戦力外な二人
「...付き合ってください。」
運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏が聞こえてくるそんな放課後の学校の廊下。
夕日の光によって照らされ、橙色に染まっている影は二つ。
「...ごめんなさい。」
背の高い影が出した答えに、もう一つの小さい影は背を向け小走りに駆けていく。
その後ろ姿が見えなくなってすぐ、俺は深く溜息を吐いた。
...どうしてこうなった。
始まりは今から一ヶ月ほど前に遡る。
入学式から一週間が経過した頃だった。
驚くべきことに、俺は前世も今世も含めて初めて告白された。
その時の俺は高校生特有の遊びみたいなものかと軽く考え、断った。
それが全ての元凶。
初めて告白されたその後。
またしても告白されたのである。
これがガチもんの告白と気づいたのはいつだっただろうか。
一回目を断ったのに二回目をオーケーする訳にもいかず、ずるずると告白されては振るという作業を繰り返している。
イケメン効果恐るべし、と言ったところだろう。
正直しんどい。
もし一回目の告白を本気と知っていたならば、断ることなどなかっただろう。
今では顔も忘れたあの子は確かに可愛かった。
さっきの子も可愛かった。
断る理由などないほどにみんな可愛かった。
全てはあの最初の一回なのだ。
なぜ断ってしまったのか、あの時の俺をぶん殴ってやりたい。
そんなことを考えながら帰路につく。
「やっほ、また振ったのかい?
罪な男だよ全く。」
無表情な彼は言わずもがな山岡である。
そうだ、こいつにも原因があった。
こいつ、俺のスキルをバラしやがったのである。
【魔法スキル】持ちの男と結婚したい女子は沢山いる。
もし俺が女だったらそうするし。
そんな【魔法スキル】を持ったイケメンが現れたのである。
それも高いレベルで使いこなすやつなんてそうはいないだろう。
そりゃ告白の一つや二つされるに決まっている。
思い出したら腹たってきた。
「うるせえ。
何の用だよ。」
「こわーい。
きゃー、超こわいんですけどー。」
うぜえ。
俺は無視して先を急ぐ。
構っているだけで損をしてしまう恐ろしいやつだこいつは。
「もー、無視しないでよー。
このたらし!」
うるせえ。
こいつ本当にどうしてしまおうか。
「あ、あんた達そんな関係だったの?」
暴力エルフは青い顔をして問いかけてくる。
そんなワナワナ震えんなよ。
無駄に演技うまいな。
てかどっから湧いてきやがったんだこいつら。
「なわけ。
ふざけるのもその辺で勘弁してくれよ。
疲れる。」
「はー、もー冗談通じないなーヌイは。」
本当にこいつは。
「で?
またやるの?」
「当たり前でしょ。
後一週間切ってんのよ?」
何がかというとクラスマッチのことである。
ここ白石高校はこの時期、クラスマッチがある。
結構大きなイベントらしく、様々な種目が存在する。
小さな運動会と言ってもいいぐらいの規模で、その中でも一番注目されるのが《スキルあり チーム戦》である。
《スキルあり チーム戦》はその名の通り、【スキル】を使ったチーム戦である。
一チーム4人で、一クラスにつき二チーム選出される。
クラスマッチの花形と言ってもいい目玉種目である。
その《スキルあり チーム戦》に何故か俺と山岡と暴力エルフと早乙女さんが抜擢された。
ここ最近、毎日放課後はこの四人で集まって練習している。
チーム戦の内容は一人が大将となり、その大将が戦闘不能に陥ると終了というシンプルなものである。
戦闘不能というと危険なイメージが湧くかもしれないが、その辺は全く問題ない。
俺もよく知らないが思いっきりやっても問題ないようにセッティングされているらしい。
つまり、極論だが殺してしまっても死ぬことはないらしい。
特殊なフィールドで特殊な器具をつけることによってそれを可能にするらしいのだが、俺は詳しくない。
もう何でもありである。
「ほら、行くわよ。」
「秘密の特訓へレッツラゴー。」
...息ピッタリかよ。
***
「では始めましょうか。」
俺の心のオアシスこと早乙女さんが仕切る。
場所は体育館の一角。
今日は同じ一組同士で練習試合の予定らしい。
...さっき聞いたんですけど。
同じ一組の第二チームは田中くん、中田くん、中西さん、竹中くんの四人。
通称《中チーム》である。
別に狙ったわけではなく、しっかりとした実力の元で組んだチームである。
本当にたまたまである。
「うし。
始めるか!」
ガタイのいい中田くんが準備運動をしながら言う。
向こうのチームは仲がいいらしく直ぐに整列して待機している。
うらやましい。
俺らはというと。
「ちょっとあんたやる気あんの?
負けたら罰ゲームよ?」
「あ、いいねー。
じゃ、裸でグラウンド100周にしよう。」
「それじゃ可哀想です。
服は着てもらいましょう。」
...言いたい放題である。
早乙女さん、100周は可哀想じゃないの?
