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34 緊急指名依頼




「で、なんで呼び出したんですか?」

「お、そうそう。それだ」


 葉巻を取り出しながら椅子に腰掛けるギルドマスター。そのまま火をつけようとするが、ひょいっと横から取り上げられる。


「仕事中ですよ? どさくさに紛れて何やってるんですか?」


 横を見れば、ミライアさんがやれやれと首を振っていた。そして葉巻をゴミ箱へと放り投げる。


「ああっ! もったいないだろ!」

「悪いのはギルドマスターです。止めて欲しければ自重してください」

「なんつー娘だ......誰に似たんだろうな」

「少なくともあなたではありません」


 まるで親子のような会話を交わしながら......って娘ってどういうことだ?


「あの、もしかしてギルドマスターとミライアさんって」

「あぁ、そう言えば言ってませんでしたね。私、ミライア・アルヴェリア(・・・・・・)です。この粗忽な人の娘です」


 ......驚いた。人体の神秘とは凄いな、アレからこんな綺麗な人が生まれるのだから。いや、母親は見てないし、ありえない訳でもないか。


「何か失礼なこと考えてないか? まぁ、それはいいだろう。本題に入ろう」


 実の娘から、ボロクソに言われて気不味くなったのかギルドマスターが話題を変えようとする。たしかに、聞きたいのでここは乗っておこう。


「そうですね。教えてください」

「ああ、まずは......」

「私ですね。えっと、ソウジさん、アリア、例のモンスターの正体がわかりました」


 例のっていうと、カイトたちの方か。


「過去の記録を遡っている時に見つけました。名前は『クリムゾンベア』、レッドベアの上位種に当たります。火属性魔法をも用いると言われていて、ランクは......Bです」


 Bランクなんてモンスター、関わることも稀だと思っていたがこんな身近にいるのか。

 驚く俺を窘めるように此方を見るギルドマスターがミライアさんの後を継ぐ。


「まぁ、そっちは問題ない。ナザースが行っているからな、問題はお前らが持ち込んだ方だ」

「持ち込んだ方っていうとあの子の村ですか」

「そう、クリムゾンベアの記述と共に乗っていたが、"青い"のは更に厄介な突然変異種だ」


 突然変異種......初めて聞いたが......。


「名前は『フロストベア』。何が原因かはわからねぇが青く変異しちまいやがった。極めつけはそいつ、氷属性の魔法を使いやがるそうだ」

「氷属性って!」


 ガタリと立ち上がったのは、隣に座っていたアリア。


「あぁ、上位属性だ。厄介なことになりやがった」

「今......この街にはBランク以上の冒険者がいません。一人を除いて......」


 それってまさか......思わずアリアの方を見る。


「そう、アリア、お前さんだ。そこでお前と坊主、二人に緊急依頼としてフロストベアの討伐を頼みたい」

「私たちに、ですか」

「あぁ、最初は俺が行くつもりだったんだが、少し事情が変わった」

「ギルドマスターが?」


 たしかに強かった。

 肌を刺すような威圧感とあの突きの威力は侮れない。おそらく俺ではまだ敵わないだろう。


「ああ、まぁこれでも元Aランクだ。多少は大丈夫だと思っていたがこっちにも仕事が出来た。ということでお前たちだ」


 どういう仕事か聞きたいところだが、聞いても教えてくれないだろう、何故かそんな気がした。


「分かりました、その依頼受けましょう。......いいよね? ソウジ君」

「あぁ、何も問題は無い」

「すまないな、助かる」


 ペコリと頭を下げ、部屋を退室する。

 こうして、俺たちは依頼を受けることになったのだが今は夜だ。

 今すぐにでも行きたいところではあるが準備に徹するべきだろう。

 あ、そういえば......。


「アリア、防具ってそろそろだよな」

「そういえばそうだね、ちょうどいいし取りに行こうか」

「ああ、その前にあの子の様子を見ていこう」

「うん」


 仮眠室の扉をノックすると中から聞こえてきたのは、可愛らしい声。

 扉を開けると狐耳の少女がベッドに座っていた。


「あ......お兄さんとお姉さん」

「起きたのか、調子はどうだ?」

「ボクは大丈夫です、それより村は......?」


 自分も相当疲れているはずだが、真っ先に村の心配か。いい子だな。

 いつまでもそんな不安そうな顔をさせるわけにはいかない。


「ああ、俺たちが救援に向かうことになった」

「お兄さんたちが?」

「そうだよ、これでも凄い冒険者なんだから!」

「時折、ドジするがな」

「はい、そこ! 茶化さない!」


 いつも通りの調子で、漫才をしているとくすくすと笑い声が聞こえる。

 見れば少女が口に手を当てて笑っていた。


「あ、ごめんなさい、可笑しくってつい......」

「いいさ、辛気臭い顔してるよりましだ」


 三つほどしか違わないとはいえ、年下の子にあんな顔させるのは俺の主義に反する。


「ありがとうございます。あの、お兄さんたちの名前は?」

「俺はソウジ・アカツキ。まだEランクだけど、実力はそれなりにあるつもりだ」

「私はアリア。れっきとしたBランク冒険者で二つ名持ちだよ!」

「アリアさんとソウジさんですね。ボクはリリル、リリル・ゼオです」


 リリルか、改めて見ると顔も整っているし、将来的には物凄い美人さんになりそうだ。


「ひとまずはここに置いてもらえるだろうし、村は俺たちが守るから安心してくれ」

「あの......そのことなんですが」

「ん?」


 少しうつむき、何かを躊躇う様子を見せる。

 そんな彼女の頭を撫でて落ち着かせる。

 すると、何かを決意したように顔を上げる。


「あ、あのっ! ボクも連れて行って、もらえませんか」

「は?」


 突拍子もないお願いに思わず間抜けな声を出してしまう。

 何度もリリルの顔を見るがもう決め切ってしまっているようすだ。


「どうしてだ?」

「きっと、みんな今は不安でいっぱいだと思うんです。それなのにボクだけ一人安全なところにいることなんてできません! 強化魔法くらいなら使えますし、みんなのところに戻りたいだけなんです。......戦いの邪魔は絶対しません」

「それは......」


 言いたいことは分かる、その気持ちも。

 俺だって両親を亡くしてるし、そうなるかもしれないってだけで不安だろう。

 

「お願いします!」


 今の俺には彼女を止めることはできない。それは彼女の顔を見てすぐに分かった。


「ソウジ君、連れて行くだけなら......」

「ったく。しょうがないな、とりあえず村までは連れていくから、そのあとはちゃんと村の人たちといるんだぞ? 全力で俺も守る」

「え......」


 何が起こっているか、わからないという顔でこちらを見上げるリリル。

 もう一度軽くその頭を撫でて立ちあがる。

 それでようやく理解が追いついたのか、自分も立ち上がり勢いよく頭を下げる。


「ありがとうございます......!」

「ああ、じゃあとりあえず一緒に準備しに行くぞ」

「そんな服一枚じゃ安心できないからね」

「っ!......はい!」


 こうして俺たちは緊急依頼に向けて、準備に向かうのだった。


 

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