学園祭
学園祭
この学園の王子の学園祭は主に上界生が初界生を歓迎する意味のある代々継承されてきた、由緒正しい一大行事である。
普段の学園と違う姿にソワソワする初界生たち、準備におわれて忙しくする上界生たち。
賑わう学園内には歪なひっそりとした場所があった。
今は教師たちの物置として使われており、普段は生徒たち入れない、学園祭の準備のためだけに解放されるが、物々しさによって誰も近づかない旧校舎があった。
そんな場所にチェリ向かっていた。
何者かによって旧校舎に呼び出されたのだ。
事の発端は今朝起きた時に遡る。
どうやら昨夜のうちに訳の分からない手紙何者かが扉の隙間に差し込んだ事が始まりだ。
全て読んだが、とにかく訳の分からない事しか分からなかった。
唯一分かったことは今日の放課後、旧校舎。この2単語だけだった。
扉に近づき入ろうとした時―
少し離れた本校舎まで届くのでは無いかと思う程の声で悲鳴が聞こえた。
慌てて声の聞こえた方へ向かうとそこにはテンプルが倒れていた。
「…っ…。カナディアさん!大丈夫ですか?」
―勢いよく扉が開かれる音と複数人の足音。
「どうした、何があった。」最初に飛び込んできたのは王子だった。
「カナディアさん、何があったのですか。」
「分からないんです。誰かに押されたと思ったら階段から落ちていて…。」
養護教諭の先生が駆け込んできた。手には担架を持っている。
取り敢えず養護室に運ばれた、カナディア。
残されたチェリは問い詰められていた。
「ワーリス、君は何故ここにいた。」
「…お手紙が来たのです。」
「…手紙?その手紙を見せてみろ。」
チェリはポッケに入れた手紙を見せようと探した。
しかし、そこに入れていたはずの手紙は無くなっていた。
「……手紙がありません。」
「手紙が無い?どういう事だ。」
「そのままの意味です。私の手から無くなってしまったのです。」
「戯言を。そんなに俺に構って欲しかったのか。」チェリの髪を強く握り吊り上げるように持ち上げた。
「…っ、痛い…です。……アラン様。」
その日は疑いの晴れることの無いまま解散となりました。
翌日、左手にギブスを嵌めた姿で登場したカナディアに詳しい様態を聞こうと近づいたチェリにブーラ・ガーネッツ・ムーが遮った。
彼は現大臣タール・ザガニア・ムーの2人いる息子のうちの兄である。
王子の幼なじみで、普段は王子の護衛も任されるような頭脳明晰・将来の大臣候補とも評される人物だ。
「ワーリス様、カナディアさんに近づくことはお控えください。」
「…でも、」それでも食い下がろうとするチェリにカナディアは怯えた表情をして見せた。
「……私怖いです。」辛うじで聞き取れるレベルで発された声に気づけたのは王子だけでした。
そこまで観ていた私はカナディアが攻略対象を決めたのだと確信した。
しかし、とんでもない濡れ衣を被せられたものだ。
私はチェリが、嘘をつくはずがないから本当に手紙はあったのだと思う。
一体どのタイミングで無くしたのだろうか…。
こういう時本当のゲームだったのなら巻き戻して観れるのに!!
今はリアルタイムで起こっていることを覗き見しているだけだから、巻き戻すことは出来ない。
あんな事件があったが学園祭は無事執り行われた。
箝口令が敷かれたようで、噂話もピタリとやんだ。
変わったことといえば、あの事故以来旧校舎への入口には人がより一層の近寄りがたくなった。