小咄其の弐拾弐 『対岸の火事』
「最近イヤンとダメリカ合衆国の戦争が終わってから、どうよ。なんか変わった?」
蕎麦をすすりながらごく普通の会社員、緒佐間君が友人に問いかける。
「いやあ変わらんなー。不景気も一緒だし、なんか知らん間に税金増えてるし。」
テレビを見ながらごく普通の会社員、布施君が答える。ごく普通の昼食時間、会社近くの蕎麦屋さんで。
「だよな〜いくら戦争があったって言っても、俺っちの国じゃ関係ないよねー…んで、なんのニュース見てんの?」
「またゲーム会社が合併、弱小銀行は大手銀行が吸収だとさ。ニンテンスクエニセガ、タイヨウコウベミツイアサヒスミミツ…う〜、覚えきれん。生き残るため、かねぇ…」
二人はお互いの話を興味もなさげに聞き、適当に返答する。
「うん?」
布施君がテレビを見上げる。政府の見解で、よく見る政治の代表者が口をひん曲げながら話している。緒佐間君も見上げた。
「なあ、総理大臣、いまいいこと言った。ダメリカへの渡航、パスポートなしでOKになったとさ。大リーグもすぐ観られるゾ」
「ふんふん、関税もなし? 首相、よほど戦後支援したんかな? 俺たちの税金で」
「んなコト気にすんなって。どうせ誰がやっても政治なんざたいして変わらんし。とにかくこれで合衆国にも行きやすくなったなー。俺たちホントのダメリカ国人みたい。なはははは」
「オーイェー、わははは!」
二人は声をあげて笑い、蕎麦を食った。テレビでは、『合衆国“日本”州』知事となり下がった政治家が、口をひん曲げ誇らしげに雄弁を振るっていた…。
<おしまい。>