幕間② 元”水晶の赤獅子”Ⅰ
比較的、早めに投稿できて一安心です。
今回のお話、予定より大幅に長くなってしまい、前後編に分けられております。
ご了承ください。
今日は休養日ということで、依頼を受けず、珍しく各自で行動することになった。
アリアとリリルは私服とリリルの戦闘用の服を用意する為にネーナさんのお店に行くようだ。そう言えば、俺の服も返してもらわなくては……。すっかり忘れていたな。
一方、俺はある約束を果たすためにギルドへとやって来ている。扉を開け、中へ入るが相変わらず熱気が凄く圧倒されてしまう。こればかりは中々慣れないものだ。
「あ、ソウジさんおはようございます」
「ああ、ミライアさん、おはよう」
受付に向かうと、父親譲りの赤髪を靡かせミライアさんが挨拶してきた。相も変わらず、彼女は美しくギルド内の冒険者たちの視線を集めている。
ここ最近は、何故かミライアさんしか応対してもらっていない、というよりも俺がここへ来ると別の受付嬢がいてもミライアさんと入れ替わる。おかげで彼女に対応してもらうためにわざわざ並んでいた他の冒険者の視線がビシビシと突き刺さってくるのだ。……うう、胃が痛い。
そんなことは露知らず、ニコニコとミライアさんが用件を尋ねてくる。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あー、今日は例の約束の件です。今日はオフだし、丁度良いので……」
例の約束、と伝えると彼女は少し困ったような顔で溜息を吐き、軽く頭を下げる。
「例の、ですね。ほんとに父が申し訳ありません」
「いえいえ、大丈夫ですよ! こんな機会滅多にありませんし、楽しませてもらいます」
「そう仰って頂けると幸いです……」
いや、まぁ確かにあのおっさん──ギルドマスターは毎度毎度突拍子もないことするから困るのだが。
今回は彼の提案で模擬戦を行うことになっている。最初は驚いたが、元Aランクと戦う機会など滅多にない上、二つ名持ちだ。俺の中で戦わないという選択肢はないに等しかった。
「では、伝えて参りますので、少々お待ち下さい」
「わかりました、酒場の方にいますので」
俺の返答に会釈を返し、ミライアさんは奥へと消えていく。
それを見送ると俺は酒場へと向かい、ドリンクを注文して席へとつく。
購入したのはオークジュース、さっぱりとした酸味とほどよい甘みが特徴の人気商品だ。……ま、早い話が林檎ジュースである。
「ん、やっぱり美味いな」
『むぅ……我も飲みたいのだ』
「お前は姿を見せるとややこしくなるからダメだ。とりあえず、俺がランクアップすれば多少状況の変化もあるだろ?」
『ぐむむ、仕方あるまい、我慢しよう。だが、主分かっているだろうな!』
「はいはい、買って帰るよ。模擬戦の後な」
オークジュースを楽しんでいると脳内に例の如く紅炎の声が響く、どうやらコレを飲みたいようだが今姿を見せる訳にはいかない。
妥協案として、購入して帰り、宿で飲ませることを約束し、引っ込んでもらう。
「おう、何をブツブツ言ってんだ?」
「うぉっ!」
その時、背後から突然、声を掛けられる。
驚いて後ろを振り返るとそこには前回の緊急依頼の際に知り合ったカイトら3人組が立っていた。
「なんだ、お前らか……」
「くくっ、おう、"期待の新人"さんよ」
「やめてくれ、恥ずかしい」
ニヤニヤと笑いながらカイトが俺の事を揶揄ってくる。レンは申し訳なさそうに笑っていて、ラルフはいつもと変わらない様子で無表情だ。
レンよ……そういう態度は余計恥ずかしくなるんだぞ。あと、ラルフせめて何かリアクションしてくれ。
心の中で幾らか恨み言を述べているとカイトが周囲を見渡し、尋ねてきた。
「で、今日は一人か?」
「ああ、今日はオフでそれぞれ自由に行動してるよ」
「そうなんですか? では、ソウジさんはなんの用でギルドに?」
「あー、ちょっとな……」
レンに対して、まさかギルドマスターと模擬戦をする予定だとも言えず、言葉を濁した。
が、俺の些細な抵抗も虚しくそれは現れた。
「お、いたいた」
「!?」
「談笑中、すまないな。ちょっとこいつ借りてくぜ」
「あ、え、はい?」
目前の唖然とした様子の三人衆と頭上より降ってきた声に愕然とする。
沸々と湧き上がる信じたくない気持ちを胸に恐る恐る背後を振り返る。
「よう、ソウジ」
