目的地に着きました
3月ギリギリ……。短いです。面目ない……
「お嬢様ー! お久しぶりですー!!」
私たちの旅の最終目的地ーー聖都ヴァルリウスに着くと、白い石造りの門の前でマリベルが元気よくぴょんぴょんと飛び跳ねながら待っていた。その近くには『カリン』とフィリップの姿もある。3人とも元気そうで何よりだ。
「マリベル、静かにして下さい。聖都の民の迷惑です」
「あうちっ!」
自分の身長の倍ほどの高さまで飛び上がっていたマリベルが地面に着地した瞬間、エルザがマリベルの額をぴんと指で弾く。叫びながら慌てて額を抑えるマリベルとどこか楽しげな笑みを浮かべるエルザの姿を尻目に、私はカリンとフィリップに視線を向けた。
「それで、貴方はどうしてそんな格好をしているのかしら? ……カイ」
「情報収集。楽。……途中」
女装している方が警戒されにくいため情報が集めやすい、ということらしい。マリベルは情報収集の面ではあてにはならないため、フィリップとは別の層からの情報を集めるという点では助かりもするのだけれど。
ただ、頭が痛まないと言えば嘘になるわけで。これが初めてではないとはいえ、どうしてこんなに抵抗がないのかしらね?
「まあいいわ。大切な情報はあとで教えて頂戴。顔合わせにはまだ先だけれど、その前に少し身体を休めたいの」
これほど長期間馬車に揺られることがなかったせいで、少し身体が痛い。多少は鍛えているつもりだったのだけれど。
苦笑いをカイに向ければ、カイはこくりと頷いた。頭の後ろで腕を組んだフィリップも会話に加わってくる。
「んじゃ、俺の報告もその時ってことで」
「そうね、夜にでもまた、私のところに来て頂戴」
「りょーかい。夜の密会なんて、なんだかドキドキする響きだよねぇ。……お嬢様、彼女の様子は?」
軽薄そのものな態度から一転、急にかしこまった口調になったフィリップが、ちらりとエルザに視線を向ける。意図を理解して、私はやれやれと肩を竦めた。
「相変わらずよ。様子がおかしいのは一目瞭然なのに、本人はなんでもないの一点張りなんだもの。暫くは、そっとしておこうかと思って」
あー、と不満げな納得の声を上げたフィリップが、わしわしと乱暴に自分の頭を掻く。何だか苛立たしそうに見えた。
「随分と苛立たっているようにみえるけれど、何かあった?」
「んー? 何かって、何がー? 何にもねーよ?」
「嘘だな」
へらりと誤魔化すような笑みを浮かべたフィリップの言葉を、ヴィンセントは即座に嘘だと断じた。ぴくり、とフィリップの笑顔がひきつる。
「えー、嘘だなんて心外だなぁ。根拠でもあるわけぇ? オレのことをよく知りもしない奴にそういうことを言われる筋合いなんてないんだけど」
「ほぅ……。アナに嘘を吐いておいて、なかなか良い度胸をしている。余程身体の自由を奪われたいと見える。……あの時のように、な」
冷笑を浮かべたヴィンセントと苦々しそうに顔を歪めたフィリップが、バチバチと火花を散らし合う。
未だじゃれあって(?)いるエルザとマリベル、我関せずとばかりに無表情で佇んでいるカイ、あーあーと疲れたように額に手を当てているエリックを見て、溜め息が零れた。私の周囲は癖が強すぎる。
「あぁ、もう……。そこまでよ。いつまで門前で騒いでいるつもりなの?」
心底呆れ果てた、というのを隠しもせずにそう言うと、2人はぴたりと動きを止めた。ついでにエルザとマリベルも。こんな時ばかりは仲良しなのね。
「神殿に向かうのは明日だから、今日は宿でしょう? この人数で部屋が空いているのかしら? 宿をわける?」
私、エルザ、マリベル、エリック、カイ、フィリップ、ヴィンセントの7人で宿を取るとなると、部屋は当然分けるにしても結構な大所帯だ。
そう思って提案したのだが、先に聖都に来ていた3人は顔を見合わせ、首を横に振った。
「宿、部屋ある。けど、6人分」
元はヴィンセントが来る予定がなかったから、それは仕方がないだろう。カイから告げられた内容に、私は目を瞠った。
「え? でも、今は教会の発表のせいで聖都に訪れる人が多いでしょう? よくそれで取れたわね」
「オレたちが取ったっつーか、既に取られてたっつーか……。どうも神殿側が手配してくれてたらしくて」
「お嬢様の部屋、めちゃくちゃ広いですよ! クーヴレールのお屋敷にあった部屋ほどじゃないですけど!」
フィリップ、マリベルが次々と口を開く。相槌を打ちながら聞いていると、ふむ、とヴィンセントが短く声を上げた。
「それだけアナの部屋が広いのならば、俺はアナの部屋で共に泊まれば良いか。どうせ人間共は、俺の姿など目視できまい」
何も問題はないだろう? とヴィンセントはうっそりと笑う。なら今貴方の姿が私たちに見えているのは何なのよ、とどうでもいいことを考えたのは、あんまりな発言に思考が停止したからと言える。
「夫婦でもなければ差し迫った事情もないのに、異性と2人で一晩過ごす訳がないでしょう。貴方と私は別の部屋よ。フィリップ、部屋数は?」
「んー、全部で3部屋、かな。広いのはお嬢様の部屋だけで、後の2部屋は普通の宿の部屋と同じくらいだったと思ったケド」
「そう。男女で分けるにしても、エリックたちの方に無理があるわね。エルザとマリベルは私の部屋を使って、エリックたちは2人で1部屋にすればいいんじゃないかしら?」
え、とエリックとフィリップが声を上げる。無表情の中にカイも嫌そうな雰囲気を滲ませ、ヴィンセントは不快そうに鼻を鳴らした。
「人間と同じ部屋で寝るのか?」
「文句を言う暇があるなら自分たちで部屋を調整して頂戴。いい加減聖都に入るわよ。いつまでも門の前で話していたって仕方がないじゃない」
ぴしゃりと反論を撥ね付ける。大分態度が緩和したとはいえ、やはりヴィンセントとの相性は全員悪そうだ。




