35 防具のお披露目
一週間毎日投稿五日目。
だいぶ慣れてきました。
「ここですか?」
「ああ、そうだ。ここの親方は良い人でな、初対面の俺にも親切にしてくれたんだ」
「そうなんですか」
俺たちはリリルを連れ、イグネスさんの鍛冶屋へと来ていた。
俺の防具と刀、そしてリリルの防具を買う為だ。さっきも言ったが、服一枚じゃ心許ないからな。
工房は相変わらず、金属を叩く槌の音と怒声が響き俺たちの声が聞こえるとは思えない。どうしようかと思案していた時、丁度よく一人のお弟子さんが出てきてくれた。
「あの、すみません」
「はい? あ、あなたはこの前の!」
「え?」
「親方が初対面の人にあんな風に接するのは初めてでしたからね、よく覚えてます」
どうやらこの前の親方とのやり取りを見られていたようだ。
「どうも、その節は。えっと、親方いますかね?」
「親方ですか? 中にいますけど呼んできましょうか?」
「お願いします」
出てきたばかりで悪いのだが、彼が急ぎ足で戻っていくのを見送る。
そうして、暫く待つとガチャガチャと物音を立てながらイグネスさんが現れた。
「おう、坊主、今日はどうした?」
「その坊主ってのはやめてくれませんかね、俺にもソウジっていう名前が......」
「ふん、お主みたいな若造なぞ坊主で十分じゃ」
「いってぇ!」
バシリと背中を叩かれる。その太い腕から繰り出される平手は想像以上に痛く、思わず叫んでしまう。
「で、なんじゃ?」
「えっとですね、防具ってもう出来てますか? 後、刀も。明日、緊急の依頼があって......」
なんの要件か尋ねる彼に大体の事情を掻い摘んで話す。全て話し終えると、彼は腕組みした状態で黙り込む。
「まだ、でしたか?」
沈黙に耐えられず、尋ねるとニヤリと口角を上げ笑う。
「出来ておるぞ」
「ほんとですか!?」
「ああ、お前ら! アレ持ってこい!」
振り返ると、工房内へ大きな声で怒鳴る。
すると直ぐに何かを押してくるような音が聞こえ、奥から俺の防具が姿を現した。
「これは......」
「俺の自信作だ、有り難く受け取れ。......とはいえ、最終調整をしなくちゃならんがな」
人形のようなものに装備されているそれは甲冑や武具というよりかは革鎧と呼ばれる部類のものだ。
関節部分の要所要所はきっちりと金属のパーツで覆われているが、その他の部分は皮であることが伺える。
パッと見て目に付くのは首元や胴体、腰周りに腕を覆う狼の皮だろう。一見服のようにも見えるそれは戦った俺だから分かるが十分な強度を持っている。
そして特筆すべきはそれらの下に見える黒い鱗だ。恐らくインナーのように着込み、楔帷子のような役割を果たすと思われるそれは、俺がこの世界に来て初めて命を奪ったものだ。そう考えると凄く感慨深くあり、懐かしくもある。
手の部分もなんの皮かは分からないがグローブのような物を履かされている。これで刀の握り込みもしっかり出来るだろう。
見れば刀を、正確には鞘を取り付ける部分も腰の両側に付けられている。俺が二本差しであることを配慮してつけてくれたのだろう。見れば後ろにもナイフを収める場所が作られている。
「よくこんな物を三日足らずで......」
「儂ら本業を舐めるでないわ、これぐらい朝飯前よ。それより早く着てくれんかの?」
「今ですか?」
「ああ、坊主の身体に合わせて調節せにゃならん」
「わかりました」
アリアとリリルには少し待っていてもらい、奥で着替える。
リザードマンの皮で出来たインナーを着込み、肘当てや脚甲など金属パーツを取り付けていく。インナーは最初は少し抵抗があったが、綺麗に鞣されているのか驚くほど滑らかにいることが出来た。そしてさらに驚くのは柔軟性に富んでおり、全く動きが阻害されないことだろう。
最後に一角狼の皮で出来た服を着て、横にポシェットが幾つか着いたベルトを締める。そしてこれまた金属と一角狼の毛皮で作られた籠手を嵌めれば完成だ。
