chapter20 茂みの中から
水人形の実験を始めてから、一月が経った。
毎日、朝から夕方まで約十時間。
ウォータードールを弄り続けているが――目に見える成果は出ていない。
動かせるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。
……いや、本来なら、もう少し形になっていてもいいはずなんだが。
思いつきで作った魔法とはいえ、難易度は想像以上かもしれない。
もっとも、水を人型にするだけなら簡単なんだけどな。
そんなことを考えながら、今日も意識を投影して検証を続けていると――
近くの茂みから、「ガサガサ」と音がした。
反射的に意識を引き戻し、そちらへ視線を向ける。
次の瞬間、現れたのは――緑色の肌をした小柄な化物。
ゴブリンだった。
そいつはオレの姿を捉えるなり、迷いなく飛びかかってくる。
――速い。
咄嗟に、水人形を起動。
ウォーターボールを発動させる。
水人形から放たれた水球が、ゴブリンの顔面に直撃した。
体勢が崩れ、わずかに動きが止まる。
その一瞬で十分だった。
意識投影を解除し、間髪入れずに――風魔法を展開。
「ウィンドカッター」
不可視の刃が走り、ゴブリンの首を切断した。
■ ■ ■
「……なんで、こんなところにゴブリンがいるんだ?」
思わず、そんな言葉が漏れる。
転生して三年。
モンスターと遭遇したのは、これが初めてだった。
「まぁ、魔物なんだし……どこにいてもおかしくはないか」
深く考えるのはやめた。
ゴブリンの死体から魔石を取り出し、土魔法で穴を掘る。
風魔法で部位ごとに切断し、そのまま埋めた。
処理を終えると、何事もなかったかのように実験を再開する。
やがて夕方になり、家へ戻った。
その日の出来事は、夕食の席で軽く話した。
「ってことがあったんだ」
姉と兄は、きょとんとした顔をしている。
だが――
「……は?」
父上の手が止まった。
母上の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「ちょっと待ちなさい……どういうことなの?」
声が、わずかに震えていた。
「裏庭近くの森だけど?」
「……っ」
母上が息を呑む。
父上はゆっくりと立ち上がった。
「……ただ事じゃないな」
短くそう言うと、すぐに支度を始める。
「村長と領主様に連絡する。森の調査が必要だ」
そのまま慌ただしく家を出ていった。
残された食卓に、重い沈黙が落ちる。
――どうやら、思っていたよりも面倒なことになりそうだ。
読んでくれた方ありがとうございます
誤字、脱字などの不自然な文章があれば、指摘お願いします
他の作品も読んでくれたら、嬉しいです
面白いと感じたら、評価やブックマークお願いします




