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森の中の四人



「ああもう、なんなのよこれ!

聞いてないわよ!」




荒く言い放った暴力エルフことアリスの言葉は、俺たち四人の心境を代表してくれていた。




「本当ですね。

これは少し面倒です。」




早乙女さんは冷静に周りを警戒している。




「もー、虫とかいたら嫌なんだけどー。

勘弁してよねー。」




相変わらずズレたことを真顔で言っているのは変態山岡である。




俺たちは、森の中にいた。




「どうしてこうなった。」




誰にともなく言い放った言葉に反応したのか、薄暗い森の何処かで魔物の吠える声が聞こえた。




...いや、本当にどうしてこうなった?




***




時間はさかのぼり、クラスマッチ2日目の朝。



SHRを終えた後、体育館に向かう全校生徒。




体育館では昨日と同じく諸注意や今日の流れなどが説明された。




「...では、これよりクラスマッチ2日目を開始します。

では、アリーナへ移動してください。

選手は闘技場の中へ、その他の生徒はスタンドにて待機をお願いします。」




わらわらと生徒は移動を開始する。



取り敢えずアリーナで試合は行われるらしい。




しかし、あまり詳しい説明はなかった。



大雑把な進行内容しか把握できていないんだけど、大丈夫かな。




「いよいよ始まるねー。」




「だな。」




山岡は大して緊張している様子はない。




「あら、今更怖気づいているのかしら?」




「なんでやねーん。」




アリスはいつも通りである。



何故いちいち上から目線なのだろうか。




「行きませんか?

始まってしまいますよ。」




そして、早乙女さん。



なんか昨日のことを変に意識してしまって、目を合わせられない。



いや、元気付けてくれてただけっていうのはわかってるんだけど。



やっぱり昨日のあれは意識しちゃうよね。




「あ、御影くーん。」




そう言って手を振っているのは碓氷さん。



ブンブンと手を振って存在を主張している姿は非常にかわいい。




なんだろう。




「ちょっとごめん。

先行ってて。」




「モテる男は大変だねー。」




「御影のくせに生意気よ。」




この二人は俺に恨みでもあるんだろうか。



てか、そんなんじゃないし。



めんどくさいなー。




「はいはい。」




適当に流し、碓氷さんの方へ向かおうとした俺は、視線を感じ振り返る。




「な、なに?」




「別に。

なんでもありません。」




ジト目の早乙女さん。



え、早乙女さんまで?




それはショックなんですけど。




「早く行ってあげてはどうですか?

待たせては悪いですよ?」




「はい。

行ってきます。」




敬語になりつつ碓氷さんの方へ向かう。




「碓氷さん、どうしました?」




「いや、応援してるよってだけなんだけどね。

頑張ってね。

君ならきっと優勝できるよ!」




そう言ってウインクする碓氷さん。



いちいち仕草がかわいい。




なんか優勝できる気がしてきた。




「ありがとうございます。

頑張ってきますね。」




「うん!

あ、それと田岡先輩も出るらしいから気をつけてね。

なんか最近妙に静かで怖いんだよね。

嵐の前のなんちゃらってやつかも。」




真剣な顔で忠告してくる碓氷さん。



確かにあの日以来筋肉ゴリラに遭遇していない。




これは警戒しておこう。




「気をつけておきます。」




「君なら心配はいらないとは思うけどね。

約束守ってよ?」




ニコニコとした彼女はやっぱりかわいかった。




筋肉ゴリラか。



もう一回ぶっ飛ばすって勝手に決めたんだっけか。




そんなことを考えていると、碓氷さんが固まって赤くなり始める。




うん?




「どうしました?」




「あ、いや。

えと、なんでもない。」




そう言って下を向く彼女。




なんだろう。




約束か。



そういえば怪我しないでぶっ飛ばすって約束したっけ。




...あ。




思い出して俺はフリーズする。




「なにやってんだ、ヌイ?」




「どうしたの?」




そうやって二人揃って固まっているとリョウとシンの二人が声をかけてきた。




助かった。




「いや、なんでも。

ね、碓氷さん?」




「う、うん。」




なんとか持ち直した俺たちはシンとリョウと一緒にアリーナへ向かうことにした。




「そういえば和泉くんも出るんだっけ?」




「そうっすよ。

ヌイだけじゃないっすよ?」




そう言って笑うシン。




「あ、いや、そうだよね。

ごめん。」




「そ、そんな謝られても。」




そう言って慌てた様子のシン。




「碓氷さん。

シンなりのジョークですよ。」




「あ、そうなの?

