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人妖!  作者: 家中由真
夏休み編
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八十九話 無用な殺生

 ──い、たい。


 ──いたい。


 ──いたい。いたい。いたい。


 ──いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。


「──ぁ、」


 痛い。


「ぐ、っあ。え、ぁ、なに……?」


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。──痛く、ない。


「…………え」


「──お前」


 驚愕する声が、頭の上から聞こえた。なんで上なんだろう。俺と紅葉さんの身長差、ゆうて五センチ以内ぐらいだと思ったんだけどなぁ。……そうか、俺がうずくまってるから、俺が低くなってるから。

 なんでうずくまってるんだっけ……あ、そうだ。──腕が取れて、痛かったからだ。


 ……ん? あれ? 腕が取れた?


「──え?」


「……どういう、ことだよ」


 葛の、心配する声が聞こえてきた。さきほどまでの緊張はなく、ただひたすらに驚愕している声だった。驚いて、何とか絞り出した声。「どういうこと」ということの意味を理解しようとして、ちょっとわからなくて頭を掻いて──


「……え? なん、え? ──右手?」


 ぐ、ぱ。と手を握って開いて、その右手の異変を調べてみる。けど動かしても何してもきちんと痛んだりするし、くすぐったりする。つまるところ、正常であった。


「……えぇええぇええええあああぁあああ!?」


「うるせぇ!」


「いたいっ!」


 バシン、と音を立てて頭を叩かれた……紅葉さんに。さきほどは腕を吹っ飛ばすほどの手刀をお見舞いしたくせに、この平手はかなり手加減をされている。手加減ができるんだったら最初っから吹っ飛ばすな。


「急に冷静になったね、蒼」


「冷静じゃないよ、ぱにくってるよ。俺、いつのまにこんな……超再生能力?」


「思い当たる節はあるよ。その前に──紅葉さん」


「気安い」


「次期当主さん。謝罪か、見逃すかをしてください」


 交渉をしてる……俺の腕が吹っ飛んだのに……なんで治ったのかもわかってないのに……


 冷静すぎる麗に対してちょっとちょっとな気持ちになりつつも、俺もまた紅葉さんの方を向く。──俺たち三人が合わせて向かっても、勝てない。勝てるビジョンが、まったくもって浮かばない。だからこそ、見逃してもらうしかない。いや、もう腕も吹っ飛ばしたし良いだろう。満足しただろう。だから見逃してくれ。


「なんで俺がお前らの願いを聞かなきゃいけねぇ?」


 ダメだったぁー! さっきまで吹き飛ばしたはずの腕が治ってて驚いてたのに、もう冷静になって何なら怒ってる! うわー! 油を入れちゃった!



「俺が。俺という妖怪が人間を許すことなんて──絶対にないんだよ」


「……そういう感じ?」



「……人間?」


「あー、葛。ちょっと耳ふさいでよっか」


 状況を見て葛を誤魔化そうと麗が動いてくれたが、葛はそれを拒絶している。俺も何とか弁明したいところだが、今誰かが紅葉さんから目を離したらまた俺の腕が吹っ飛びかねない。

 なんで治ったのか。それが無制限なのか、代償があるのか。俺の力なのか紅葉さんの力なのか。何もわかっていない状況下で再び治ると確信するのはあまりにも無責任というか、滑稽なほどに能天気だ。


「おい、蒼。お前、人間ってどういう──」


「後で! 後で、絶対にちゃんと説明留守から。だから、今は──」


 ──その瞬間、庭いっぱいに視界をふさぐ煙が現れた。





「ごほ、げほ。……あれは土の『術』の応用だね」


 つまりは土煙、ということらしい。だからこそここまで蒸せてしまったのだ。

 煙が立ち込め、その次にはありえないほどの力とスピードで俺たちは吹っ飛ばされた。もちろん、腕だけじゃなくて五体で。吹っ飛ばされ……次にいたのは桜の部屋であった。


 犯人、という言い方は相応しくないので協力者と言おう。協力者は、桜だ。


「──兄さんが、家にいるって、知らなかったんだ。……ごめん」


「ちょ、謝らないで桜! もとはと言えば俺がアポとも言えないアポを取って突撃してきたのが元凶だから!」


「まったくもってその通り。これはもう、蒼は責任を取って腹をくくるべきだよね」


「待ってるぜ、切腹」


「ちょ、麗と葛は黙ってて!!」


 話が進まないっていうか別の方向に進みかけてるから! なに俺の処刑で盛り上がってんだよ!! 物騒だよ!!


