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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
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九十二話 カラッとした笑顔

 ──紅葉さんの攻撃は案外単調である。


 ただ大きな力で殴って、馬鹿みたいな身体能力で罠を突破して、誰にも貫けないような耐久力で敵の攻撃を正面から流しきる。そんな、まるで子供のような戦い方。


 それで、誰にも負けない。


 前に桜と麗の模擬戦闘を見て色々と思った。麗は技巧派で、あらゆる『術』で自信を強化し他者を弱体化させる、そういった戦い方だ。──そしてそれを桜は正面から打ち破ろうとしていた。

 良くも悪くも、強大な力が生まれつき備わっているからか、搦め手というのが程遠いのだろう。馬鹿正直と言ってしまえばそこまでになるが。


「ふ──っ!」


「どわぁあああ!!」


 ──飛んでくる柱をよけながら、そう思った。


 まさかの周囲を全力で巻き込んで、建物全部を簡単に壊していくスタイル。家の装飾やら置物やらを容赦なく引っぺがし、そのまま投げつけてくる。それを『結界術』で防ごうとすと、まさかの威力が強すぎて逆に結界が壊れた。だから桜が蹴りやら逆に物を投げつけるやらで相殺してくれている。


「あれ絶対高いよね!?」


「そういえば……家の来た人がくれたな、あの壺」


 陶磁器やらなんやらも容赦がないので、破片が危ない。というか、花瓶とかもやめてくれ。家が汚れていくのを見ると、たとえ他人の家でも心が痛くなるんだ。

 そんな俺の隣を音速超えてるんじゃ? といったスピードでガラス片が飛んでくる。マジで殺す気か。


「っていうかおかしくない!? あんな馬鹿時から出投げられたら、っていうかなんで物がこんなに家をバカスカ壊すぐらい硬いの!?」


「それは兄さんの『術』のせいだな」


「え?」


「兄さんも兄さんで、そもそも俺たち『鬼』の力に耐えられる物体の方が少ないだろ? だから物に硬度を上げる防御系統の『術』を仕込んでる」


「そうなの!?」


 まさかのこれで何も考えていない馬鹿の一つ覚えで攻撃しているのでは? という疑問に終止符が打たれることになってしまった。きちんと考えてたんだな……。いや、これで年齢が三桁超えている人が何も考えていなかったらそれはそれで嫌だが。

 でも相手もそうして全力でぶつかってきているなら、俺たちもそろそろ逃げてばかりはまずい。──反撃だ。


「食らってくれ、よ──!」


 仕込んでいた札の『術』を遠隔で発動させる。それは、前と同じく『拘束術』で、狙いを紅葉さんに事前に定めていたものだった。

 つまりは、紅葉さんめがけて拘束の鎖が飛んでくるということである。


「子供だましだな」


「なんとなく予想はついてたよ!」


 それを紅葉さんは空を切るように一閃。鎖はバラバラになり力を失い地面に落ちる。ここまでは、一応予想通りであるのでセーフ。


「ってことで本命! ──桜!」


「ら、ァ──!!」


 桜が逃げの体勢から一転、すぐに紅葉さんの方に振り返って床が抜けるほど踏み込み、殴りかかる。とんでもない身体能力だと、改めて思った。


 ──けど、その一撃を紅葉さんはなんでもないように食い止める。


「……これが本命か? 何度も言ったはずだ、桜。確かに素の身体能力は『茨城童子』であるお前の方が高いかもしれないが、それでもお前の『術』の練度はまだまだだ。──傷つけることを、躊躇うなよ」


 そう言って、紅葉さんは受け止めた桜の拳を思いきり引き、腹に一撃蹴りを入れた。


「桜!!」


「ぐ、ぅあ」


 その一撃はかなり重く、なってはいけないゴス、といった音が聞こえた。内臓から出ていい音ではない。

 すぐに桜を紅葉さんの所から逃がそうと札を構え、『術』の準備をするが──


「──もう、いいだろ」


「は、」


 ──白い光が、飛んできた。


 俺の目に向かって、白い光の、何かが。


 ──初めて聞いた自分の眼球がつぶれる音と共に、俺の意識はそこで途切れた。





「──は、ぁ。ぐ、……ふっ、ぅう」


「……ん、…………あ!?」


 め、メ、目、眼。目を、パチリ、と、開いた。開けた。開けられた。


 ぐちゅ、だったか、ぶちゅん、だったか、記憶が定かではないので覚えてはいないが、それでも確かに潰れたはずの眼球だ。みぎ、右の、眼球。それが動いた。開いた。見えた。


「──ぁ、こ、こ」


「起きたか? 今はちょっと逃げてるとこ、だ。まさか、自分の家で、逃げることになるとは、思わなかったけど、な」


「さく、ら……?」


「ああ、俺だ。鬼城院桜だ」


 ──最悪の気分だ。あんだけ大口叩いておいて、気絶だなんて。最悪の結果で、最低の姿を晒した。


 あの時、俺は目がつぶれて、その衝撃でそのまま気絶してしまったのだ。その時には桜もまたもろにみぞおちに攻撃を──


「……え? 桜、その傷、何?」


 俺の開くことのできる目に飛び込んできたのは、俺が気絶する前に見ていた桜の姿とは違う姿だった。──体中のいたるところに切り傷を作り、痛々しく出血している姿だ。


「──ぁ、」


 ──俺のせいだ。俺が気にかけたから、俺が来たから、俺が出会ってしまったから、俺が発破をかけたから、俺が仕向けたから、俺が罵倒したから、俺が、俺が、俺が、俺が、俺が、おれ