ふふ、ごめんね。」




リョウが冷静に碓氷さんに説明すると、碓氷さんは笑って謝る。




楽しそう。




シンとリョウは碓氷さんと面識がある。



そりゃ同じ寮に住んでるんだから当たり前なんだけど。




「あ、もう直ぐだね。

じゃあ、シンとヌイは頑張ってね。」




「おう!」




「頑張るよ。」




アリーナ前に差し掛かって選手組と観客組に別れる。




碓氷さんはニコニコ手を振っている。




「あ、そうだ。」




何かを思い出したかのように走って近づいてくる碓氷さん。




なんだ?




「...怪我しないでね。

私のナイトくん?」




そう言って走り去って行く碓氷さんは、悪戯が成功した時のリンネさんの様な表情をしていた。




きっと俺は顔が真っ赤だったろう。




してやられた。




「よし、俺のチームはあっちだ。

じゃあな。

お互い頑張ろうな。」




「...ああ。」




ぼうっとしつつ、何とかシンに返事をして別れる。




俺の頭にはあの日のことでいっぱいだった。




「...私のナイト、かあ。」




俺の黒歴史をうまいこと掘り起こしてくるなぁ。




そんなことを考えながらチームに近づいて行く。




「ちょっと、遅いわよ。

怖気付いて帰っちゃったのかとおもったわよ。」




「だから、怖気付いてないって何回言わせるんだよ。」




「まだ、今日は一回目です。」




ピシッと冷静に返事をしたのは早乙女さんである。



なんか怒ってる、気がする。




え、なんで?



敵しかいないんですけど。




「もー、ヌイが知らない女の子とデレデレしてるから瑠璃ちゃんが嫉妬しちゃったじゃん。」




なんでもない顔で言う山岡。




「な、ち、違います。

訂正してください。」




珍しく焦った顔の早乙女さん。



俺はどんな顔しとけばいいんだよ。




やめろよ。



困るだろうが。




「冗談だよ。

そんなに慌ててたら図星かとおもったじゃんかー。」




「...黙っててください。」




これにはいつもふざけている山岡も口を閉ざした。



うん、早乙女さんそんな声出せたんだ。




「えー、では〈スキルあり チーム戦〉を始めます。」




お、ナイスタイミング。




「では、リンネさんからよろしくお願いします。」




うん?



リンネさん?



なんで?




「あー、あー、てすてすー。

聞こえてるー?

大丈夫ー?

じゃ、君たちには今から魔法をかけちゃうから。

生き残ってね。

じゃー、...どん!」




マイクから聞こえた声は確かにリンネさんのものだった。




魔法?



生き残ってね?



