。「さ、三〇〇〇億!? 麗華さん、そんな借金があったのかよ!」


「……神宮寺コンツェルンが解体された際、実体のないデリバティブ商品として塩漬けにされていた負債よ。本来なら時効や破産処理で消えるはずだった。けれど、誰かがその債権を市場から強引にかき集めて、今、私の喉元に突きつけている」


麗華の指先が、わずかに震えていました。一〇億円の軍資金を作り、ネクサス・コアを買い取って勢いに乗っていた彼女たちにとって、三〇〇〇億という数字はあまりにも巨大な壁だった。


「……J。心当たりはある?」

みやびが、カードの表面に指を触れました。紙の繊維の奥に、微かな「作為的な磁気」を感じ取ります。


「……ウォール街の怪物、ジェイコブ・ロス。あるいは、その背後にいる国際金融資本。神宮寺を潰した本当の黒幕よ」


「……面白いじゃない」

嘉納シンジが、トランプをテーブルに広げ「三〇〇〇億を肩代わりしたということは、彼らは麗華さん……いえ、僕たちを『生かさず殺さず利用する価値がある』と判断したんだ。……今中さん、これ、逆手に取れるよね?」


みやびは、窓の外に広がる東京の夜景を見つめました。

「ええ。彼らは私がクロノス・コアを壊したことを知っている。あの戦いで色んなものが壊れちゃったし私たちの力が弱まったと思わせて、油断している間に、彼らの心臓部――ウォール街のメインサーバーに『毒』を流し込む」


「毒……?」

阿久津が身を乗り出しました。


「物理的な破壊じゃないわ。阿久津くん、君が作った『弐号』の改良型を、ネクサス・コアの海底ケーブルに直結して。……シンジくん、君は世界中の取引データに、目に見えないように『フラクタル構造(パターン化されたチャート)のバグ』を混ぜて。……彼らが私たちの三〇〇〇億を回収しようとシステムを動かした瞬間、そのエネルギーがそのまま、彼らの資産を食いつぶすプログラムに変わるように」


「……因果のブーメランか。エグいこと考えるね、今中さん」

シンジが楽しそうに笑い、猛烈な勢いで数式を書き始めた。


「阿久津くん。……今回の『参号』は、ただのセンサーじゃないわよ。……ダークマターの『鏡』を作るの」


「鏡? 反射させるってことか?」


「ええ。相手が攻撃してくればくるほど、その力が倍加して相手に戻る。……物理的なダーク・シェルを超えた、概念的な防壁。……これを作るには、阿久津くん、君の『鉄への愛』が不可欠よ」


「……へっ、言ってくれるぜ。無限の予算と今中さんの理論があれば、火星までの通信網だってハックしてみせるさ!」


四人は、それぞれが持つ異能を最大出力で稼働させ始めた。

麗華は、敵の招待に応じるふりをして、六本木の超高級ホテルのスイートルームで「交渉」の場をセッティングした。それは、敵を誘い込み、阿久津のデバイスとシンジの数式が牙を剥くための「舞台」だ。


一方、みやびは一人、深夜の校舎に残っていた。

屋上で夜風に吹かれながら、彼女は自分の内側にあるダークマターの残量を確かめまた。コアを壊したことで、かつての「神のような出力」は失われました。しかし、今の彼女には、その不足を補って余りある「仲間という名の演算器」がある。


(……九条。あなたは一人で世界を管理しようとして、結局、誰にも理解されずに死んだ。……でも、私は違う。……三〇〇〇億の負債さえも、私たちの帝国の『肥料』にしてみせる)


翌日、六本木のホテル。

麗華が、神宮寺の誇りを纏ったドレスに身を包み、待ち構える「J」の代理人と対峙していた。

「……負債の返済? いいえ、今日はその三〇〇〇億を、あなたたちの『埋葬料』に変えに来たのよ」


麗華の挑発的な宣言と共に、東京湾の底を通る海底ケーブルから、目に見えない「因果のパルス」がニューヨークへと放たれた。


女子高生たちの戦場は、学園の地下から、ついに世界経済の真ん中、ウォール街へと飛び火していった。

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