表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

小咄其の弐拾六 『愚者の贈り物』

 あるところに年の離れた夫婦がいた。

女は美しいがたいそう派手好きで遊び好き。男は若いだけがとりえ。男は彼女のために夜も寝ずに働き、プレゼントを欠かすことはなかった。それでも女の欲望の泉は潤うことはなかった。

「やっぱりあんたみたいな若いだけの男じゃ駄目ね」

そう言われるたびに男は必死で彼女に応えようとした。

そんな二人も年を取った。これで遊び癖も落ち着くかと男は思ったが…

「私は若さを取り戻したいわ」

と女が言い出した。

「そんなぁ」

あらゆる方法を探したが効果はなく、とうとう金も住まいも無くした男。

「はあ…どうしたらいいんだろう? 彼女の願いがかなうなら命だって掛けるのに」

その時、暗がりから唐突に嗄れ声がした。

「ぎゃっぎゃっぎゃっ。それなら話が早い。オレと取り引きしろ」

現れたその黒い影は、世間一般に言う「悪魔」の姿をしていた。

「ひいっ! あ、あんた悪魔か? 取り引きって…ままっまさか俺の命と引き換えに、って? そ、それじゃ困るよぉ」

神も仏もない、という顔で男は泣いた。

「なに恐れることはない。お前の強い愛情に感激しただけさ。ちょいと辛いが、命まで取りはしない。彼女の若返りは約束しよう。さ、取り引きしろぎゃっぎゃっぎゃっ。」

「う、ううん」


 結局、男は悪魔と取引をすることにした。はたして女は若返り、命の躍動に満ちた美しさを取り戻した。代わりに男は命までは取られなかったが、見る影もなく老け込んでしまった。再び遊びに行こうとする女。それを寂しそうに見送る男を、女はまじまじと見つめた。

「あなた…あなた、なんて素敵なの。そんな切ない目で私を見ていたなんて」

「お、お前…!」

年を重ねた陰のある男の容姿に、女はいっぺんに恋に落ちた。二人は揃って年上趣味だったのである。



 二人の願いはかなった。お互い他人のことを思わぬ自分本位の贈り物によって。



                                   <おしまい。>

  おまけ


それでは悪魔は本当に慈善事業をしたのだろうか?


「ぎゃっぎゃっぎゃっ。オレはちょっとだけ寿命のパイプをつなぎ代えただけ。一番コストのかからない魔法さ。

男は間もなく寿命で死ぬから不当に命を取るわけじゃあない。女は最愛の伴侶を見つけた途端、長い後悔の余生を送る。死と不幸、一挙両得ってわけ。ぎゃーっぎゃっぎゃっ。」



                               <ホントにおしまい。>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