そんな疑問はすぐに吹き飛ぶ。




地面には俺たち選手組を全部覆ってしまうほどの巨大な魔法陣が浮かび上がったのである。




え。




「な、なに?!」




「...。」




「あちゃー、こういうことかー。」




「...はあ。」




アリスは急に現れた魔法陣に驚き、早乙女さんはなにが起こってもいい様に腰を落としてレイピアを握り、警戒している。




山岡は意味深な言葉を零し、俺はもう諦め、ため息を吐く。




一瞬の浮遊感の後に目を覚ましたのは薄暗い森の中。



周りにいた大勢の選手達の姿はなく、アリス、早乙女さん、山岡、俺の四人しかいない。




なんだこれ。




「なに、ここは?」




「森だねー。」




気の抜けた山岡の声で、異常事態だというのに妙な落ち着きを取り戻す。




「どうしましょうか。」




「取り敢えず生き残る、のかな?」




言いながら全く自信がない。



確かリンネさんが言ったのはそんなことだった気がする。




おそらくこれはリンネさんが俺たちに魔法をかけたことで起こったことなんだろう。




あんな大人数に魔法をかけてしまうなんてもしかしてリンネさんってすごいんじゃないのか。




そんなどうでもいい考えを捨て現実を見据える。




取り敢えず状況把握が必要だろう。




「ここはどこなのよ。」




「うーん、どこでもないんじゃないかなー?」




ふざけるな。



いつもだったらそう言っていただろうが、今回ばかりは山岡に賛成である。




「ふざけてるのかしら?」




「いや、俺もそう思うよ。」




そう言うとアリスは真剣な表情を浮かべる。




「説明してもらってもいいでしょうか?」




早乙女さんは周りを警戒しつつ尋ねる。




「リンネさんは俺の住んでる寮の管理人なんだけどね。

彼女の種族はピクシーなんだけど。」




そこまで言うと、うちのチームの天才二人組はもう理解したのだろう。



納得の表情を浮かべている。




構わず説明を続ける。




「たぶんなんだけど、なんらかの幻術の類で擬似的に森を創り出したんだと思う。」




「いや、それじゃ戦闘を考えたら危険が大きいわよ。

たぶん精神だけを切り抜かれているんじゃないかしら?

準備さえあればそんな魔法も使用可能だとおもうけど?」




「ええ、あの魔法陣は精神に干渉する類のものでした。

おそらく体は闘技場に横たわっていることでしょう。」




...くそう。



なんだよ。



魔法陣見ただけでわかるのかよ。



確かにハクもレイもアンもいない。



どこ行ったのかとおもったが、なるほど、そういうことなのか。




「ぷーくくく。」




ぶん殴るぞてめえ。



山岡に殺意を飛ばしていると、森のどこかで悲鳴と魔物の鳴き声がこだました。




「...ただの森ってわけじゃなさそうね。」




「そうみたいですね。」




...怖えよ。



なんでそんなに落ち着いてんだよ。




「ぐガァッ」




鳴き声のした方向から草を掻き分けて出てきたのは、中型犬くらいの大きさをした狼っぽい魔物。




「...うぇ。」




「ブラッドウルフかー。

趣味悪いねー。」




狼の見た目をした魔物であるブラッドウルフの外見は、なかなかくるものがあった。




「足場が悪いです。

...逃げます。」




静かに宣言し、早乙女さんは走り出す。




確かに地面はぬかるんでおり、周りは草と木に囲まれており、見晴らしは最悪である。




おとなしく従っておこう。



早乙女さんを先頭に四人で走る。




「ギャうッ、グァ」


「ぐキャァ」




後ろからはブラッドウルフが、心なしか1匹増えてる気がする。



気のせいと思おう。




***




「グァッ」


「ギィゃッ」


「グキィッ」


「ガュルゥ」




...ぜってえ増えてる。




「はっ、はあ、このままじゃジリ貧ね。」




息を切らしながらアリスは呟く。




「...この辺でいきましょう。」




ちょっとした広場に出たと同時に呟く早乙女さん。




そう思った瞬間、早乙女さんとアリスの二人は踵を返し、走り寄ってきたブラッドウルフを一蹴する。




「さっすがー。」




「すげえな。」




4匹いたはずのブラッドウルフはうちのチーム最強ペアに一瞬で屠られた。




ブラッドウルフはやられると同時に霧のように消える。



凝ってるなあ。




そんなこと考えていると、ガサガサと近くの茂みから複数の音が聞こえてきた。




おいおい、勘弁してくれよ。




「ああもう、なんなのよこれ!

聞いてないわよ!」




「本当ですね。

これは少し面倒です。」




辺りには複数のブラッドウルフがにじり寄ってくる。




「もー、虫とかいたら嫌なんだけどー。

勘弁してよねー。」




真顔で全くずれた心配をする山岡。




てか、なんなのこの状況。



意味わかんないんですが。




「どうしてこうなった。」




誰にともなく言い放った言葉に反応したのか、薄暗い森の何処かで魔物の吠える声が聞こえた。




それと同時、集まっていたブラッドウルフが飛びかかってくる。




...早く帰りたい。




願望とは裏腹にこの森から出るのは骨が折れそうである。

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