「──蒼!!」


「っ、あ、さく、ら?」


「話してんのに無視すんじゃねぇよ。──それで、次はどう仕掛ける?」


「どう、って。だって、その傷。……俺の、せい、で」


 そう俺が言うと桜はん? といった表情を取り、そのまま自身の体を見た。俺を負ぶっているのに、器用というか、筋肉があるというか……とにもかくにも、見て、そのまま──笑った。


「──始めてだったんだ」


 子供のいたずらが成功したみたいな、悪意を持った行動なのに純粋で、とても晴れ晴れしい笑顔でそう桜は言った。

 そう、まるで憑き物が取れたみたいな、そんな表情をするのだ。眩しくて、輝かしくて、ついつい焦がされてしまうような、そんな笑顔。


「──兄さんに一撃入れてやった。『術』に翻弄されて、そん時に。多分右手の骨が折れたな。痛ぇし、簡単には治んない。してやってやった」


 いつものような控えめな、にこりといった笑顔じゃない。ニカッという表現があっているような、カラッとした笑顔だ。


 なんで、ケガして、痛いはずなのに、そんないい笑顔ができるんだ。なんで、なんで──


「──ありがとな。こうして、兄さんとぶつかれたのは、蒼のおかげだ。じゃなかったら、俺は一生かけたって兄さんを攻撃するなんて、そもそも逆らうって発想がなかった気がする。ありがとう、蒼」


「……俺は、なんも、してないよ。……でも、そう。そっか。桜がそんな表情ができるようになって、よかった……」


 ──俺にしては珍しく、誰かの幸福を心から祝福できたと、そう思う。


 なんでだろうか。桜を相手にするとどこか甘くなる。──誰かと、似ているのだろうか。


 ……いや、そんなことは今考えるべきじゃない。今、俺が考えるべきは、考えなきゃいけないことは一つだけだ。


「──泣いて謝っても許す気はなくなった。桜、お前の兄さんを徹底的にいじめるけど、いい?」


「ああ、やってやってくれ。俺の兄さん、地味にそういった叩き潰された経験がねぇんだ。次期当主的に、色々と学んでおいた方がいいだろっていう弟なりの気づかいだ」


「ははっ。やっぱり、俺は桜が好ましいよ」


 好きはきっと勘違いだ。何も知らないから、適当に知っている言葉に当てはめて、勝手に好きだなんて言ってしまった。でも、違う。これは恋でも愛でもない。だから、好ましいにしておく。その方がきっと、言葉としてこの感情にピッタリだと思うから。





「聞きたいことが何個かあるんだけど……まずは、なんで俺の眼球って潰れたの?」


 紅葉さんに攻撃された結果であることはわかるが、それでも俺からすれば急に眼がつぶれたのだ。見えないほどのスピードか、深志の攻撃の二択。いずれにしてもどんな攻撃であるかわからなければならない。


 俺がそう問いかけると桜は一度考えこみ、そのまま一つの可能性を示唆する。


「推定にはなるが、兄さんが使った術は金の『術』の可能性が高いな」


「金? ……あー、待って。そんな感じのことを前に学園長が言ってた気がしなくもなくもなくもない。いや、たぶん言ってたな」


 木火土金水、だったか。学園長が俺に『術』を教えてくれた時に言っていた、『術』の基礎、だったか。俺はあまり適性がないらしいので(火の『術』を麗に教わった時もあれ以上は火力が上がらなかった。レベルとしては小学生低学年レベルらしい)適性があるかは微妙なラインであるが、それでも通常の基本『術』よりは使える『拘束術』、『結界術』を主軸にしている。


 ともあれ、だからあまりその木火土金水は知らないので、金がどんな『術』であるのかも俺にはわからない。


「金の『術』はそうだな……いうなれば、物質操作系が主流だな。応用もあるし、それ以外の使い方もあるが……兄さんは物質を作り出している、と言ったところだろう」


「作り出すって……なんだか聞くだけでもかなり大変そうだけどね」


「実際に大変だ。そもそも無から有を作り出すってのがすげぇきつい。……兄さんは、そういうのが桁違いだから」


 ──『術』は魂に起因するものだと、教えてもらった。


 魂は個人個人が違う、言うならばDNAみたいなものであり、被ることはまず無い。そして、魂にも容量のようなものがあり、その容量が大きければ大きいほど、『術』に対してのキャパが広がる。魂の適正で得意となる『術』があるし、種族や血筋で魂が似るからこそ『固有術』が刻まれて生まれることもある。


 そして、『術』を使う際に魂を使う、というのは別に魂を削っているわけではなく、魂を厳選としてあふれ出る力を媒介としている、らしい。詳しい話やら単語はきちんとあるらしいが、それはまた夏休み明けに座学をみっちり教える、と学園長に言われた。だからまだ知らない。


「兄さんは金の『術』で、俺は土に『術』が得意なんだ」


「……ああ! だから煙とか出してたんだ。でもこう、土タイプって岩タイプみたいなもんだし、こう、作れたりしない?」


「難しいな……できたとしても一撃でかなり体力を消耗する。すまん」


「いやいや! 全然! 無理言ってんのは俺だし……でも、そうか。金、金か」


 物質創作系の能力で、 とんでもない身体能力の持ち主。おまけにこっちは簡易的な地図でなんとか逃げてきたが、相手は自宅なので当然この場所についても把握してる。


 ──勝算は、ない。


「──だったら足してやる。俺と、桜。麗と葛。四人でどーこーすれば、開ける道もあるかも、でしょ?」


 ──自分にしては、かなり嫌な笑みを浮かべなら、そう言った。


 そんな俺の表情を見て桜がやけに満足そうに笑うもんだから、ついつい釣られて俺も笑ってしまったのだった

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