初めて会った時同様、綺麗に生え揃った白い歯を見せて笑う赤髪赤眼の巨漢――ギルドマスターのヴァルト・アルヴェリアがそこにいた。
いつも見るギルドの制服姿ではなく、動きやすいようにか黒と赤のベストに外套を纏い、両腰には素人目に見ても業物だとわかる手甲を下げている。
「なんであんたが出てきてんだよ!?」
「がっはっはっはっ! いやぁ待ちきれなんだ!」
思わず、立ち上がり敬語も忘れて叫んでしまう。
そんな俺に対してギルドマスターは人目も憚らず、豪快に笑い声をあげ、待ちきれなかったと宣う。
当然、そんなことをすれば周囲の注目も集まるわけで……。
「おい、見ろよ。あれって例の新人だろ?」
「しかもギルドマスターと一緒じゃねぇか、それも現役時代と同じ格好……」
「あれってギルドマスター、いや"水晶の赤獅子"というべきかしら?」
「期待の新人とギルマスか、また何かやらかしてくれそうだな、おい!」
水面に波紋が広がるようにザワザワとギルド全体が騒がしくなっていく。
興味、疑念、驚喜、期待、エトセトラ、etc……様々な感情の波が好奇の視線が押し寄せてくる。
時々聞こえてくる、『水晶の赤獅子』というのはギルドマスターの現役時代の二つ名だ。今よりも髪が長く鬣のように見えていたことと獅子のように獰猛な戦い方から付いたものらしい。
「ギルドマスター……余計な注目集めてしまったじゃないですか」
「はっはっ、すまんすまん。まぁそろそろ行かねぇか?」
「はぁ……わかりました、行きますよ」
恨みがましくギルドマスターを見ても彼はどこ吹く風と笑うだけ。
いや、それどころかもう行こうと催促するほどである。余りの清々しさに呆れも通り越して、ある種の尊敬すら抱くほどだ。
ひとまず了承し、カイトたちにその旨を伝えるとその場を後にする。
「なんだったんだ……」
二人が去ったあと、事情をいまだ呑み込めないでいるカイトの独り言だけが零れ落ちた。
◇
場所は変わって、ギルド内の訓練場。普段、冒険者の為に開放されており、鍛錬を行う場所だ。
今回、ギルドマスター自ら使用するということで貸し切りとなっておりこの場には他の利用者はいない。
そのギルドマスターは既に手甲を装備して、訓練場の中央に立っている。調子を確認するように両の拳を何度も打ち付け、獰猛な笑みを浮かべている。
対する俺は霊魂器:無銘が紅炎と契約したことによって進化、銘を得たもの――灼刀・煉獄を握りしめ、彼の前へと歩を進める。
ルールは単純、どちらかが戦闘不能になるまで、である。もちろん魔法の使用も可。正真正銘の本気の勝負だ。ただ、紅炎は今回休んでいてもらう予定だ。
「双方、準備はええか……?」
「俺は構わねぇぜ」
「同じく、俺も大丈夫です」
今回、審判を行うのは元Cランク冒険者であり、現在はギルド直属の教官として教鞭をとっているグランさんだ。俺の冒険者試験を担当してもらったことは記憶に新しい。
その傍にはこの為だけにギルドマスターが治療院より収集した卓越した治療師が控えている。
グランさんは俺たちに準備の可否を訪ね、双方が了承したことを確認すると大きく右手を掲げる。
「……只今より『水晶の探求団』ギルドマスター、ヴァルト・アルヴェリアとEランク冒険者、ソウジ・アカツキにより模擬戦を行う! 勝敗はどちらかの戦闘不能、魔法の使用、可! 双方、これに異存がなければ構えよ!」
異論などあるはずもなく、俺たちは互いの得物を構え、対峙する。
その間には何の隔たりもなく、あるのは今か今かと開始を待ち侘びる獣の如き、意志のみだ。
「では……模擬戦、開始!」
掲げられていた右手が振り下ろされると同時に弾かれたように地面を蹴って、二匹の獣が肉薄した。
――――――常在戦場の構え
――――――強化魔法Lv.7 全身強化・視覚強化
――――――魔力纏化・鋭
俺の身体と煉獄に脅威的な展開速度で魔力が満ち足りていく。
だが、それは向こうも同じ。可視化するほど濃密な魔力が迫りくる男の身体を包み込んでいる。
斯くして、両雄は激突し、史上稀にみる模擬戦が幕を開けるのだった。
灼刀《煉獄》Rank:A+ 属性:炎
赤茶色の鞘、朱色の柄。
刀身は紅く燃え上がる炎を表したように紅色をしている。魔力を込めるとそれを糧に灼熱の炎を発現し、斬ったものを燃え上がらせる能力をもつ。
本編にて、霊魂器の説明を記載し忘れていたようで、ここに設定のような何かを置いておきます。
またキャラ紹介など書きたいと思います。





