幕間② 元”水晶の赤獅子”Ⅱ
十二時に投稿したかったのですが、間に合わずこの時間に……。幕間②後編になります。
どうぞお楽しみください。
「きゃっ!」
「これは……!」
瞬間、魔力の波動がぶつかり合い、弾け飛ぶ。
それは空気をも揺らし、周囲にいる者たちに知覚できるほどの波となって訪れる。
俺たちはお互いの得物を合わせ、火花を散らしながら顔を突き合わせる。
「っ!」
「っはぁ! 中々じゃあねぇか! 執務室のときから本気で戦いたくてウズウズしてたんだ……!」
「喋ってばっかだと、舌噛みます、よっと!」
「うおっ!?」
獰猛な獣のような笑みを浮かべるギルドマスターに、軽く引きながらも同様に笑みを浮かべ、その腹部へと蹴りを叩きこむ。
それによって俺の1.5倍はあろうかという身体が後ろへと下がる。その距離、数メートル。
突然のことに驚いた表情を見せるギルドマスターだが、これで終わらせる気など毛頭ない。両の脚へと魔力を送り込み、地面を蹴る。
――――縮地
飛ばされたギルドマスターが着地した瞬間、俺の身体は彼の目前にあった。
そしてそのままの勢いで煉獄を振りぬく。技でもなにもないただの振りぬき。
だが、精霊と契約したことにより魔力は増大。それによって強化された膂力は相当なものとなっており、目にも止まらぬ速度で振るわれていた。
「ふっ! オラァッ!」
「む……」
だがしかし、そこは流石の元Aランク冒険者。即座に反応し、手甲を合わせてきた。
俺の斬撃を斜めに逸らすようにしてカチ上げると、その勢いを維持して怒涛の連撃を叩きこんでくる。
このままでモロに受けてしまう。即座に刀を引き戻すと魔力を込めなおし、攻撃に応じる。
壱撃、弐撃、参撃……周囲に金属音を撒き散らし、手甲と刀が幾度となく触れ合う。いや、触れ合うなどという生易しいものではない。それらの一つ一つが人を殺せるであろう威力を持っている。
目前の巨躯の男は深い笑みを浮かべており、その顔には小さな傷が幾つも刻まれていく。おそらく、俺も同じような、狂人の如き顔をしているのだろう。
楽しい、楽しい。頭の中にあった様々なものが削ぎ落され、『楽しい』という感情だけになっていく。
そして、俺たちの剣戟は速度を上げ続け、永遠とも思えるような時間が過ぎていくが、それは突然の終わりを迎える。
ギルドマスターの魔力が膨れ上がったかと思うと突如、手甲より火が噴き出す。思わず、防ぐために後方へと飛び退る……のだが、腹部に衝撃を感じ、そこから脳天へ突き抜けるような痛みが奔った。
「ングッ!?」
「ガラ空きだったもんでな……」
殴られたと理解できたのはその数秒後。
強化されているはずなのに、その威力はシャレにならない。
そのまま、身体を投げ出してしまいたくなるが堪え、再び、魔力を練ってその場から大きく後退する。
――――脱兎
「ち、逃がすか!」
当然そのまま逃がしてくれるハズもなく、赤く燃える両の拳と共に飢えた獅子が追うてくる。
だがそれは――。
「――悪手ですよ」
「むっ!?」
瞬間、彼の足元が赤熱し、炎の柱が噴き出す。
直前で察知されたようで、躱されるが、まぁいい。目的は攻撃を与えることではなく、時間を稼ぐことだからな。
「いつの間に……」
「……炎魔法『地の怒り』ってとこですかね。地属性じゃないけど。さっき、逃げるとき地面に魔力を打ち込んで遅延で魔法が発動するようにしておきました」
「はぁ……規格外だとは思っていたが、想像以上だな。咄嗟にやって成功するようなものでもないだろうに」
「いえ、魔法自体は元々あるから、発動速度を落としただけですよ」
「だからそれが難しいんだろうが……」
距離を取った状態でもギルドマスターが呆れた顔をしているのが見える。
実際、それほど難しいことでもない。発動する前の魔力を別の魔力で覆っているだけだ。イメージとしては孵化直前の卵のようなものである。内側の魔力が外へと出ようとする雛で、外側の魔力が殻。魔法が自力で殻を破って出てくるのだ。
「さて、次は魔法戦と行きますか?」
「俺ぁ、肉弾専門なんでな、お手柔らかに頼むぞ」