「うむ、中々似合っとるの。では、取り掛かるぞ」
そしてイグネスさんと俺の応対をしてくれたお弟子さんが俺の全身をチェックしていく。
少しこそばゆいが、そこからは早かった。
「む、少しここは甘いな。七番の留め具を貸してくれ」
「よし、そこは締め方を少し変えようかの」
「次は肩のパーツだ。肩当を少し削るんじゃ、そう、五番じゃ」
こんな具合であれよあれよという間に改造が施されていく。そしてものの十分もしないうちにイグネスさんたちは工具を片付け始める。
「もういいんですか?」
「ああ、試しに動いてみてくれ。それでどっかおかしけりゃ言ってくれ」
「わかりました」
ディメンションバッグから鞘が着いたままの刀を取り出し振ってみる。
大きく踏み込み、上下に、袈裟、逆袈裟。何時ぞやの試験の時と一緒だ。
「全く違和感ないです。それどころか、物凄く動きやすいです!!」
「そうか、ならよかったわい」
アリアたちにも見せに行くと、彼女らの反応も上々だった。
想像以上の出来に感激しているとイグネスさんが俺の刀を持ってきた。
「こっちの調整も済ませておいたぞ」
「ありがとうございます」
「少し、予想外なことになってしまったがな」
「え?」
「見ればわかる、抜いてみろ」
少し不安になるが彼のことだ悪いことにはならないだろう。
そう思い、刀を抜き放つ。
「!!」
そして、その鞘から姿を現した刀身は、若干ではあるが赤みがかっていたのだ。
ただでさえ、美しかった刀身だがより神秘的な美しさを見せる。
「これは?」
「どうもな、火の精霊が悪戯したみたいでの。火属性への親和性が高まっておるんじゃ」
「火の精霊が......?」
鑑定を使用してみる。
――――――鑑定Lv.7
霊魂器:無銘
Rank:B+
所有者:ソウジ・アカツキ
二振りで一つの刀。見るものの心を捕らえて離さない美しい刃紋をもち、一切の澱みがない。しかしその実、切れ味は王都の一級鍛冶師の鍛えた剣と打ち合っても刃こぼれせず、逆に向こうが切れてしまう程である。また、この刀には文字通り銘がない。
火属性の精霊が住み着いたことにより、火属性への親和性が高まっている。
確かにそのようだ。というか、火精霊が住み着いたって......。
試しに火属性の魔力を練り、それを刀へと送ると吸収されてしまう。イメージを持たずに送ったからだが、霧散ではなく吸収だったし気配も感じたから間違ってはいないだろう。
「ま、坊主にはそれだけではないようだが」
「え?」
「なんでもない。で、要件はこれだけか?」
「あ、いや、実はこの子の――」
何か言ったようだが、聞き逃してしまう。
他に要件はないかと聞かれたので、リリルの装備を一式用意してもらうことにした。
軽く動きやすい、胸当てと籠手に諸々だ。
「ありがとうございました」
「あ、あのボクのもありがとうございました!」
「気にするもんじゃないわい、きちんと報酬は受け取っとる。嬢ちゃんもな」
一通りが終わったので俺たちも明日に備え、睡眠を取る必要があるため長居していられない。
ということで、イグネスさんにお礼を言う。
「それと、ソウジ……それにアリア」
「!」
今、名前を……。
「気をつけるんじゃぞ」
「……はいっ!」
「もちろんだよ!」
こうして、俺たちは帰路に着いた。
sideイグネス
「ふっ……あやつが人間といるとはのぅ。それだけあの坊主が可能性を秘め、なおかつ善人なのじゃろうな」
儂は、先程までここにいた人懐っこそうな笑みを浮かべる少年とその傍にいた存在を思い出す。
あやつがいるのに気づいたときは驚いたが、不思議なことに同時に納得もしたものだ。儂もあの少年のもつ善性に惹かれておるのかもしれん。
「心配はしたものの、まぁなんとかなるじゃろ。あやつが目にかけてるやつをほっとくとも思えんしな」
自分の推察が合っていることを確信しながらそして工房から自分を呼ぶ声に答え、中へと戻っていくのだった。





