小咄其の弐拾七 『abduction』
あるUFO研究家は言う。
「宇宙人はUFOで人類を拉致し、実験後に記憶を操作し戻している」
と。それに対し科学者たちリアリストは反論する。
「数光年もかかる宇宙を行き来してそんなことをする意味があるか? そもそも宇宙に知的生命が存在する可能性はあるが、確実ではないというのに」
云々。
何故、彼等はやって来るのか。
山奥県伊那香村で。
「おっかあ、ありゃ何だべ?」
畑仕事に精を出していた朝青隆さんは天を仰ぐ。
「なんじゃろねえ。」
90度に曲がっている腰を3度ほど傾け、年老いた母も見上げる。そこには…銀色に光る謎の円盤が高速で回転し浮遊していた。二人があっけに取られていると、円盤はゆっくりと着地し、中から…
いかつい灰色の人が、まわし一本の姿で塩を巻きながら現れた。
「オマエ、勝負シロ!」
四股を踏みながら叫ぶ。どうも相撲をとりたいらしい。
「なんだあ、おめえ? オラを村一番の相撲取りと知ってんのか?」
朝青さんの問いに耳を傾けもせず、灰色の人はやる気満々である。
「行クゾ! ハッケヨイ…」
つられて朝青さんも四股を踏み、かまえ…
すこしして。
朝青さんはいつものように畑仕事を終え、一服していた。
「おっかあ、なんだか小一時間くれぇ、野良仕事していた時間が合わねえ気がすんだがよ?」
「ほええ、そうかいねえ? 忘れちまったのお」
「――ダカラ言ッタンダ。アンナ未開ノ惑星ノ原住民達ニ、ソノマタ民間芸能ノヨウナスポーツデ勝ツナンテ無理ダッテ」
円盤の中、灰色の小さな人が、ボコボコにされた友人の治療をしながらボヤいた。
「ウルサイ! 今度コソ勝テルト思ッタノニ。次コソハ…!」
「ソレカラ負ケタカラッテ、原住民ノ記憶リセットスルノ止メロ。」
灰色の人はすごい負けず嫌いだった。
彼等はやって来る。越えられない壁が、見果てぬ夢がある限り。
<おしまい。>
abduction
=誘拐、人さらい、拉致。
地球外生命体(エイリアン・宇宙人)に誘拐されることも意味する。




