いざ対面
王様と対面することになった私は、王様の顔を見た瞬間、稲妻が走った。とても若い。王様と呼ばれるには若すぎる。
いや、それよりも私に衝撃を与えたのは、私がこの顔をよく知っていた事だ。
今は記憶のない私にとって、よく知っていると言う表現は適切ではない。
でも、もう嫌という程見た歳をとったこの人を…。
その瞬間全てを思い出した。
私がこの世界の未来を知っているということ。
そして、私の脳はパンクした。
王様の前で倒れた事により病弱認定された私は三日三晩ベットの上で過ごし、退屈な日々を送っていた。
心配そうに見つめるメイドの視線に気づき、「もう、大丈夫よ。」と告げると心配そうにしながらも下がっていった。
メイドが部屋から居なくなった事を確認すると私は直ぐに机に向かった。
思い出したことをメモするのだ。
まず、この世界は『ベアーズリーン』と言う乙女ゲームの世界であること。
更に、昨日私が産んだという娘の名前がワーリス・チェリ・エリザベート。このゲームでの悪役令嬢だ。
そして、私の名前はアイリーン・ベア・エリザベート。
今の身分は、皇太子妃。
うん。転生者<私>が主人公でもないまさかのモブ!!
ゲームにだって悪役令嬢の母親なんて出てこない。
そして、この乙女ゲームの悪役令嬢のあゆむ道は散々。
(目も当てれないぐらい悲惨だ。)
産んだ時の記憶は無いが、私の娘である事に違いはない。なんとしても回避したい所だ。
年齢=彼氏歴だった私がいきなり母親とはね。
人生何があるか分からないものだわ…
などど感傷に浸っていると再び扉が、ノックされた。
今日の診療の時間だ。
お医者様の判断で歩く事が認められた私は早速散歩へと行くことにした。
庭園を散歩していると、私の夫、兼この国一の公爵、ナイル・ディア・エリザベートがいることに気づいた。
その隣には見慣れない女性。
思わず隠れた私は少し2人を観察することにした。
とても仲良く笑い合う二人。
私との食事の席では決して見せない顔に胸がチクチクしたが、ここまでで分かったことをまとめておきたいと思う。
うん!私忘れっぽいからね!メモは大事!
まず、ここは公爵様のお膝元の庭園。
つまり、部外者が簡単に立ち入って良いところでは無い。
つまり、誰かが手引きをした、又は、暗黙の了解があるという事だ。
片方か、あるいは両方か…。どちらであってもあまり良いことではないだろう。
そうこう考えているうちにナイルが私に気づいてしまったようで、蹲っていた私に近づいて堂々とこう告げた。
「ふん。そんな所に蹲っているなんて、やはり病弱というのは事実だったんだな。
そんなお前の代わりに、本当に俺を愛してくれる彼女がアイシラ・デビットだ。」
いや、凄くドヤ顔で仁王立ちしてるけど、彼女庶民だよね?
そう、この世界でミドルネームは貴族の特権。
つまり、フルネームを聞けば大体の出身がどこだか分かるのだ。
彼女は私にニタッとした顔を向けたかと思うと、再び笑顔を作ってナイルの顔を覗き込み、媚びた声で「ディア様。そんな事言っちゃダメですよ〜。まだ、奥様なんですから。」
それだけ言うと、2人は仲良さそうに去っていった。






