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聖門

4月は31日まであると思っていた愚か者は私です……

キリが悪い上に短いです。ごめんなさい。ら、来月こそ……!

「……これが、聖門なのね」


改めて目の前にそびえ立つ大きな門を見上げ、圧倒される。近くで見ると尚更すごい大きさだ。高さだけでも私の3倍近くはありそうで、先程マリベルが頂上近くまで飛び上がっていたのが信じられない。


「やっぱりすごいですよね! 私、こんなに立派な門って初めて見ました!」

「マリベル、静かにして下さい。それにしても、この門はどういう原理で発光してるんでしょうか。光らせる必要があるとは思えないのですが」

「原理というか、これも魔法らしいです。聖都全体を覆う結界の核となるものの1つがこの門にあって、それの力なんだとか。……知識として知ってはいましたが、こうして見ると本当に美しいですね……」

「それさあ、結界の名前も聖結界でしょ? なんでも聖ってつければいいと思ってんのかね。バカバカしい」

「……」


門を見てキラキラと瞳を輝かせるマリベル、マリベルを窘めつつ口許に拳を当てて考え込むエルザ、エルザの疑問に答えつつほぅ……と溜め息を零すエリック、皮肉げに口許を歪めるフィリップ、エルザの言葉に無言でこくりと頷くカイ。5人の反応はそれぞれだ。


ちらりと、ヴィンセントに視線を向ける。マリベルなんかはもうとっくに聖都の中に行ってしまったのに、彼が動く気配はいつまで経ってもない。何をしているのかと思えば、彼は難しげな顔で何かしらを考え込んでいた。


「どうかした? 置いていくわよ?」

「ん? ああ、いや、先に行ってくれ。ヴァルリウスのお膝元なだけあって、ここは魔を退ける結界の力が強くてな。結界の綻びを探ってそこから入ることにする。アナの居場所くらいなら結界の中で弱体化していても分かるから、気にせず先に行っていいぞ?」

「……そう。では、後でね」

「ああ」


そういえば彼は自称堕天使だったわね、と思いながら、ひらひらと手を振るヴィンセントに背を向けて、門を潜る。一瞬だけ何か膜のようなものに触れた気がしたが、それもすぐに消えた。あれが結界だったのだろう。


「お嬢様、あの方はどうなさったんですか?」


門の先で待っていたエリックが、もう姿を消してしまったヴィンセントが立っていた場所にちらりと視線を向けて問いかけてくる。その眉が中央によって皺を作っているのを見て、思わず笑った。


「どうも、流石のヴィンセントでも聖都の結界を破るのは難しいみたいね。結界の綻びを探ってそこから入ると言っていたわ」

「それは、また……。というか、結界の綻びを探るってどうやるんです? 魔力の有無に関わらず、結界は目に見えるものではないですよね?」

「確かにその通りなのだけれど、ヴィンセントに常識なんて通用しないじゃない。考えるだけ時間の無駄よ」

「……そう、ですね」


ふっと遠い目をしたエリックが米神を抑えながら頷く。その視線は焦点があっていなくて、どこか遠くを見ているようだった。


「それにしても、ここの空気は澄み渡っていて心地が良いわね」


話しながら、大きく息を吸い込む。そうですね、と頷いたエリックも瞳を閉じて落ち着いた表情をしているし、敏感な五覚を持つマリベルも心地よさそうだ。


『えー? アナ、何言ってるの?』

『そうよそうよ。こんなに空気が澱んでしまっているのに』

『外に比べればマシだけど、ここも苦しいよね……』

『仕方ないよ。先代の聖女は力が弱かったもん』

『加護も薄かったしね〜』

『まあ、天使(ボクら)は美しいものが好きだから』


ぽんっとどこからともなく現れた光の玉が、抗議するようにチカチカと点滅しながら会話を交わし始める。

かと思えば、瞬きの間に羽の付いた人間の様な姿に変わっていた。とは言っても、私の手のひらほどの大きさしかないけれど。


「精霊様方が実体化するのは実に久しぶりなのではありませんか?」

「うわー! 久しぶりに見ました!」


人の姿を取った精霊たちの姿を見て、やっぱり可愛いですよね! とマリベルが目を輝かせる。

こちらににじり寄ってくる彼女に、精霊たちはそっと私の後ろに隠れてしまった。


『相手に悪意があるわけじゃないんだから、別に隠れなくてもよくない?』

『そう思うならあんたが行きなさいよ。アタシは嫌だかんね!』

『ボクだって嫌だよ。あの子の相手って疲れるんだ』

『じゃあ端から押し付けないでよね』


私の背後で、精霊たちがわーわーと姦しく話している。

マリベルの相手を押し付けあっているだけだが、精霊の声は殆どの者には聞こえない。ただリンリンという鈴の転がるような音に聞こえるだけらしい。


「な、なんで逃げるんですか〜!」


マリベルから逃げるようにして私の背に回った精霊たちに、マリベルが涙目になる。

そんな彼女を宥めようと口を開こうとしたとき、目の前の空間が一瞬だけゆらりと揺らめいた。


「あら、早かったのね」

「この程度なら造作もない。……と、言いたいところだが。思ったより結界のあちこちに綻びが出来ていた。今魔物の大群に押し寄せられでもしたらひとたまりもないぞ」


黒髪に赤い瞳の美丈夫が、顔にかかる前髪を鬱陶しげに払いながら姿を現す。その瞳は鋭く天を睨みつけていた。


「…………結界が弱まっているのは、貴方様からすれば歓迎すべきことなのではないのですか?」

「いや、そうでも無い。魔の者にとって入りやすいのは確かだが、信仰心はそのまま俺たちの力にもなる。聖都に住むだけあってここの奴らは信仰心が篤いのばっかだからな、こいつらがいないと結局俺だって弱体化しちまうわけだ」

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