くそ、俺の苗字に中がついてさえいれば。
「あのー、そろそろいいかな?」
見かねた《中チーム》の田中くんが問いかけてくる。
ごめんなさい。
「あ、うん。
じゃ、始めよっか。」
「なにあんたが仕切ってんのよ。
うちの大将は瑠璃よ?」
「そーだそーだ。」
うるさい。
いい加減にして欲しい。
「それはすみませんでした。
じゃ、早乙女さんよろしく。」
「はい。
じゃあよろしくお願いします。」
「じゃ、僕が合図するね。
位置についてよーいどん。」
無表情でテンション高く宣言した山岡。
なんでお前が宣言してんの?
お前こっちのチームだよな。
ただの審判です、みたいな顔しやがって。
まあいい、やっと始まった。
今回は模擬戦であるため軽く通すだけである。
初めに動き始めたのは中西さん。
彼女は【魔法スキル】持ちらしく、彼女の周りを水が浮遊している。
綺麗だ。
そんな風に見とれていると、うちの切り込み隊長である暴力エルフさんが走り出した。
何度見ても速いその動きは、長い金髪と相まって閃光のようである。
その切り込み隊長と相対するのは中田くんと竹中くんの二人。
田中くんはその少し後で中西さんを守るような形で構えている。
これを見てわかるように中西さんがこのチームの大将である。
この形が本来のチームなのであるが、うちの大将はというと。
「ちょっと、瑠璃ちゃん。
毎回言うけど君大将だからね。」
「わかってます。
では。」
山岡と早乙女さんの二人のいつものやり取りを聞いて顔を向けると、駆け出した早乙女さんの姿があった。
これもいつもの光景である。
「また二人きりだね。」
「きもい。
寄るな。」
そして残った男二人で試合を観戦するのである。
正直毎回この展開で試合は終了するため、俺と山岡は一回も体を動かしていない。
練習とは何なのか。
もう帰っていいかな。
そんなことを考えながら二人の戦いぶりを観察する。
暴力エルフさんことアリスはまさに暴力を体現したような戦いぶりである。
殴って蹴って叩いて投げて。
男二人が相手だというのに一度も守ることなく、攻めあるのみである。
非常に恐ろしい。
彼女は《魔法使い》と《スキル持ち》のハーフであるが、【魔法】も【スキル】も使えないという特異な存在らしい。
それを本人に言うと超怒る。
どういう【スキル】を持っているか聞いた時に問答無用でぶん殴られた。
理不尽すぎる。
そんな彼女の能力はステータスに極振りしているらしく、無茶苦茶なスペックを誇っている。
これは山岡情報である。
次に早乙女さんだが、アリスとは対照的で非常に綺麗な手際で徐々に田中くんを追い詰めている。
彼女は【剣術】のスキルを持っているらしく刃引きされたレイピアを片手に舞っている。
その軌道は非常に美しく、無駄のない演舞のような華やかさがある。
中西さんのサポートである【水魔法】と相まって幻想的な空間が出来上がっていた。
どっかの誰かとは大違いである。
「うわぁあああ!」
「心でも読めんのかよ!」
アリスと対峙していた中田くんが俺に向けてすごい勢いで飛んできた。
このままだと中田くんが可哀想なので【風魔法】を使って受け止める。
「あ、さんきゅ。」
「いや、ごめんね。
うちの暴力担当が手荒な真似しちゃって。」
アリスからの刺すような視線がすごく痛い。
なんだなんだ。
今度は竹中くん投げんのか。
身構えていると早乙女さんの方で動きがあったらしく《中チーム》の降参が聞こえてきた。
「ふー、本当に強いね。
2体1なのに手も足も出ないよ。」
汗を拭きながら少し太った竹中くんが近づいてくる。
相手が悪いよ。
あんな暴力で出来たみたいな存在、俺だったら対峙した瞬間諦めるね。
「何よ。」
今にも飛びかかってきそうな顔で問われる。
「いや、別に。」
...怖い。
***
「じゃ、今日はこれくらいで。」
そう言って締めるのは我らが大将早乙女さん。
結局その後も練習は続き、今は日もすっかり沈んだ夜。
20時を少し回ったくらいだ。
「あんた達今日も何もしてないじゃないの。
やる気あんの?」
いや、君たち二人が全部やってしまうからじゃん。
「すいませんでした。」
「誠意を感じないわ。
土下座よ。
土下座。」
はい、と地面を指差してさも当然のように指図する彼女。
うぜー。
「はいはい、私が悪うございました。」
そう言って土下座する俺と山岡。
ここで何を反論しようと土下座するのは決まっているのだ。
無駄な労力を使うくらいなら大人しく土下座しとくほうが賢明だろう。
「ふん!
なんか釈然としないわね。
ま、いいわ。」
そう言って去っていく彼女。
自由すぎる。
「では、私もこれで。」
そう言って振り返ることなく帰っていく早乙女さん。
どうしてこうも協調性に欠けるのだろうか。
「また二人きりだね。」
無表情で告げる変態山岡。
もう俺はこの生活に耐えられないかもしれない。




