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王太子殿下の小夜曲   作者: 緑谷めい


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付録 俺の天使はズレている




 俺の天使フローラは自覚がない。とてつもなく可愛いのに、彼女自身がそのことを全く分かっていないのだ。

 フローラは子供の頃からずっと、自分の容姿を平凡だと思い込んでいる。俺は昔から不思議で仕方がなかった。フローラは信じられないくらい可愛いのに、どうしてそのことに気付かないんだ?! どう考えても彼女の感性が大きくズレているとしか思えない。

 

 学園に入学する少し前に、フローラがマーガレットのことを「絶世の美少女」と言っているのを聞いて、俺は確信した。フローラはズレている、と。女性の容姿を貶めるつもりはないが、マーガレットは極々普通の顔立ちをしている。凄まじく可愛いフローラとは比較することさえ不可能なのに、なぜかフローラは本気でマーガレットのことを自分よりずっと美しいと思っているようだった。どうしたらそこまで誤解できるんだ? いくら俺が「フローラは誰よりも可愛い」と言っても全く信じようとしない。お手上げだった。


 フローラは14歳を過ぎると、年齢とともにどんどん胸が豊満になり、とんでもなく艶かしい身体付きになってきた。恐ろしく可愛いうえに女神のように慈悲深い優しい性格。そして魅惑的な危うい身体……そんなフローラに男達が魅了されないはずがない。俺は不安で不安で堪らなかった。

 それなのに、自分は全然モテないと思い込んでいるフローラは、男に対してまるで警戒心というものを持たないのだ。これには本当に悩まされた。俺の注意をまともに聞こうとしないフローラにどれだけハラハラさせられたことか。

 さすがに王太子の婚約者であるフローラに表立って近付くヤツはいなかったが、それでも俺はフローラを他の男に奪われたらどうしよう、と怯え苦しんだ。思いつめている俺をよそに、相変わらずフローラ自身は「私、モテませんから」などと言っていた。「王太子の婚約者」という肩書が彼女を守っているのに、本人はちっとも分かっていなかった。俺が王族ではなく、ただの男だったら、どうなっていたか……考えたくもない。

 

 何とか結婚までこぎつけた時は心底安堵した。指折り数えて待ちわびて、やっと迎えた結婚式当日。披露パーティーの席で、フローラが居心地悪そうに「あまりにも豪華絢爛で気後れする」と言い出した時は衝撃を受けた。ウェディングドレスを纏い、いつもにも増して途方もなく可愛い世界一の花嫁フローラには、どれだけ贅を尽くした披露パーティーを催しても足りないというのに――


 結婚後、子供を3人出産しても、相変わらず桁外れに可愛いフローラ。

 結婚して8年になるのに、俺はいまだにフローラのことが好き過ぎて苦しい。いつまで経っても尋常じゃなく可愛いフローラのせいだ。

 父上にも母上にもフローラにも、最近では子供達にまで残念そうな目で見られるが、俺は今日もフローラを抱き寄せて囁く。

「お前、本当に可愛いな」 

 そしていつものようにフローラに流される。

「はいはい」

 あきれたような笑顔も無闇矢鱈むやみやたらに可愛い。


 フローラが眩し過ぎて今日も俺は胸が苦しい。でもとても幸せだ。









 《王太子殿下のひとり言でした》

 

  完


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