「そんなことしてたら俺が負けますよ」
「がっはっは! よし、こい!」
「言われなくとも!」
――――水魔法・水 弾
――――風魔法・風 槍
――――炎魔法・|緋牡丹【狂い咲き】
魔力を高め、三つの魔法を同時展開する。
下級の水魔法、風魔法。上級の炎魔法。それがギルドマスターを中心に円形に展開されている様は壮観である。それらの標的であるギルドマスターは余りといえば余りの光景に空いた口が塞がっていない。
「え、ちょ、お前、これは洒落になら――」
「――ほい」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
慌てて止めようとするが構わず、俺はそれらの魔法全て打ち込む。
心の底から焦った叫び声が聞こえる。やり過ぎただろうか? ……まぁ死ぬことは無いだろうと思うが、あのおっさんのことだし。
魔法によって、周囲の地面が巻き上げられ土煙が立ち込めている。
どうなることかと静観していたのだが、案の定、それを切り裂いて紅い塊りが飛び出す。それは、俺の元へと一直線に飛び掛かってきた。
俺はそれに対し、煉獄を構え、飛び込んで来た拳を逸らし巻き込みながら身体を反転、脚の踏ん張りによって生まれた力を全身に伝播させ、一気に放つ。
────刀術Lv.8 引き潮
刃が深く肉を捉え、抉る感触を味わうがそれに怯むことなく振り切る。そして、直後眼前の傷が発火し、焦げた肉の匂いが充満する。
「がぁぁぁぁぁっ!」
悲鳴にすら、思える叫び声が聞こえる。
これでもう、動けない。
そう思った時、眼前に突如、巨大な手甲が出現し、顔面に強い衝撃を覚え、俺は意識を失った。
◇
「痛っ……」
「あ、お目覚めですか?」
アレから少し、気を失っていた俺が目を覚ました時には全身に包帯が巻かれ、隣では治療院の治療師だろう女性がヒールを掛けてくれていた。
彼女の問いに頷き、断りを入れて身体を起こす。
軽く魔力を通し、違和感がないか確かめる。
「ん、大丈夫だな」
「良かったです、外傷こそ少なかったですが、頭を強く揺らしていたようなので……」
「ああ……」
その言葉に思い出すのは最後の一撃。
やはり、詰めが甘いと言うしかないだろう。クロスカウンター気味にまんまと殴られてしまった。
と、そこまで考えたとき、勝敗はどうなったのか気になる。順当に考えれば俺の負けだろうが……。
「えっと、勝敗は──」
「──ソウジ起きたかっ!」
治療師にその事を訪ねようとしたとき、聞き覚えのある大声と共に、扉が乱暴に開かれる。
見れば、俺と同じく包帯でぐるぐる巻きにされたギルドマスターが入ってきた。
遠慮も何も無い彼に溜息が漏れ出る。
「ビックリするじゃないですか……」
「ガハハ、すまんすまん」
「まぁ、でもちょうど良かった結局どうなったんです? 勝敗は」
「ん、それがだなぁ……お前ぶん殴ったあと俺も気絶しちまってよ。要するに、引き分けってやつだ」
……なんともまぁ、締まらない結末だ。
まぁ、自分たちらしいかと思わないでもない。それにこの模擬戦で学んだことも多く、無駄ではなかった。
「そう、ですか……まぁまたお願いします。今度は体術とかメインで」
「おう、幾らでもやってやる」
「……貴方には仕事があるでしょう?」
「「ひっ!」」
俺の再戦の申し出に、ギルドマスターは口角を上げ、ニヤリと笑って頷いた……のだがその背後より背筋の凍るような声が聞こえてきて、二人揃って小さく悲鳴を上げてしまう。
そして、姿を現したのはギルドマスターの娘であり、俺が普段から世話になっている受付嬢であるところのミライアさんだ。
「じゃあ、仕事に戻りましょうか。ギルドマスター?」
「あ、ああ……」
「では、失礼します。ソウジさんもしっかり身体を休めてくださいね!」
「は、はい」
軽く怒った様子で顔を寄せてくる彼女に圧倒されながらも心配は有難いことなので頷いておく。
こうして、ギルドマスターは連れ去られ、俺も服を着替え、ギルドを後にして休日が終わりを告げるのだった。
あと一話、幕間を投稿した後、二章に入らせていただきます。