「ごほん。とにもかくにも……えっとね、葛。アイアムヒューマン。アンダースタン?」


「お前がびっくりするぐらい衝撃の秘密を、夜ご飯の献立みたいに暴露するから頭に入ってこないんだが……え、『人間』? ……えっ?」


「なんで貶されたんだろ、俺」


 流れるように罵倒が飛んできたがいったんは放置。あとで詰めよう。

 とりあえず、葛にとっての疑問である「咲崎蒼の人間疑惑」はこれで解消されたはずだ。暴露、といった形で。あとで学園長にきちんと事情を説明して、そこに『御三家』が関わってたので仕方なかったんです〜、と言おう。


 ……ついでに、あとで朱にも明かせるなら明かしてしまいたい。これ以上は秘密を守るのが厳しい気もするし。朱は秘密の内容よりも、秘密をされたという事実に起こるタイプなので早めに明かしたい。自白をすれば罪は軽くなるのだ。


 ともあれ、そんな話は一旦は置いておこう。まずは、今の状況をどうするかだ。


「……兄さんは、人間が嫌いなんだ。だから、蒼が我家の庭に入ったことに怒ってる? のかもしれねぇ」


「なんで断定形じゃないの……でも、たしかに人間嫌いって本当に嫌いなやつばっかだから蒼の存在を許せないってのはわかるかも。──ボクが聞こえたのは、確かに蒼が『嫌い』だとか『憎い』って声で、本当に嫌いなんだろうというのはわかったよ」


「うーむ、なんで人間ってだけで恨まれなきゃいけないんだ」


 入学したときに学園長からも人間であることは隠しておけ、と口酸っぱく言われていた。それは、こういった場合があるからということか。でもこうして……右腕まで吹っ飛ばされるとその、まるで怒りのようなものの片鱗を味わった気もする。文字通り、身に。


「うーん、一応は訴えられないかな。こう、傷害罪とか暴行罪的なあれで」


「『御三家』を訴えるって……なんか、もみ消されて終わる気がするがな。蒼、強く生きろよ」


「なんで若干お通夜ムーブなの!? 敗訴にすらなってないし!」


 権力怖い! ノー権力! ノー圧力! 俺はその活動を推進しています!!


「……そこら辺はちょっと俺から言いたいことがあるが、どう行っても言い訳にしかならなねぇから黙っとく」


 とても懸命な判断だと思う。もしもなにか言い訳されていたら、俺はその数倍の文字数で桜を罵倒していた可能性が否定できない。


 ……なんて、茶番も終わりにしないといけないだろう。紅葉さんは追ってくるような性格とは思えない。無用な殺生を控えたいからこそ俺の右腕をまず第一に狙っただろうし。


「だから俺達三人は誰の目にも触れないでこの家から出ることができれば、無事に帰れるってわけなんだよ」


「ああ。だから悪いんだが、裏口に俺が案内する。ついてきて──」


「え? いや、出ないよ。戻んなきゃ」


「……はぁ?」


 初めて見たかもしれない、桜の呆気にとられた顔。嘘だ、カミングアウトしたときにも見たな。冷静ぶってるだけで桜は案外顔に出やすい男である。


「え、は? な、なんで?」


「いや、だってキャリーケース置いてきちゃったじゃん」


「……お、お金なら払うから」


「お金じゃどうにもならない限定ものとか、朱に作ってもらったやつとか、デジカメのデータあるし……それに総額なんて俺にだってわかんないよ」


 世の中、なんでもかんでも金で解決すると思ってんなよお金持ち! たしかに世の中にある問題の八……いや九割はお金で解決するが、それでも全てとは言えないのだ。そして今回はその全てとは言えないパターン。命が最優先であれど、学生である俺が総額がたぶん十万くらい(二泊三日用の中身のほぼ全てなので、このくらいの額なはず)を捨てられると思うな!


 そんな決心を胸に、俺は勢い任せに桜を説得する。それに対して桜はどこか困ったような表情をしたまま固まっている。


「……汚いというか、現実的というか。ボクはノーコメントっつったいけど、でも荷物は置いていけないしなぁ」


「だからって、『御三家』の次期当主に挑むのか? 無謀すぎる気も、するがな」


 戦って勝つ、の場合は勝率は限りなく低いだろうが、荷物の回収だけであれば五分五分程度じゃなかろーか。うん、そんな気がしてきた。そうだろうそうだろう。なんとなかるだろう。多分。


「……俺が兄貴に、」


「──それは、ボクから忠告しておくよ。鬼城院紅葉はたとえ桜相手でも手加減を……いや、桜だからこそ、しないだろうね。……そもそも、それが理由だろう?」


「──っ」


「……?」


 麗の言う「理由」という単語を聞いた瞬間に桜の顔がひどく歪む。それがなんでなのか、俺には理解できなかったが……それでも、その問題はなんとなく、回避できないだろうなと、そう思った。


「荷物は庭。で、紅葉さんはどこにいるかわかる? 移動してると言いけど……」


「してないだろうね。相手はボクたちがもう帰ったと思うだろう。だからこそ、一番接触確率の低い場所にとどまり続ける……」


「何が良くて自分から命を捨てに行くことになるんだか……」


「あはは。──ってことで、打倒とは言わないでも封殺、紅葉さん! を目標にしていこう!」

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